マネジメント カウンセリング・ルーム
Vol.20
病院全体に横串を刺し
強い組織をつくる

<今月のご相談>以前は広告代理店で働いていましたが、病院に転職し3年ほど経ちました。医事課の仕事なのですが、他部署のサポート業務が増えてきています。他の医事課職員も同じなので自分だけではないのですが、全く業務に関係のない委員会にも出るようになり、話もよくわからずちょっと負担になってきました。

プロセスと成果要因を深掘り
組織全体の流れをつくる

病院の事務部門で働いていると、日々の業務の幅広さに驚かされますね。医事請求や窓口対応だけでなく、電子カルテのマスター管理、診療統計、医療安全ラウンド、委員会資料の作成、さらには部署間の調整役まで、業務領域は次々と広がっていきます。ある病院の総務課長さんが「総務とは『すべて』の業務を行う部署です」と話していたことを思い出します。いわゆる総務業の他に問診票の入力、患者さん案内、医局の先生方の相談相手、電子カルテの管理など、国家資格がいらない仕事の総てに幅広くかかわっていました。

ここまでやっている職員はそう多くはないと思いますが、事務部門が他部門の業務の支援をしながら日々の医療提供を支えているという現状はあると思います。特に中小規模の病院では職員数を増やすことも難しく、「人が足りない」という感覚を抱えながら多岐にわたる業務を進めているのが現実です。

このような状況は、一見すると「負担が大きい働き方」に見えますが、医療にかかわる幅広い仕事に携わることで得られる価値もあるのではないでしょうか。病院の業務は部門ごとの縦割りに見えますが、実際は細かく連動しています。たとえば、医事課で集計したデータは診療実績統計につながり、その統計は看護必要度の根拠となり、診療現場の課題把握にも生きてきます。医療安全ラウンドに事務職員が加わることで患者さんの視点が入り、インシデントの分析と関連することもあります。
このように、日々の“点の業務”が実務レベルでは一本につながり、組織全体の流れをつくっています。

直接患者さんに触れる機会が少ない事務職員も、医療専門職とのかかわりのなかで医療提供の背景を知り、患者さんの思いに触れることができ、結果として、診療実績への理解が深まります。単に数字だけではなく、プロセスと成果の要因を深掘りすることができるようになるのです。

今ある資源を価値に変え新しい専門性醸成に活かす

とはいえ、忙しさに押しつぶされそうになる瞬間もありますよね。そんな時は起業家が意思決定の際に用いる「エフェクチュエーション」という考え方で現状を見るのも良いと思います。
この理論には“手中の鳥(Bird-in-Hand)”という原則があります。「足りないもの」ではなく、「今手元にあるもの」を資源としてとらえる発想です。病院事務の現場には、実は多くの“手中の鳥”が存在しています。複数領域の業務による経験、多職種との距離の近さ、部署を横断して築いてきた人脈、現場の流れを丁寧に追ってきた実感值――。これらは、病院の外にいては得られない価値であり、かけがえのない資源になります。

今ある資源をどう組み合わせどう価値に変えていくか。この考え方は病院事務の働き方ととても相性が良いと感じています。複数領域をつなぎながら働くという経験は、医師・看護職・コメディカルなど多くの専門職とかかわる日常そのもののなかで磨かれていきます。

そして、多職種連携が欠かせない現在の医療で、部署を横断して働く事務職は“ハイブリッド型の専門性”を持つ貴重な存在になっています。単一の領域にとどまらず制度・情報・現場・システムを横断的に理解することで、組織全体を支える新しい専門性が育っているのだと思います。

多岐にわたる業務を担うことは確かに重さがありますが、病院全体に横串を刺し、柔らかくも強い組織をつくる重要な役割であり、これからの病院事務職が持つ専門性なのだと、私は思っています。(『最新医療経営PHASE3』2026年1月号)

いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民問企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に「医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」「経営企画部門のマネジメント」(ともに日本医療企画)ほか

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