“その人らしさ”を支える特養でのケア
第87回
食事風景で違和感を覚えたら 多職種連携で食支援に努めよう
食べられない原因を管理栄養士だけで模索した場合、見落としてしまうことが多々あります。食具や姿勢、環境などの要素は察知しにくく、ほかの専門職員からアドバイスいただくことも。多数の専門職員と連携し、さまざまな視点から食べるサポートをしたいですね。
最適な食事介助には日頃からの観察が必須
ミールラウンドを行っていると、時々「おや?」とか「あれ?」と思う場面に出合います。それは、献立の内容だったりご利用者の食事の様子だったりとさまざまです。
「ミールラウンド中に気になったことは、後々、ご利用者の食事摂取量に影響することもあり、軽度の違和感であってもうやむやにしないことが大切だな」と感じています。
Nさんはご自身の日課として、食器洗いなどの軽作業を続けてこられた方です。現在は、徐々に進行した円背のために台所仕事が難しくなり、軽作業は中止となっています。
ある日のミールラウンドで、Nさんがテーブルの下に頭を突っ込んだ姿でいるところを発見しました。お箸を落としたのかな? と思い近づくと、食器を持ち膝に肘をついて食事をしています。テーブルが高くうまく食事ができていなかったのです。
すぐに機能訓練指導員に相談。低めのテーブルを準備してもらい、Nさんは食事やお茶が楽になったご様子です。
また、円背で腹部の圧迫があり、食事量が多くなると嘔吐の心配がある、と看護師からの助言があり、栄養必要量に不足がない範囲で食事提供量の調整をしました。現在は、食事姿勢に無理がなく摂取量は安定しており、穏やかに生活されています。
Nさんのお隣で食事をされているのはUさん。
Uさんは視力障害があり、配膳時に食器の位置を説明していますが、手探りで食器を探しながら食事をしています。心疾患を患うUさんは長く離床していると疲れてしまうご様子で、食事の準備が整ってから起きていらっしゃいます。
「Uさんの食事摂取量が低下してきたな」と思っていたある日、食事中に俯いているUさんを見かけました。介護職員からは「食事中に疲れてしまうことが増えた」と聞き、疲れた際は食事介助を行うことにしました。しかし、それでも食事ができません。
介護職員から「夕食時が特に疲れやすいため夕食のみ居室で食事するのはどうか」と提案がありました。
特別養護老人ホームでは「食事は食堂で食べられるように支援する」と定められています。もちろん、ご利用者の意向や体調が優先されますが、理由がなければ、食事は食堂で食べるのが通常です。
そこで、居室で食事をすることでUさんにどのような影響が出るのか試してみることになりました。
また、介護職員から「手掴みしたほうが楽そうだ」との意見があり、主食をおにぎりにして、手に持ってもらうところまで介助しています。
結果、ゆっくりではありますが、夕食もおおむね最後まで自力摂取が可能で、食事摂取量も若干ではありますが上昇しています。
専門職員と連携しながら食事環境を整えよう
今回紹介した二人のご利用者は、どちらも食事摂取量に影響が出る状況でしたが、実施した対応は〝食事環境の変更〟でした。
食事摂取量が低下した時、「食事形態は適切か」「何か嫌いな物があるのか」など食事内容の変更を優先して考えてしまいます。
それは、管理栄養士として当然のことかもしれませんが、食事の内容だけで栄養ケアを進めていくと、いずれ行き詰まってしまいます。ですので、食事以外の影響を考えていくことが必要です。
食事環境の調整を行う時に欠かせないのは、多職種連携です。ご紹介した事例でも、機能訓練指導員や介護職員など他の専門職と検討し、対応しています。
しかし「これは変だな」と気がついて他の専門職に相談するためには、食事に関連した「正しい(自然な)姿」を知ることが必要だと考えています。
管理栄養士の養成課程では「正しい(自然な)食事姿勢」について学ぶ機会は少ないかと思います。私も学校では習いませんでした。しかし、食事は私たちも毎日行っている行動であるため、答えは自分自身にもあります。
いすに座って食べる場合、いすに深く腰掛け、かかとが床に着き、上半身はやや前傾姿勢──が自然な姿勢です。飲食店で大勢のお客さんが食べている場面を想像してみてください。口に運ぶ時や飲み込む時に、上を向いている人はいないと思います。
また、口の動きはどうでしょうか。自分が何かを食べる時にじっくり口やのどの動きを感じながら食べてみてください。唾液と混ざって食塊になる様子が感じられると思います(米菓がわかりやすいです)。
ご利用者の口の動きを外側から見ることはできませんが、自分が食べる時に鏡で見ると、口やのどの動きを見ることができます。
外から見た時の動きと実際の食材の動きを照らし合わせながら食べてみることで「ご利用者の口の中を想像できるのではないか」と思っています。
また、気づいた違和感を共有して解決策を検討するためには、他の職種がどんな専門性をもっているのかを理解することも大切です。私が業務内で他の職種とどのようにかかわっているかを、表1にまとめました。
表 職種間の相談・情報共有の一例
職種 | 相談・情報共有等の内容 |
介護支援専門員 | ●利用者の状況や今後の対応などを共有 ●ケアプランについて ●本人や家族の意向について |
介護職員 | ●普段の様子(生活サイクルや言動など) ●本人の意向、発言など ●今後の栄養ケアについての方向性 |
看護師 | ●現在の病状とその治療について(医師への問合せ依頼も含む) ●内服薬について(薬剤師への問合せ依頼も含む) ●医療的な内容の質問や相談 |
機能訓練指導員 | *当施設は作業療法士が所属 ●食事の際の姿勢について ●食具の選定について ●ご利用者の身体機能 ●訓練内容(栄養必要量の計算の際に参考とする) ●訓練中のご利用者の言動について |
歯科衛生士 | ●口腔内の状況 ●嚥下の状況 ●口腔ケア中のご利用者の言動について |
生活相談員 | ●本人や家族の意向について ●経済状況に関連すること |
食事、排泄、入浴は「三大介護」と呼ばれています。
今回参考にした『完全図解新しい介護全面改訂版』では「心身の障害以外の理由から『食事が食べられない』という状況になる」ことから「急速に改善しなければならない」ため「三大介護のうち食事が最も重要である」と記されています。
食事に影響する事象はさまざまあり、すぐに思い浮かぶのは嚥下障害かと思います。そのほかにも、姿勢が安定しなくて食べにくい、食具が使いにくい、薬の副作用で食事に影響が出ているなどが考えられます。
また、生活のマンネリ化から全般的な意欲低下が起こっていたり、活動量の低下から空腹感が感じられない、というような原因もあります。
このようにさまざまな影響を受ける食事のアセスメントは多角的な視点が必要であると考えています。
機能訓練、口腔、栄養の一体的取り組みに加算がついて1年が経ちましたが皆さんの施設での取り組みはいかがでしょうか。
施設内にはさまざまな職種がご利用者にかかわっています。多様な専門職の知識と技術を集結してご利用者の支援につなげていきたいです。
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る