お世話するココロ
第183回
健康診断のあれこれ
職場で必ず受けなければならない職員の健康診断。夜勤に従事する職員は年2回、それ以外の人は年に1回受けています。
健康診断の思い出
皆さんの職場では、定期健康診断はどのような形で行われていますか。
今の職場は10月初めに委託を受けた外部の健診クリニックから医師や看護職が来て、数日間で全員が受けるようになっています。
敷地に健診車が駐められ、レントゲンはそのなかで実施。採血や各種の測定は会議室が会場となり、毎年、滞りなく行われています。
交代勤務の看護職の場合、全員が受けられるよう勤務表を組むのは管理職の腕の見せ所。健康診断のある日は業務に支障が出ないように日勤を多めにつける分、前後の勤務者が少なくなるのはいたし方ないところです。
ところで、以前、総合病院に勤務していた時、すべての検査は病院内でできました。一度に行える人数には限りがあるため、職員の誕生日月が健康診断の時期。毎月誰かが健康診断を受ける、そんな形だったのです。
月初には、その月に健康診断を受ける人宛てに各種書類や採血管などが届きます。採血は職場の同僚に頼むのですが、血管が細い人は上手な人に、太い人は新人の練習台になるのが、暗黙の了解でした。
私が新人時代も先輩の腕を借りてきたので、その恩返しはしなければなりません。
私は血管がかなり太いので、練習台としてはお役に立てたんじゃないかな。採血が苦手な人でも一発で血管に入り、以後、自信をもってできるようになった人もいたんですよ。
やっぱり、成功体験って大事。今となると懐かしい思い出です。
健康診断のありがたさ
若い頃には面倒なだけだったこの健康診断も、40代になる頃から、そのありがたみがわかるようになりました。何かと異常が見つかり、早期の対応ができたからです。
前の病院は35歳以上を対象に、胃の検査として透視と内視鏡のいずれかの選択が可能。透視で異常があれば確実に内視鏡をしなければならないため、私は内視鏡を選びました。
この検査で慢性胃炎が見つかり、追加の検査でピロリ菌が陽性と判明。薬物療法で除菌できたのは、とてもラッキーなことでした。
それというのも、ちょうど40歳前後の頃から、胃がんや大腸がんになる友人が出始めたからです。
検診の検便で潜血陽性だったために大腸内視鏡を行ったところ、大腸がんが見つかった人。胃透視でポリープが見つかり胃内視鏡を行ったところ、ポリープとともに早期の胃がんが見つかった人――。
いずれも、健康診断を受けたからこそ早期発見が可能だった、がん。無事手術で完治し、今も元気にしています。
もちろん、がんだけではありません。糖尿病や高脂血症も、長期にわたればさまざま余病を併発します。早期に発見して食事療法や薬物療法を始めるに越したことはありません。
逆に、自営業や専業主婦の場合、自治体の健康診断こそあるものの、本人の自覚に委ねられます。なかには健康診断を受けず、病気の発見が遅れる人もいるのです。
私自身も、決して褒められたものではありません。職場で何がなんでも受けるように言われる健康診断こそ受けますが、それ以外はつい、受けずじまい。
自治体から連絡が来る乳がん、子宮がんの検診は、かれこれ3年ほど受けていません。あの緊張と痛みがなんとかなれば、もう少し受ける気になるのですが。
改めて、職員健康診断のありがありがたみを感じます。
侮れない検便
そんなにもありがたみを感じている職員健康診断なのに、今年は任意の大腸がん検査について、申し込みを忘れてしまいました。
行う内容は検便。2回分の便を少量ずつ容器にとる簡単な検査ですが、これが意外に、スクリーニング検査として有用なのです。
思えば、今は亡き母が大腸がんと診断された時も、最初に受けた検査は検便でした。
突然の下痢による失禁、絵の具のような細い便などの症状があり受診して検便を行ったところ、潜血陽性。すぐに大腸内視鏡を受け、大腸がんが見つかったのです。
実はこの時まで私は「検便で何がわかるのか」と思っていました。理由は、食べた物によって結果が影響されるという情報が以前からあったから。特に「肉を食べると潜血陽性になりやすい」と言われていたのを、ずっと信じていました。
今現在、この点について検索してみると、AIが以下のように答えてくれます。
「便潜血検査の際に一部の食品が結果に影響する可能性があります。現在主流の大腸がん検診の便潜血検査では、ヒトヘモグロビンに特異的な検査が用いられるため、以前は制限があった赤身の肉や鉄分の多い食品も影響しなくなっています」
母が大腸がんとわかって手術したのは2005年11月。今から20年前になります。当時の検査の精度は正確にはわかりません。
しかし、検便で陽性とわかった際、医師からは「症状があって潜血陽性なら迷わず内視鏡です」と言われました。
この時「検便は侮れない」と思った感覚は、今も忘れられません。以後、私は以前にも増して、職員健診では指示どおりきちんと検便を提出するようになりました。
母はその後膠原病が原因で亡くなりましたが、大腸がんは最後まで再発せず。やはり、早期に対応できて良かったと、今も受けた治療に感謝しています。
そんな大事な検便の申し込みを忘れてしまうなんて。これはまずいと思い、締め切りを過ぎた直後に上司にお詫びして、追加で申し込みをさせていただきました。
いつもと違うなりゆきに注意
ところが今年は、検便にはとことん見放されるというか……。何かの手違いがあり、検体をとる容器が私には配付されませんでした。
それに気づいたのが、検体を提出する健康診断の2日前。自宅で「さあ、検体をとる準備を」と思って容器を取り出すと、そこにあったのは検便ではなく検尿の容器……。
結局、翌日の休みの日に職場に行って予備容器をもらいました。
そこまでせず「かかりつけのクリニックでお願いしてもいい」。そんな気持ちもあったのです。
それを押しとどめたのは、<この流れの悪さって、なんか不吉>という、何とも言えない後味の悪さでした。
亡き母が運良く検査を受けられたのに反し、肝臓がんを患った亡き父は、定期的に受けていた造影検査を1年飛ばした結果、予想以上にがんが進行。治療が難しくなったという経緯があります。
結果的には対症療法で十分延命できたので、娘として悔いはありません。ただ、父の体調や検査の空きなど、いくつかの事情が重なって検査を飛ばしたいきさつを思うと、スムーズに検査が受けられない状況は不吉……。そんな気持ちにとらわれてしまいました。
私は長年多くの患者さんとかかわるなかで、病気のなりゆきには運が大きくかかわっていると考えています。
亡き父の経験以外にも、たまたま検査を1年飛ばしたら進行がんが見つかってしまった。そんな思者さんの声を多く聞いています。
飛ばした理由は、忙しさやうっかり、「大丈夫だと思った」など、人それぞれ。共通するのは、普段とは違うなりゆきなんですよね。
検査そのものも大事ですが、いつもと違うなりゆきには注意が必要。しばらくは、慎重に行動したいと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2025年12月号)
みやこ・あずさ●1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業後、2009年3月まで看護師としてさまざまな診療科に勤務。13年、東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。博士(看護学)。精神科病院の訪問看護室勤務(非常勤)を経て、同院の慢性期病棟に異動。長年、医療系雑誌などに小説やエッセイを執筆。講演活動も行う。看護師が楽しみながら仕事を続けていける環境づくりに取り組んでいる。近著に『まとめないACP 整わない現場、予測しきれない死』(医学書院)がある

