ケーススタディから考える診療報酬
第33回
それぞれのベッドコントロール
2024年度診療報酬改定では地域包括医療病棟という新しい入院料が登場しましたが、最近、「地域包括医療病棟への転棟を検討したいが、シミュレーションをしてほしい」というコンサルテーションの依頼が多くなっていると感じています。厳しくなった急性期一般病棟における重症度、医療・看護必要度の重症度割合を維持するために、そして、効率的な収入を得るための方法を考える必要性からの依頼ですが、シミュレーションした収入を得るには、複数の入院料を管理するベッドコントロールの概念が欠かせません。今回は、いろいろな病院が実践するベッドコントロールの実際と運用状況について紹介します。
さまざまな事情からベッドコントロールの方法について試行錯誤されていると思います。
さまざまな病院のケースから、急性期から回復期、慢性期まで多様な施設基準が求められる入院料の種類があり、複数の入院料を正しく維持していくにはペッドコントローラーの存在は不可欠だと考えます。ベッドコントロールの基準を設けても、入退院支援室の人員を十分に配置したとしても、正しく機能するかどうかは別問題です。
表 さまざまなDPC対象病院のベッドコントロール事情
民間A病院(200床未満) | 公立B病院(200床未満) | 民間C病院(200床強) | |
入院料 | 一般+地ケア | 一般+地ケア+回リハ | 一般+療養 |
24年度 効率性関係の順位 |
県内2位(偏差値78) | 県内2位(偏差値74) | 県内19位(偏差値52) |
ベッドコントローラー | ◎(副看護部長兼地ケア師長兼入退院支援) | ◎(福看護部長兼入退院支援) | ×(師長同士で病床管理のみ) |
医師の協力体制 | ◎(入退院支援室長が副院長であり協力的・医師にベッドコントロールの権限無し) | △(医師による)⇒コントローラーの強力なパワーが働いているため問題になることは殆どない | △(医師による) |
病棟看護師の協力体制 | ◎介護支援等連携指導料の算定協力体制あり | ◎介護支援等連携指導料の算定協力体制あり | ◎介護支援等連携指導料の算定協力体制あり |
入退院支援室の人員 ※前方・後方連携含む |
7名(Ns1名+MSW6名) 事務1名+栄養士1名 ※法人内に介護等施設有 |
4名(Ns2名+MSW2名)+ 事務1名(営業無し) ※営業別部門 |
3名(Ns2名+MSW1名)+ 事務2名(営業無し) ※営業は事務長担当 |
入退院支援室の協力体制 | 基本的にMSWが全て対応 必要に応じて看護師介入 |
NsとMSWが前方・後方両方について協力しながら対応 | NsとMSWが前方・後方両方について協力しながら対応 |
ベッドコントロールの 基本ルール |
医師は退院許可のみ⇒入院・転院・退院日はベッドコントローラーがコントロール 地ケア:判定会議で情報共有・検討 |
コントローラーがルール (患者の状態、入院単価を考えて転棟指示を出す) 回復期病棟:判定会議で情報共有・検討 |
基本、医師が転棟・退院の許可を出す 療養病床:判定会議で決定 |
ベッドコントロールの ツール |
◎(独自作成Excelシートで方向性・転棟・退院予定を把握し、その情報が多職種と共有出来るようになっている) | ○(電カルから出力される患者一覧+独自入退院支援用Excelシートで方向性・転棟・退院予定を把握) | ×(電カルから出力される患者一覧で現在の入院期間を確認するのみ) |
ベッドコントロールの 院内検討タイミング |
・毎日朝夕師長の病床管理 ・週2回ベッドコントロール会議(入退院支援医師・師長・MSW参加) |
・毎朝コントローラーが病棟ラウンドし師長と病床管理 ・転棟タイミングは都度コントローラーと医事課で協議(判定会議は週2回) |
・毎日朝夕師長の病床管理 ・週1回療養判定会議(医師・療養病棟師長・入退院支援室参加) |
公立D病院(300床超) | 民間E病院(300床超) | |
入院料 | 一般+地ケア | 一般+HCU+回リハ |
24年度 効率性関係の順位 |
県内1位(偏差値67) | 県内22位(偏差値53) |
ベッドコントローラー | ○(副看護部長を中心に師長=看護師長が行う) | △(外来師長兼入退院支援)⇒実態は入院ベッドを決める(空ける)役割 |
医師の協力体制 | ○(基本的に看護師が行うベッドコントロールに従うため医師の介入余地無し) | △(医師による) |
病棟看護師の協力体制 | ◎介護支援等連携指導料の算定協力体制あり | ○一部、介護支援等連携指導料の算定協力体制あり |
入退院支援室の人員 ※前方・後方連携含む |
7名(Ns4名+MSW3名)+ 事務1名 ※営業部門別 |
7名(Ns2名※入院前支援のみ+MSW6名)+事務6名(営業・広報含む) |
入退院支援室の協力体制 | NsとMSWが前方・後方両方について協力しながら対応 | 前方はNs、広報はMSWが担当し病棟看護師がサポート |
ベッドコントロールの 基本ルール |
医師は退院許可のみ⇒入院・転院・退院日はベッドコントローラーがコントロール | ※ベッドコントロール基準有 急性期:コントローラーから各師長に空床依頼があり師長が対応する 回リハ:判定会議で決定 |
ベッドコントロールの ツール |
◎(独自作成Excelシートで方向性・転棟・退院予定を把握し、その情報が多職種と共有できるようになっている) | ○(電カルから出力される患者一覧を応用して方向性・転棟・退院予定を把握)⇒ ただし医師が入力するルールになっている「方向性・転棟・退院予定」の空欄多い |
ベッドコントロールの 院内検討タイミング |
・毎日朝師長の病床管理 ・夕方に翌日の病床管理 |
・毎日朝夕師長の病床管理 ・週1回の回リハ判定会議(脳外・整形それぞれ診療科毎に1回) |
A病院は、副院長の強いリーダーシップとベッドコントローラーである副看護部長の病床管理能力、そして、法人内の入所施設や在宅医療を提供する事業所のバックアップで適切なベッドコントロール(指標は効率性係数の高さ)を維持しています。B病院にはベッドコントロールに強い影響力があり、正しいベッドコントロールの知識が十分にある能力の高い人材がいます。D病院では、看護部門が一丸となってベッドコントロール権限を持っています。
このように、病院によりベッドコントロール方法は異なりますが、いずれも、ベッドコントローラーが機能できる環境が整っています。
一方で、残念ながら効率性係数が高められていないC病院とE病院では、ベッドコントロールに関する医師の協力が中途半端で、コントロール範囲が制限されています。
戦略的な病床管理は病院経営の要です。皆さまの病院のベッドコントロールについて振り返る機会になれば幸いです。(『最新医療経営PHASE3』2025年4月号)
結論
ベッドコントローラーは重要!
コントローラーが正しく機能する環境を整えよう
株式会社メディフローラ代表取締役
うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立