Dr.相澤の医事放談
第58回
「病床数の適正化」を進める
医療機関への給付金に対する違和感

2024年度補正予算で、患者減少等により経営状況の急変に直面している医療機関への支援策として、1床あたり410万4000円の給付金を支給する策が盛り込まれ、話題になっている。「病床版減反政策」の呼び声さえ聞かれるが、相澤孝夫先生は「あるべき施策とは、あべこべ」と指摘する。

1床410万円の給付金で医療提供体制は改善するか

2024年度補正予算の「医療需要の変化を踏まえた医療機関に対する支援」のなかで、「人口減少や医療機関の経営状況の急変に対応する緊急的な支援パッケージ」という施策が用意されています。ここで、患者減少等により経営状況の急変に直面している医療機関への支援策として、1床当たり410万4000円の給付金を支給する策が盛り込まれました。「医療需要の急激な変化を受けて病床数の適正化を進める医療機関」を対象に経費相当分を支給する――ということですが、かなりピントのズレた政策というのが率直な感想です。
仮に100床の病棟があり、病床稼働率は60%だったとします。当然、看護師は稼働している病床、すなわち60床分を念頭に配置するでしょう。40床はすでに空いていることになりますが、この、患者も職員もいない40床のために給付金を用意するというわけです。「病床数の適正化」といったところで、残りの40床分を取り壊すわけにもいきませんから、その実効性もきわめて怪しいと言わざるを得ません。まさに「空床にお金をつぎ込むようなことをしよう」としているのです。これで、本当に医療提供体制が良くなるのでしょうか。

実は、これに通じる施策を展開してうまくいかなかった例を、私たちは経験しています。新型コロナウイルス感染症が拡大した際、患者を受け入れる病院のために「空床確保料」を用意していました。そこで実際に見られたのは、もともと稼働していない病床に「確保料」を充当しただけで、実際の感染患者対応にはほとんど寄与しないという実態でした。
コロナ渦の大阪府では、ある250床規模の公立病院がコロナ患者専用病院として位置づけられました。「空いている病床もたくさんあるし、ここで感染患者を受け入れよう」ということでしたが、ほとんど機能しないという事態が最後まで続きました。結局、お金だけ病院に繰り入れて、病床が活用されることはなかったのです。

役割を終えた空床に医療費をつぎ込むメリットは

病床稼働率が落ちているということは、地域からその病院は選ばれなかったとの裏返しでもあります。突き放すような言い方になりますが、すでに一定の役割を終えた病床であるとさえ言えるでしょう。そうした病床にお金をつぎ込んで、どのような効果が期待できるのか、はなはだ疑問です。

一部には「店じまいのための支度金」のような位置づけでこの給付金をとらえている関係者もいるようです。病院経営者にとっては確かにありがたいかもしれませんが、それを国民から集めた税金で賄うというのは、違和感を覚えます。本来ならば、国民の健康と生命を守るために使うお金のはずです。
それに「医療体制の変更などで職員の雇用調整といった課題が生じる」という議論もありますが、先ほどもお話ししたように、そもそも、空床に看護師をはじめとする職員は配置していないのだから、あまり大きな課題にはならないはず。
十歩譲って「地域でしっかりと役割を果たしている病院群の経営状況が良好で医療費も潤沢にあるので、その一部を回す」というのならわからなくもありません。しかし、実態はそうではなく、むしろ逆。病床稼働率を一定の割合、たとえば急性期病院であれば75%を維持している病院でも、経営が非常に厳しくなっているのです。

日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会がまとめた「2024年度病院経営定期調査最終報告(集計結果)―」にあるように、増収はしていても減益に悩まされています。つまり、経費の増大が主因なのです。解決策として最も有効なのは物価上昇分も加味したうえでの入院基本料の引き上げで、四病院団体協議会では、24年度診療報酬改定に向けた要望のなかでも強く訴えました。
こうした頑張っている病院に対する支援策は乏しく、今回の補正予算でも、相変わらず設備投資や備品購入の「一部」を補助金で賄うという内容にとどまっています。
一定の役割を終えた病床に手厚い給付金を用意し、今も地域のためにフル稼働している病床には経費の一部のみを手当てする、空床をあけておいた病院はお金をもらえ、頑張っている病院は頑張るほと赤字幅が拡大する――という、あべこべの状態が見られるのです。
これでは、頑張っている病院の「頑張り損」です。政策のあるべき原点に立ち戻った施策を期待したいと思います。(『最新医療経営PHASE3』2025年2月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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