Dr.相澤の医事放談
第69回
機能により異なる患者経験価値
地域のための病院経営を
人口減少が加速するなか、地域の病院はその特性に応じて患者に寄り添い、患者経験価値を向上させる取り組みを継続している。しかし、既存の診療報酬では十分な評価がなされていない点に課題がある。診療報酬改定に向けた議論が進むなか相澤孝夫先生は、過去の延長線上の手直しに日本の医療の未来はないと述べる。
一般企業同様、病院でもクラウドファンディングに取り組むところが増えてきました。クラウドファンディングとは、自身の活動や夢などを発信することで共感した人々や応援したいと思ってくれている人々から広く資金調達を図る仕組みです。病院でも医療機器や救急車などの物品、あるいは医療施設の更新などで活用される例が多いようです。
私は、クラウドファンディングを素晴らしい取り組みだと考えています。理由は、広く市・県民あるいは国民の皆さんが病院を理解していただくきっかけになること、そして、皆さんからの「頑張ってくださいね、応援しています」という気持ちをいただくことが病院職員の士気向上につながるからです。
私が最高経営責任者を務める相澤病院(長野県松本市)では、2台ある血管撮影装置の1台が2026年に保守契約期間を終えます。残る1台だけでは、いざという緊急時に迅速な対応ができません。
本来であれば病院単体で新しい装置を導入すべきですが、病院経営が厳しい昨今、当院もご多分に漏れない状況ですので、クラウドファンディングに取り組みました。おかげさまで10月に目標金額1500万円を達成することができました。本当にありがとうございます。
この血管撮影装置は、脳卒中や心筋梗塞の治療や検査のためのもので救急には不可欠です。こうした機材が病院には数多くあることを皆さんに理解していただいたことこそが非常に意義があるのではないかと、私は考えています。
患者経験価値の向上が大事
一般に、病院に対する信頼感や安心感は容易に形成できるものではありません。病院のことを知っていただかなければ信頼関係は成り立たないでしょう。ですから、来院していただいた患者さんに誠心誠意尽くし、適正な治療を提供すること、そして患者経験価値を向上させていくことが大切だと考えています。
この患者経験価値とは、医療サービスを受けるなかで患者さんが経験するすべての事象のことを指しており、多様な患者ニーズへ対応することをめざしたものです。クラウドファンディングで寄付が集まるのは、この患者経験価値が高まっているからと言えるでしょう。
患者経験価値を高めるうえで役立つのが、DXや生成AIです。患者さんが求める診察や治療という目的をできるだけ早くかつ的確に行うための仕掛けともいうべきもので、限られた時間の有効活用等に有効です。
ただし、患者経験価値は、病院の機能によって違いが生じる点に注意が必要です。
たとえば地域密着型病院ならば、外来と訪問診療、そして在宅医療をきちんと提供し、地域の方々に日常的な医療を行い、かかりつけ医機能を担うような信頼関係を構築しておくことが大事になります。また、その地域密着型病院で入院患者が発生した場合には入院機能がある病院と連携し、患者さんが円滑に流れる仕組みを構築しておくことが重要です。つまり、その地域で暮らす安心を担保することが地域密着型病院の役割と言えます。
一方、急性期型の病院であれば、患者さんが円滑に紹介で来る医療機関連携をどのように構築しておくかが重要になります。その際に大切なことは、各科対応ではなく「入り口」を一つにしていくこと。各科対応だと対応にばらつきが生じやすくなるからです。
わかりやすく言うと、急性期型の病院と連携している病院は「道路という廊下」でつながっていると理解したらよいでしょう。特別な治療等が必要なときに「道路という廊下」を通りスムーズに流れるようにしておくこと。このような仕組みと日頃からの関係構築が大切で、これが協働で地域を守るということだと思います。そのためには、急性期型の病院は24時間365日体制で患者を受け入れることが求められ、当然、医師や看護師、コメディカルもすべてそろえておく必要があるのです。
診療報酬改定の行方は
今まさに診療報酬改定に向けた議論が進んでいますが、過去の延長線上の手直しになってしまうのではないかと心配しています。それでは日本の、そして医療の未来はないのではないかと。今一度、十分なデータに基づいた分析を行い、将来に向けたビジョンを国が示したうえで、本当にどうすべきかを真剣に議論すべきです。
地域のための病院医療について、これからも真摯に考えていきたいと思います。(『最新医療経営PHASE3』2026年1月号)
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

