介護業界深読み・裏読み
介護福祉士養成施設の命運を握る
「留学生」と「試験の義務化」
介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!
ルールの見直しで受験者数が回復できず
今年度の介護福祉士国家試験の受験者数は4年ぶりに増加し、前年度より792人多い7万5,387人だったそうだ。しかし、10年前(平成26年、15万3,808人)の半分にも及ばない。平成28年の受験要件の厳格化(実務経験ルートに実務者研修を義務づけ)や、医療的ケアが試験科目として追加されたこと等によって激減して以来、持ち直していないこの傾向が、介護業界の先行きの暗さを表しているように感じる。
だが、それ以外にも介護福祉士の受験者数の減少に拍車をかけているのが、介護福祉士養成施設(以下、養成施設)の惨状ではないだろうか。厚生労働省によれば、養成施設の定員充足状況は、令和6年で52.5%(定員1万4,069人のうち入学者7,386人)。前年は5割を割り込み47.8%だったことを思えば持ち直しているように見えるが、深刻な危機にあることは間違いなく、筆者の知る養成施設の多くが閉鎖したか、その目前にある。
その原因と考えられるのが、「介護福祉士国家試験の義務化」だ。養成施設の卒業者がそれまで国家試験を受験せずに介護福祉士資格を取得してきたことについて、養成課程の修了だけで国家資格を取得できる分野がごく限られていることや、養成施設によって修了者のレベルにばらつきがあること等の問題が指摘されていたことから、当初は、平成24年度から実施される予定となっていたものだ。これが2度の経過措置延長を経て、平成28年の法改正により、令和3年度までの養成施設卒業者については試験不合格であっても事実上介護福祉士として従事することができることとなった。
なお、この措置は「介護分野における目下の深刻な人材不足状況などを考慮した結果としてさらに延長され、令和8年度卒業者までは継続されている。
人手の確保だけに絞らず本質を突いた対策を
しかし、「入学すれば介護の国家資格が得られる」というブランドはやはり大きかったのだろう。前述の定員充足率は、この議論が大きく取沙汰された平成28年に44.2%だった。しかし、29年に42.9%、30年には41.8%と素直に落ち込んでいる。
実はこの数字、令和になって以降は段々と上昇(令和5年を除く)するのだが、それは、令和元年から外国人留学生についても集計を開始したからだ。前述した令和6年に至っては、入学者数7,386人のうち、実に3,589人(48.6%)が外国人留学生である。入学者の半分が外国人留学生だというのが現実で、日本人の学生だけなら定員の3割を下回っている。
養成施設の関係者によれば、「留学生が確保できるかどうかは死活問題」というが、現状を見る限り、まさに留学生なしには立ち行かない状況に至っている。
令和元年に試験義務化の適用猶予が延長されることが決まった際にもこの問題が指摘されており、以降も、養成施設を通じて介護福祉士を志す留学生が増えることを期待して、当時の安倍晋三首相が参議院厚労委員会で「介護職の社会的な評価を高め、介護職をめざそうと思う人を増やしていくことは大変重要な課題」と主張した議事録が残っている。
言うまでもなく、外国人介護人材は日増しに存在感を高めている。デー夕上は、受け入れを行う介護施設・事業所は全体の2割にも及ばないというが、実感としては、大半が関わっているように思うほどだ。
しかし、その主たる受け入れルートは、古くはEPA(経済連携協定)であったし、少し前までは技能実習制度を通じたものだった。それらはまだ介護福祉士資格の取得を視野に入れた仕組みであったが、今後、メインになっていく特定技能1号については、制度の目的が「人手不足対応のための一定の専門性・技能を有する外国人の受け入れ」とあるように、マンパワーの確保が主題になっている。
この政策的ベクトルの上で「介護に係る一定の知識や技能を習得していることを証明する唯一の国家資格」(公益社団法人日本介護福祉士会)である介護福祉士という位置づけが果たして、これからの外国人介護人材の未来と交差することがあるだろうか。
もちろん、わが国における介護福祉士の位置づけを考えれば、その価値を毀損することがあってはならず、試験を経ずとも資格取得を可能としている現状が正しいとは思わない。だが、今の養成施設の惨状を見れば、試験の義務化が議論され始めてから今日まで、そのあり方を本質的に考えてこなかったツケが回ってきているとしか思えない。
「無試験・留学生頼み」の運営で何とか生き延びる歪な道を探している責任は養成校の経営陣にあることは当然だが、政策を講じてきた国にも重いものがある。「唯一の国家資格」を有する者を養成する施設がこれだけ介護を国家的課題とするわが国において、その役割を終えようとしている。
その意味を今一度問い直すのでなければ、軽々な制度改革でとどめを刺すようなことは避けるべきなのではないだろうか。(『地域介護経営 介護ビジョン』2025年4月号)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。