“その人らしさ”を支える特養でのケア
第95回
飽きずに食べ続けられる献立を考える
栄養士の皆さんに敬意を表して
この連載のテーマは「その人らしさを支える特養のケア」ですが、今回はちょっと仕事を離れて、私が好きな作品を紹介します。勉強成分は一滴も入っていません。ご了承いただきお読みください。
食事を通じて嬉しそうな姿を見ることが好き
さて、世の中にはさまざまなコンテンツがあります。漫画、小説、ドラマ、アニメ、映画――。ほかにも、最近は動画配信サイトでいろいろなものを見聞きすることができます。
これらに触れることで、非日常感を体験したり、登場人物とともに感情が揺さぶられたりしてリフレッシュにつながる方も多いのではないでしょうか。
私は、子どもの頃から本を読むのが好きでした。多様なジャンルのものを読みましたが、特に栄養士を志してからは、「食べる」につながる内容が多かったと思います。10代、20代の頃は「まるかじりシリーズ(東海林さだお)」が好きで、電車での移動のお供に文庫版を持ち歩いていました。漫画作品では、老舗の和菓子屋の後継者の三姉妹の話や、細菌が見える農大生の話などを何度も繰り返し読みました。
最近では、動画配信サイトでさまざまな動画を見るようにもなりました。好奇心の赴くままに拝見しますが、やはり好きなのは「食べる」作品です。
私はずっと「食べることが好き」だと思っていましたが、数年前から、「自分が食べることより誰かが食事を通じて嬉しそうにしているところを見るのが好きなんだな」と気づきました。媒体ごとに表現方法もさまざまですが「美味しそうだな」とか「嬉しそうだな」と思いながら拝見し、自分も幸せな気分になっています。
「入院中の食事」の描写が気になった3作品
多様なコンテンツに触れるなかで、いくつかの「入院中の食事」について描写された作品に出会いましたので、紹介します。
1つ目は、ドラマ「孤独のグルメ(テレビ東京)」。主人公の井之頭五郎が入院中に餃子が食べたくなり、退院直後に中華料理屋に駆け込むという物語の回です。
井之頭五郎がどのような疾患で入院したのかは覚えていませんが、どうやら、常食を提供され食事制限はない様子。食事中に退院許可を伝えに来た主治医と病院の食事について会話します。その後、「退院後に餃子を食べたい」と言う井之頭五郎に主治医が、「餃子には酢とこしょうがいいよ」と自分の食べ方を勧め、退院後の中華料理屋でその食べ方を試してみる――と続きます。
その時の餃子を食べる井之頭五郎の姿が本当に美味しそうで、餃子は“何もつけない派”の私に「酢ととこしょうで食べる餃子もいいかも」と思わせてくれました。
2つ目は、「きのう何食べた?(講談社・よしながふみ)」。主人公のひとり、寛史朗の母親が入院することになり、しばらく一人暮らしになる父親をサポートするよう母親に頼まれるところから物語は始まります。
予定手術で入院する母親は、一人になる夫が食生活に困らないように宅配弁当を手配したり、冷凍庫につくり置きをします。訪問した史朗は、父親が一人できちんと生活していることに驚きつつ、料理ができない(と思われる)父親に「おひたしとかつくろうか?」と提案。しかし、それを聞いた父親はカッと目を見開き「何かパリッとしたものを買ってきてくれ!冷凍も宅配弁当も何もかも“ぐんにゃり”しているんだ!」とまくし立てます。
その後、母親は無事に退院。快気祝いは家族でホットプレートを囲んでの焼肉です。史朗は「お寿司とかじゃなくていいのか」と聞きますが、母親は「病院の食事はあっさりしてて健康的だったから、肉から出た脂まみれの野菜が食べたかった」と話します。
印象的だったのは、父親のセリフです。「何もかもぐんにゃりしている」という食事は、変化がなくて物足りなかったのだと感じます。この話を読むたびに「ウチの給食も、ほとんどがぐんにゃりしてるよなぁ……」と反省しています。
最後に紹介するのは、「さよならごはん(小学館・西娟子)」。70歳で一人暮らしの平川健一は入院中。ケンカ友だちのようにみえるアラサー看護師に「病院の食事がまずい」と愚痴をこぼしながら、自分が食べてきた美味しい思い出を語る物語です。
平川健一が毎回鮮やかに思い出を語り、文句を言いつつもきちんと傾聴する看護師のホスピタリティに頭が下がります。看護師が最後にうんざりした様子で「早く退院して食べられるといいですね」と平川に声をかけることで、「あ~、入院中だったっけ」と私も現実に戻るのです。
この物語の好きなところは、「何を食べるか」より「誰と食べるか」が大切であると感じさせてくれるところ。平川健一が語る食べ物の思い出は「高価で豪華なものを食べた」というものではありません。どこでも食べられるようなものですが、その食事にまつわるエピソードがあって、思い出の味を“キラキラ”したものに変えているのだと思うのです。
病院の食事が美味しくないあて馬のように使われて……
紹介したものはどれも私の好きな作品です。でも、病院の食事が美味しくないものとして物語のメインとなる、食事の“あて馬”のように描かれています。
動画配信サイトでよく見かける大食漢のお笑い芸人さんの動画でも、その芸人さんが入院した際に「初めて食事が苦痛だと思った」と話題になっていました。動画を見ると、のどを手術されたとのことでしたので「食事のたびに痛みがあったのかなぁ」と推察しましたが、うっかりすると「マズイから」と思われてしまいそうです。
なんか、悔しいなぁ。
病院(介護施設)の食事は管理栄養士が管理していて、栄養素のバランスを意識して構成されているので、寛史朗の母親が言うように「健康的」です。味はちょっと薄めだけど、世の中には刺激的な味が溢れているから比較されると負けちゃうのでしょう。あっさりなのも、同じ理由です。世の中に「揚げバター」なるものがあると知った時は、目の玉が飛び出るぐらい驚きました。
食事の環境はどうでしょうか。見ず知らずの人との食事が苦痛な場合もあるかもしれません。そして何より、病気の治療中は何を食べても美味しくないのかもしれません。
管理栄養士になって四半世紀が過ぎました。この間、検査や職員食で病院や施設の給食を食べてきました。当然ですが、おいしいことのほうが多いです。予算も栄養量も調理方法も限られたなか、飽きずに食べ続けられる献立を考えている読者の皆さんに敬意を表して、今号を閉じたいと思います。
最後まで雑談におつきあいくださり、ありがとうございました。(『ヘルスケア・レストラン』2025年11月号)
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る

