食べることの希望をつなごう
第84回
同じ脳梗塞でもアプローチはさまざま
他職種の意見が最適な提案へつながる

ここどうしても自分1人で頑張ってしまいがちな管理栄養士ですが自分1人でできることは限られています。他職種の仲間と一緒に取り組むことで患者QOLの向上やチームのメンバーそれぞれのスキルアップにつながることもあります。

言語聴覚士のアドバイスが患者QOL向上に寄与

摂食嚥下障害は、食事の楽しみを奪うだけでなく、誤嚥性肺炎や栄養不良のリスクを高め、生活の質(QOL)や生命予後に大きな影響を及ぼします。現場で患者と接している皆さんも、日々実感しているのではないでしょうか。

栄養管理を行うにあたり、言語聴覚士(ST)、医師、看護師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、薬剤師、歯科医師、歯科衛生士など多職種と連携し、それぞれの専門職としての視点からのアドバイスをいただくことで、患者の摂食機能の改善や維持を図ることにつながります。入院中から退院後に向けて、摂食嚥下機能に配慮した食事の提供と栄養状態の適正化をめざしていくことが多いなか、多職種との連携は非常に重要と感じます。

脳梗塞で入院されたAさんは、入院直後、経口摂取開始前からすでに唾液の飲み込みづらさを訴えておられ、嚥下機能評価の結果からも重度の嚥下障害があることがわかり、間接訓練から開始となりました。

現在は経鼻胃管からの経腸栄養管理となっていますが、年齢が若く意思疎通が図れ、リハビリの実施も可能であるため、早期の経口摂取再開を見込んだ栄養ルートが選択されています。
適正な栄養量の確保のため、栄養剤の種類と量、水分補給量と、体重推移、血糖値、電解質、消化器症状などを確認していたところ、水分量が比較的少なく、お小水の回数が減少していました。経口摂取はできず、輸液も不要となっていたので、経鼻胃管からの栄養投与ルートしかありません。

嘔吐や膨満感はなく、下痢や発熱、炎症もなかったのですが、脱水のリスクを考慮し、水分量を増やしてもいいのではないかと思い、STに相談しました。
すると、痰が減り、訓練がしやすくなっていることがわかりました。採血データは問題なく、ご本人の口渇感もなく、体重変化もなかったため、まずは、経過観察することになりました。

きめ細かい多職種協働が職種全体のレベルアップに

同じく脳梗塞で入院されたBさんは、ご高齢で認知症があります。失語と失行もあって、食事がすすみません。誤嚥はありませんが、食具を持つことが困難で、右半側の空間無視もあり自己摂取ではなく、介助にて食事摂取していました。
食事の場に多職種が集まると、いろいろことで一歩前進します。今回も、食事介助の方法についてSTから看護師にアドバイスがあり、嗜好や食べやすさだけでなく、介助のしやすさも加えて多方面から食事調整について相談することができました。

そのほかにも、より自己摂取がしやすいよう、場合によっては自助食器を使用するケースもあります。

摂食嚥下リハビリテーションにおいて多職種連携は不可欠です。管理栄養士は栄養状態の評価、嚥下食の調整、食事環境の整備などを担当し、チームの一員として重要な役割を果たします。他職種と協力しながら患者のQOL向上に貢献できるよう、積極的にかかわっていくことが求められます。

長期間にわたり歯科で管理栄養士として勤務した経験は、歯科と栄養の深いつながりに気づくとてもよい機会となりましたが、環境が変わると患者さんも変わり、摂食嚥下障害や食事摂取量低下の原因もさまざまであることを痛感しています。

今難渋しているのは、認知機能の低下している患者さんへの対応です。歯科では、基本的に意思疎通が取れ、指示が入るのが当たり前でしたが、現在はそうではありません。食べたいものや食べられそうなものなど、聞き取ることから四苦八苦することもあります。その時々でお話しされる内容が変わるため、他職種から情報収集するのも1つの方法であると感じています。

以前から感じていたことですが、同じ職種でも違う分野で働いていると、自分にとっての当たり前がとても小さな範囲での当たり前であるという可能性があります。いろいろな職域の方々とつながり情報交換をすることが、結果的に患者さんのメリットになりますし、自分自身の活動の幅を広げることがとても重要であると実感しました。

大学病院、急性期病院で勤務してきましたが、在宅訪問栄養士の方とお仕事をさせていただく機会もあり、フィールドが違うと求められることも違うということがよくわかります。
いろいろな職域で働く方々が、それぞれの技術を尊敬し、同職種内での理解と連携を深めることができれば、職種全体のレベルアップにもつながるのではと感じています。

(『ヘルスケア・レストラン』2025年3月号)

豊島瑞枝(NTT東日本関東病院栄養部 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年、東京医科歯科大学歯学部附属病院入職、24年4月よりNTT東日本関東病院勤務。摂食嚥下リハビリテーション栄養專門管理栄養士、NST専門療法士

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