ケーススタディから考える診療報酬
第38回
身体拘束最小化の取り組み
~最新NDBからの学び
2024年度診療報酬改定では入院基本料の施設基準に「身体拘束の最小化に向けた取り組み」が追加され、経過措置が25年5月末で終了になりました。以前から認知症ケア加算の届出を行っていた医療機関は多いものの、その姿勢は医療機関によりさまざま。今回は、身体拘束最小化に向けて取り組みを強化したいと考えている身体拘束最小化チームと、協力体制を取りにくい医療安全委員会との間で悩む経営企画室のお話です。最新NDBから認知症ケア加算における身体拘束の割合とともに、院内での対策について考えていきたいと思います。
ケース:身体拘束を最小化したいのは共通認識だが
*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)
関東圏にある300床規模の急性期病院のお話。この病院では2024年度改正で登場した身体拘束最小化に向けた取り組みに課題を抱えています。関係する部署間で主張が異なることに起因しているようです。
経営企画室「身体拘束最小化の取り組みが入院基本料の原則に入ったので取り組みを強化したいと考えています。認知症ケア加算では身体拘束を行うと減算になりますし、看護補助体制充実加算についても加算1である当院では、身体拘束を行っている場合は加算2に減算されることになるため、収入の観点からも身体拘束の最小化にさらに取り組む必要があると思っています。当院では認知症ケア加算2を算定しています。本当は加算1の届出を出したいところなのですが、チームとしての動きが取りづらかった背景があり、今回の改定が前向きな改善の背中を押すものとして期待していましたが……」
筆者「どのような悩みが発生したのですか?」
経営企画室「新しく発足した身体拘束最小化チームと医療安全委員会とで主張が異なっているのです。
身体拘束最小化チーム:患者の意思を尊重し、身体拘束をしたくないという意思が確認できる場合にはいかなる身体拘束もしないよう同意書で確認できるようにすべきではないか。
医療安全委員会:身体拘束をしないにこしたことはないが、身体拘束は身体を保護することを目的として行われているもので、不必要に行っているわけではない。身体拘束を行わないことにリスクがある場合、身体拘束を行うこともやむを得ないと考えるべき。
経営企画室「どちらの主張も理解できないものではありません。ですが、実際に院内を見て回ると『本当に必要なのかな……』と思う身体拘束の場面に出くわすこともありますし、そう語る医療従事者の声も聞きます。時代の流れとして『身体拘束は最小化していく』という方向に舵を切っているチームの意向が反映されるような改善に取り組んでいったほうが良いと思うのですが、歴史ある委員会に対してものを申すことが難しいと感じています」
筆者「そうした状況ですと、院内で一丸となった改善というのは困難ですね。実際に、貴院での認知症ケア加算における身体拘束の割合は5割近くある状態が続いています。こちらに、全国のレセプトデータを集計したNDBから最新の令和5年度の認知症ケア加算における身体拘束の割合について、都道府県別に示したものをお示しします(図表)」
図表 令和5(2023)年度認知症ケア加算・身体拘束算定率
第10回NDBオープンデータより筆者加工
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177221_00016.html)
ケースの病院は、図表と比較しても身体拘束の割合は非常に高く、時代の流れから考えると早急な対策が必要です。そして、加算別の割合を見ると、他職種チームが必要な加算1を算定しているほうが身体拘束の割合が低くなっていることがわかります。チームも委員会も、いずれも身体拘束は最小化したいという思いは同じだと思います。ただ、お互いが歩み寄らない限り、このケースの病院が望む結果は難しいと推測します。
こちらのケース、どのような感想を持ちましたか?いろいろな医療機関で身体拘束に関して意見が食い違うことは多々起こっていますし、そうした場面に立ち会うこともあります。誰も身体拘束を積極的に行いたいわけではないのですが、人材不足から十分な見守りができない状況下、「事故を防ぎながら身体拘束の最小化なんてできるはずがない」という声も少なくありません。ただ、第三者としていろいろな職種や立場の皆さんとお話しすると「こんな工夫はできるのではないか」という意見もたくさん出てくることを実感しています。ケースで示したように、さまざまな意見が取り入れられる環境であるほど身体拘束最小化の結果はついてくると考えています。
皆さんの病院経営に少しでもお役に立ちましたら幸いです。(『最新医療経営PHASE3』2025年8月号)
結論
誰もが身体拘束を最小化したい
意見を統合させることでより良い結果につなげよう
株式会社メディフローラ代表取締役
うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立

