介護業界深読み・裏読み
2040年に向けた撤退戦
厚生労働省の覚悟やいかに
介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!
介護職員が約3万人減少
予想できない結果ではなかった?
厚生労働省が昨年のクリスマスに発表したデータによれば、各サービスの介護職員数を集計すると、2023年10月1日時点で約212万6,000人になったという。前年に比べて2万8,000人も減少している。このことはそれなりに介護関係者にショックを与えたようで、SNS上では「(訪問介護の)報酬を引き下げたからだ」とか「賃上げを渋るからだ」などといった憶測が飛び交っていたが、実際には、これはもういつか必ず通る道というか、我が国にとって避けられない未来の一部だったという他ない。
なにせ、国の統計上、2025年から2040年にかけて、総人口ももちろんだが、いわゆる生産年齢人口(15 〜64歳)が15%も減るのである。数にすると約1,100万人。1億人ちょっとしかいないこの国では、かなりのインパクトである。そうなれば、介護職員という決して人気があるわけではない職業から先に減っていくのは当たり前で、むしろ、「2040年までに57万人の介護職員が必要」とか「毎年3万2,000人増やさないといけない」(厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」)などというほうがどうかしている。
こうしたことは厚労省でもさすがにわかっていて、社会保障審議会・介護保険部会で次期制度改正に向けた議論が本格化するのに先駆けて、年明け早々、「『2040年に向けたサービス提供体制等のあり方』検討会」なる会議を老健局長直轄で立ち上げた。
構成員は旧態依然としていていささか閉口してしまうが、テーマは悪くない。
▽人口減少・サービス需要の変化に応じたサービスモデルの構築や支援体制、
▽介護人材確保・定着、テクノロジー活用等による生産性向上、
▽雇用管理・職場環境改善など経営の支援、
▽介護予防・健康づくり、地域包括ケアと医療介護連携、認知症ケア──
の4つで、「遅きに失した」という批判もあるが、いつかは手をつけなければならないものばかりだ。
業地域・時流の観点から
進めるべき対策を議論
この会議は、昨年6月に閣議決定された、いわゆる「骨太の方針」と呼ばれるものが根拠。そこには「必要な介護サービスを確保するため、外国人介護人材を含めた人材確保対策を進めるとともに、地域軸、時間軸も踏まえつつ、中長期的な介護サービス提供体制を確保するビジョンのあり方について検討する」と書かれていた。
ここで目を引くのは「地域軸」「時間軸」という言葉で、2022年の「全世代型社会保障構築会議」ですでにお披露目されていた考え方だ。「時間軸」は単純で、2015年とか2025年、2040年など、人口動態などから社会保障制度に与える影響がピークとなるタイミングを指している。
一方で「地域軸」は、「時間軸」よりもっとシビアに我が国にのしかかる問題で、たとえば「大都市部」「一般市等」「中山間・人口減少地域」といった地域ごとの介護課題などにいかに立ち向かっていくかというものだ。衰退していく日本という国で、事実上、撤退戦のあり方を定義しようとするようなもので、危機感と挫折感、諦観の入り混じった苦味がついて回る。
筆者も職業柄、過疎地域まで含めた地方の介護施設などを訪ねることがあるが、これはもう、全体としてはどうしようもないというレベルに達している。自治体が息をしているところはまだいいが、人手不足を長年放置して赤字が固定化し、利用者も確保できなくなって致命的な経営状況に至っているのに、ただそれを見つめている介護事業者があちこちにおり、それを指導もせず野放しにしている自治体も少なくない。
灯りが消えるその時まで、ただただ時間を費やしているだけという印象さえ受ける。
自ら動く事業者の事例から
突破口を見つけ出せるか
しかし、どんなところにも諦めの悪い人はいるもので、そうしたなかでも「ふるさとを守らなければ」という一心で、地域の介護サービスをインフラとして維持させるべく、プラットフォームとして必死に情報を集めて具体策を共有しているリーダーのような事業者がいる。たとえば、経営ノウハウを共有するセミナーや人材確保のためのサイトなどの基盤をつくり、介護テクノロジーの導入に関するレクチャーなどを買って出て地域の他法人に提供している。関係団体からは希釈したようなものしか出てこないなか、こうした、本当に求められる取り組みは大概自発的に生まれるもので、使命感や危機感がその原動力になっている。
前述の「2040年に向けた」検討会は今後、地域で先進的な取り組みを行う自治体や事業者等からヒアリングを行っていくという。それならばぜひ、そうした地域の要となっている事業者を全国各地から呼び集め、これからの日本をどうするのかという議論を本腰を入れて行ってもらいたい。少なくとも、おなじみのメンバーが大半のいまの構成員が中心では、2040年が見通せなかった反省会しかできないだろう。厚労省の覚悟が、今こそ問われている。(『地域介護経営 介護ビジョン』2025年3月号)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。