栄養指導で”あるある!こんなこと”
第141回
健康長寿の秘訣は??
~92歳の食事から学ぶ~
前号に続き、近隣の村へ保健指導に同行したエピソードをご紹介します。保健師と一緒に伺ったのは、ひとり暮らしの92歳、女性です。彼女のお話を聞くと、健康維持につながる驚くべき食生活が見えてきました。
笑顔が絶えないEさんに元気の秘訣をリサーチ
Eさんは身長157cm、体重61.0㎏、BMI24.7kg/㎡と、この年齢の方にしては、やや大きめの方でした。
健康診断では高血圧がD判定(治療中)、糖尿病もD判定でしたが血糖も空腹時100mg/dl以下、HbA1cは5.8%と大変コントロールのよい状態でした。
保健師:Eさんこんにちは、お邪魔します
Eさん:は~い、どうぞ~
田村:失礼します
Eさん宅は真新しい平屋で、玄関からすぐにリビングにつながっています。大きめのこたつにEさん専用のいすが置いてあり、玄関の正面にEさんが座っておられました。その後ろにはカウンター式のアイランドキッチン、冷蔵庫は2台、電子レンジはカップボードのところにあり、洗った炊飯窯なども見え、日頃から調理している様子が一目でわかりました。
保健師:Eさん、この前お話した管理栄養士さんです
田村:初めまして、田村です。Eさん、92歳!お元気でいらっしゃいますね~
Eさん:お陰さまで……来月の誕生日で92歳になります
田村:あら失礼しました。現在はまだ91歳ですね
Eさん:あと10日ちょっとなので
挨拶をした限りでは、耳も遠くないし、認知の傾向もほとんどなく、驚くほどしっかりされていました。
すると……。
Eさん:ちょっと待ってね、今お弁当が届いたみたいで
そうおっしゃるとすぐに玄関の呼び鈴が鳴りました。受け取りに立ち上がって動く姿はややおぼつかないものの、それでもしっかりされています。
田村:宅配、ご利用されてるんですね
Eさん:週に2回だけね。月曜と水曜
田村:見せていただいてもいいですか?
Eさん:どうぞ~
差し出されたお弁当をふたの上から見せていただくと、ご飯とさまざまなおいしそうなおかずがしっかり入っていました。
保健師:村の中華料理屋さんにお願いしてつくってもらっています
田村:200円って書かれてますが、これで200円ですか?
Eさん:本当は500円か600円なんでしょうけど、村で負担してくれて、私の負担金は200円なんです
田村:それは素晴らしい
Eさん:ありがたいんだよ、週2回でも助かるね~
田村:ちなみに、今届いたお弁当は1回で食べちゃいますか?好き嫌いとかはありますか?
Eさん:あまりないのよ。だからだいたい食べちゃう。量もちょうどいいですよ
田村:そうですか。そしたら宅配以外はご自身で調理されてるんですか?
Eさん:そうよ~。まだ自分でなんとかやれてるし、誰もやってくれないからね
田村:素晴らしいですね。ところでEさんは言葉がきれいですね。もともとこちらの村の方ですか?
Eさん:私は福井の出身でね
田村:それではご結婚されてこちらに?
Eさん:そうね~、私は○○の出でね……何もできないまま結婚して苦労したのよ。主人は3年前、97歳で亡くなったけどね……すごく厳しい人で、いろいろ本当に苦労したのよ(笑)
そう言って、結婚当時のお話や子育て中の苦労話を少し話してくださいました。お子さんは娘さんが2人と息子さんが1人。
健康長寿を支える食事の“中身”に注目
田村:Eさん本当にしっかりされていますね。こうやって元気でいられる秘訣ってなんでしょう?
Eさん:なんだろうね、もともと私は楽天的っていうか。あまり気にしないのよね
田村:なるほど、確かにずっと笑ってらっしゃいますね
Eさん:そう?(笑)
Eさんは会話しながら時折、手を叩いて笑うのが印象的でした。食事の内容を聞いてみると、そこにもさまざまな健康でいるための秘訣のようなお話が聞けました。
田村:Eさんのお食事はどんな感じですか?
Eさん:3食ご飯で、朝は卵を4つでスクランブルエッグをつくって、2日ぐらい食べるかな?それからジャコをお酢と麺つゆで煮ておいてそれを少しと納豆かな
田村:お野菜はありますか?
Eさん:友達が白菜や菜っ葉を持ってきてくれるから、お浸しにしておいて食べてるよ
田村:バランスいいですね。お昼は?
Eさん:すいとんが好きで野菜とか鶏肉を入れてよくつくってて、それも2日くらいで食べてるね。お弁当の日は、それね
田村:お肉も野菜もそれだと食べれますね。夜は?
Eさん:ご飯とみそ汁……みそ汁はすごいよ。いろいろ入れてね。じゃがいも、にんじん、大根、しいたけ、しめじ、油揚げ、小松菜、ワカメ……だしは煮干しね
田村:お魚も食べますか?
Eさん:夜はサケなんか焼いて半分とか。煮魚もするよ
田村:完璧ですね。長生きのヒントがEさんの食生活にあるように思いました
Eさん:昔からこうやってきたからね。旦那も本当に厳しくてね。仕事も一緒、どこに行くにも私を連れてね
田村:すごいですね。旦那さんもつい最近までご存命で、97歳で亡くなったんですよね。改めて、食事はしっかりなんでも食べる!大事だなってEさんのお話を聞いて感じましたし、私のほうが勉強になりました
Eさん:あら、もうお昼だね。お餅があるんだけど私、歯がダメで今食べられなくて。食べてってくれないかい?
そう言って、台所で手を洗うとお餅とフライパン、お皿をさっと準備して石油ストーブの上で焼き始めました。
Eさん:これ、ストーブで煮炊きできて便利なんだよね
田村:わかります。実家では石油ストーブでお餅焼いたり、煮豆やお煮しめをつくったり、火加減がちょうどいいんですよね~懐かしいです
お餅が焼けるとしょうゆを付けて海苔で挟み、磯辺餅にしてくださいました。92歳の方が振る舞ってくださったその味は格別でした。
私も母が生きていれば同じくらいの年齢です。石油ストーブで焼いたお餅も懐かしく、心に沁みました。
92歳、元気の秘訣は、たくさん笑うこと。しっかりなんでも食べる。特に野菜、たんぱく質、お酢。あと、娘さんがサプリメントを送ってくるそうで、2種類くらいをとっているようでした。
訪問ではその方の生活全体が垣間見えます。そのなかで食事の内容などをお聞きして、確認しながらアドバイスをしますが、その方の生き方やこれまでの人生などもうかがえて実はいろいろ教えられることが多く、私のほうが勉強させていただいている気がしています。(『ヘルスケア・レストラン』2025年4月号)
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士
たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている