Dr.相澤の医事放談
第68回
医療の高度化や質の向上に
見合った診療報酬体系を
2040年にかけて、年間100万人にも達する急激な人口の減少は、社会経済全体に大きな影響を及ぼすことになる。日本病院会の会長を務める相澤孝夫先生は、今後の医療提供をどうしていくか、今こそ真剣に考える必要があると警鐘を鳴らす。
人件費や物価の上昇が主な赤字要因ではない
昨今、病院の赤字が大きな問題となっています。理由は、医業費用が医業収益を上回っているからですが、人件費や物価の上昇が主な原因かというと、全く違うのではないかと考えています。そうではなく、われわれが提供している医療に見合った診療報酬体系になっていないことが大きな問題だと考えています。特に、医療の高度化や進歩・発展への対応が不十分であること、このことこそが根本的な問題ではないかと考えています。
政府の骨太の方針2025ではいわゆる財政フレームが見直され、「社会保障関係費の高齢化による増加分に相当する伸びに、経済・物価動向を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」と記載されました。しかしこれでは、物価高騰には対応しますが、「医療の進歩や技術の高度化には対応しない」と言っているのとほぼ同義ではないでしょうか。私は、これは非常に危険なことで、わが国の医療の進歩や発展を妨げてしまうのではないかと強く心配しています。
病院の収益を分析するには、病院を機能別に分けることが欠かせません。実は、急性期における「7対1病床」が全体の8割以上を占める病院と4~6割程度の病院を比較すると、費用構造が大きく異なります。前者は医業収入の約3割が薬剤などの材料費ですが、後者の場合は2割5分ほどです。
この差は何かというと、1つが医療の高度化に伴う薬剤の高騰です。そして2つ目が、保険償還のない非償還材料が材料費の約半分を占めていることに由来します。また、材料費の内訳をみると、単価が上昇している材料ももちろんありますが、一方で、単価は下がっているものの使用量が増加した品目が意外と多い。つまり、材料費が上昇する原因は医療の高度化や医療の質の向上にあるのです。
こうした変化に対応した診療報酬体系であるべきですが、残念ながら、そうはなっていないのではと考えています。結果、高度な医療を提供する病院ほど経営が苦しくなるというわけです。
2040年に向け今から議論を始めたい
現在、「大学病院が大変だから」と、文部科学省と厚生労働省が一緒になって資金を投入する話がありますが、一時しのぎで国の姿勢が何も変わらなければ、どんどん赤字が増えていくことになります。私は、今こそ国の医療に対する方向性を根本的に変えるべき時にきていると考えています。
医療が進歩して新たな技術が生まれれば、患者さんに良い医療を提供することができますが、それにはお金がかかります。もしかすると、医療機関も国民も行政も、それぞれ少しづつ我慢しなければならないのかもしれませんが、そのような議論はなされていません。判断材料をきちんと提示したうえで自分事として、あるいは自分の子どもたちや親の問題だと考えて議論することが大事なのです。
まず1つ目は、患者さんの医療の負担をどうするかです。今議論されているのは、OTC類似薬。たとえば、医師の処方箋で市販製品と同じ湿布薬を購入する場合がありますが、それをこのまま継続していいのだろうかと考えます。患者さんがご自身で判断されて、ごくごく軽微な症状については何らかの自己負担をしていただく必要があるのではないでしょうか。
2つ目は、高額な医療に対する考え方です。ものすごく高額な医療を提供する場合、今の医療制度のなかに収めるのではなく、この国で暮らしている国民福祉の一環として別の財源を用意する選択肢もあり得るのではないでしょうか。国民皆保険制度とは、多くの方々からお金をいただいて多くの皆さんでカバーし合う制度です。それよりはむしろ、国民福祉の一環として全額公費で負担する、診療報酬から外すという選択も一案ではないでしょうか。
3つ目は、民間保険の活用です。複数の保険に加入していれば支払う金額より補償額が増えることもあります。こうした民間保険を活用することで公的保険の負担を減らすという考え方もあるでしょう。
ほかにも考えられますが、複数の方法を組み合わせることによって皆保険制度の基盤を維持していくような取り組みが、今まさに求められているのではないかと思います。早々に議論を始めないと40年に間に合わなくなる。そのような危機感を抱いています。
先日、高市早苗内閣が発足しました。ぜひ、ともに議論を始めていただきたいと考えています。(『最新医療経営PHASE3』2025年12月号)
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

