“その人らしさ”を支える特養でのケア
第96回
栄養情報とともに
口腔環境も情報連携していこう

栄養情報連携が重要視され、介護保険でも栄養情報連携に加算算定が可能です。読者の皆さんの施設での情報連携の取り組みは、いかがでしょうか。今回は、栄養情報連携表の情報に「プラスできるといいな」と感じた出来事を紹介します。

情報連携のなかで歯科情報がないがしろに

Aさんは尿路感染症が原因で1カ月ほど入院し、当施設に再入所しています。
残念ながら、栄養情報連携がなかったために生活相談員による退院時の情報収集や看護サマリー等から情報を得て対応しました。再人所後のAさんの様子から介護職員へ食事介助の注意事項について説明し、栄養ケアを開始しました。

「Aさんの歯が1本なくなっているんだよね。入院中に抜けたのかな……」
再入居後のAさんをアセスメントした歯科衛生士が執務室に戻ってきて話しだしました。
Aさんは、入院前から咬合力が弱く咀嚼に時間がかかっていたこと、全身の持久力の低下で疲れやすく食事摂取量が低下していると考えられたため、食事時間を短くする目的で刻み食を提供しました。噛まずに食べられる食形態だったことから、私自身は歯のことに意識が向いていませんでした。

再入所後も食材を細かくする必要がない食形態のため「歯がなくなったことによる機能的な問題はない」と歯科衛生士は言います。しかし「いつ抜けて、抜けた歯はどこにいったのか、飲み込んでいないか」など、「気になることがいくつかある」と話してくれました。「退院時に医療機関から届いた書類に、歯のことは何も書かれていないんだよね。病院の看護師さんは歯がなくなったことに気づいていないのかな」
歯科衛生士がけげんな顔でこう話すことに、私も苦笑いを返すしかありませんでした。

ご利用者の入居時を振り返ってみても、歯科関連の情報はほとんどありません。義歯の使用についても、事前に生活相談員が収集した情報のなかに「義歯の利用ありなし」の記載があるだけで、医療機関など、自宅以外から入居される場合でも歯科関連が詳細に書かれた書類が届くことはありません。入居して初めて、口の中がわかるのです。

管理栄養士がもっと深くかかわるべきこと

昨年から、ご縁があって上越歯科医師会様の多職種連携会議に参加させていただいています。
最初は会議の内容を聞き取るだけで精一杯でしたが、業務中に感じた疑問や、施設内では答えが出なかったことを質問したり、他施設の取り組みなどをお聞きしたりと、地域から関連の多職種が集まる会議の間醐味を経験しています。私事ですが、10月号で紹介した健康咀嚼指導士の勉強にも役立っていて、本当にラッキーでした。

会議では毎回グループワークがあるのですが、ここで交わされる意見のなかで、管理栄養士がもっと深くかかわるべきだと思う部分も多々あります。
最近参加した会議のグループディスカッションでは、在宅ケアにおいて、入院などでしばらく義歯を使っていないうちに合わなくなってしまったが、多職種が連携して新しく義歯を作成したことでご本人の気持ちも前向きになり、食上げができた事例が紹介されました。
また、義歯が合わなくなったことで、ご本人は食べたい希望があるが家族は食形態の調整に対応できずに困ってしまうと、参加者の介護支援専門員から問題提起がありました。
これに対して、歯科医師から次のようなコメントがありました。

「明確な理由もなく義歯を使わなくなり、そのまま長期間にわたって使用していないケースがある。義歯を使わないことで食形態が低下し、その結果、口腔機能も衰えてくるという悪循環に陥る。義歯があるなら使うべきであり、使えない明確な理由がある場合には歯科医師に相談する必要がある。咀嚼から嚥下の連動した流れがうまく機能しているかどうかを評価することが重要である。嚥下の問題ではなく、歯がなくて噛めないために食べられなかったという事例も経験している。環境要因はさまざまに存在するが、義歯の使用を諦めずに取り組むことが求められる。入院中に義歯を使用しなかった場合でも、退院後にどのように『食べる』のかを想定し、連携して支援する必要がある」

このコメントを聞いて退院後の食生活を考えた時、「どんなものをどう食べるかを検討するのは管理栄養士の仕事だよなぁ」と反省。入院中に義歯の使用を再開して食形態を調整し、家族に調理指導をして退院……という流れが理想なのだろうと思いました(すでに実践されている医療機関もあると思います)。

口腔環境に注目することも管理栄養士の大切な仕事

一方で、義歯を使用していない場合「いつからどのような理由で使用しなくなったのかということが情報連携されていると、義歯の使用が再開しやすい」と知りました。
当施設の入居の状況をみても、歯科に関連する情報提供が医療機関からもたらされることはほとんどありません。歯は食事をするために欠かせない器官であるはずなのに、なぜか注目度は低いように感じます。

栄養情報連携表に嚥下機能については記載したとしても、咀嚼機能についてはどうでしょうか。嚥下機能と同様に咀嚼機能や歯(義歯)の状況についても、ご利用者の食べ方の様子を伝える一環として、歯科に関連する内容が記載されていると連携がスムーズなのではないかと考え、栄養情報連携表に口腔機能についても記載するようにしています()。

表 栄養情報連携表に記載する歯科関連情報の例

歯(義歯)の有無

  • 半分以上歯がないのに義歯を使っていない場合はその理由
  • 義歯を使っていない期間

咀嚼機能の問題点

  • 義歯の不具合(義歯安定剤の使用の有無もふくむ)
  • 歯の動揺や痛み
  • 舌の動きが悪い、噛む力が弱いなど歯以外の問題点

これらは、ミールラウンドや口腔ケアを行っている職種との連携で、日常的に情報収集することが可能です。
栄養マネジメント強化加算のアセスメントに「歯(義歯)のない状態で食事をしている」という項目があることから、管理栄養士も口腔内の状況や咀嚼機能に注目することが望まれていると感じます。

歯や義歯の状態は「どう食べ、どう生きるか」というご利用者のQOLにつながる重要な事項です。使える歯があることでご利用者の「うれしい」が増えるのなら、少し情報収集の手を広げ連携していきませんか?

今回、この文章をご監修いただきました、上越歯科医師会在宅歯科医療連携室室長・田中記裕先生をはじめ、関係者の皆さまに、この場をお借りして御礼申し上げます。(『ヘルスケア・レストラン』2025年12月号)

横山奈津代
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る

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