お世話するココロ
第172回
手放せない便利な道具、それぞれ
1日は24時間。これだけは人間皆平等です。仕事の拘束時間が長いほど、家事に使える時間は限られます。家事の省力化に便利な道具は何でしょう。皆さんは、家事の省力化に便利な道具を、何かお持ちでしょうか?
愛しの圧力鍋
私が今働いている精神科病院は、新人から定年間際の人までさまざまな年代の人が働いています。
既婚者も多く、子育てや家事の話で盛り上がることもしばしば。最近印象的だったのが、家事に便利な家電や道具の話題でした。
きっかけは、わが家の圧力鍋が壊れた話。加圧中に蓋の安全弁が吹っ飛び、ぽっかり開いた小さな穴から、蒸気と水分が噴き上げたのです。「シューシュー」なんてかわいい音ではありません。「ブオオオオオッ」と大音響が家中に響き、一瞬、爆発を覚悟して身を伏せたほどです。
すぐに夫も駆けつけ、急いで圧を抜く操作を開始。なんとか圧は抜けたものの、ガスコンロの周囲や換気扇フードからはお湯が滴り、つくっていたカレーの水分は半分程度になってしまいました。
不幸中の幸いだったのは、ルーが入っていなかったことと、けがをしなかったこと。「圧力鍋は怖い」と言って使わない知人もいるのですが、その気持ちがちょっとだけわかった気がします。
翌日の昼休み、さっそく私は同僚にこの事件について話しました。もう10年以上も使っていた小さめの圧力鍋だったこと、炊飯にも使っているのでその日のうちに量販店で新しい鍋を購入したこと……。
それを聞いた20代の同僚は、圧力鍋の使用未経験者。「どこが便利なんですか?」と聞かれ、「時短調理かなぁ。なにしろ、シチューやカレーが、ジャガイモゴロゴロでも3分加圧して煮ればあとは放置して圧が抜けるのを待つだけなのよ」。
この私の答えに、同僚は「え~~~~~!煮込み3分ですか!」と驚いていました。
「そうなのよ~。ふろふき大根なんかもそんな感じ。肉じゃがも。普通の鍋だと30分くらい煮込むものが、3分だから」
「時短も助かるけど、ガス代も助かりますよね」
「そうそう。助かる、助かる。今は光熱費が高いもんね。ちなみに、うちのはIHも使えるやつなの」
私自身、同僚と話しながら、改めて圧力鍋が生活に欠かせないことを実感。今もまぶたを閉じるとあの噴き上げ事故の様子が目に浮かぶのですが……。
やはり圧力鍋はわが家に必要。後戻りはできない。そう思って覚悟を決め、この日は帰宅後、新たな圧力鍋でつくるシチューにチャレンジしたのでした。
食洗機は女性を救う?
一方、圧力鍋に興味津々だった若い同僚が勧めたのは食洗機。最近家族が増え、導入したのだそうです。
「圧力鍋、便利そうですね。時短できて光熱費も節約できたらいいですよね。うちは、食洗機がなくちゃ生活できません。食後の皿洗いから解放されたぁって感じで。本当に楽になった。もう、後戻りはできません」
この時彼女が発した「後戻りはできません」という言葉の力強かったこと。仕事を続ける意思までもが垣間見えたように感じました。
食洗機といえば、4人の子育て中だった看護師の友人が導入し、会う人会う人に勧めていたのを思い出します。
「もうね家中、物が散らかってキッチンなんてひどいもん。棚の上もテーブルも、本当に物だらけ。食洗機はそこそこ大きいのよ。絶対に置く場所ないって思ったんだけど、保育園の仲間が絶対に「買え」って。もう、生活がどうにもならなくなってたから『えいやっ』て買った。旦那に言うと『いらねぇ』とか絶対に言われるから。黙って買った。もうね、必死で。どうやって設置場所を空けたのか覚えてない」
そして友人は「本当に買ってよかった」と繰り返し話します。
「食洗機がなかったら、もう私、汚れた皿ぶちまけて家出ちゃったかも。そのくらい追い込まれていた。仕事続けていられるのも食洗機のおかげ。へとへとのお母さんとか、絶対に買うべき。皆に勧めてる」
まだまだ家事負担が女性に偏る現状では、働く女性を家事の面で助けるのは、連れ合いよりも食洗機……。そんな現実もあるのかもしれません。
とはいえ、夫婦で家事をシェアしたうえで食洗機を使えば、さらに女性が働きやすくなるのは確実。食洗機のありがたみを分かち合える夫婦だと、なおいいですね。
ちなみに、わが家には漆の食器が多くあり、この食器を使うかぎり食洗機は使えません。食洗機の話を聞くたびに心は動くのですが…。気に入った食器で食べたい気持ちが勝ります。
今のところは使う予定のない食洗機。この先も、情報だけは取っていこうと思います。
マンションならルンバ
ここまで圧力鍋、食洗機と時短の秘密兵器をご紹介してきました。どれも使い始めると手放せない、大事な道具です。最後に紹介する道具は、ルンバ。いわゆるロボット掃除機です。
これも、使い始めて便利さを実感した友人から、熱く熱く使用を勧められました。
「床に物があるときれいに掃除してくれないって思っていたんだけれど、そんなことないのよ。結構ギリギリのところまで近づいて、うまく空間を掃除してくれるの。もちろん、片づけたほうがきれいになるけど、そうしなくても大丈夫。何より、やらないより絶対にマシ。今ほどほこりのない床なんて、親元離れてからこれまで、なかったと思う」
この勧めは、かなり私の気持ちをつかみ、家電量販店に行ってはロボット掃除機を見る日々が続きました。一番ぐっときたのは、「何より、やらないより絶対にマシ」という言葉です。
そう、〈四角い部屋を丸く掃く〉いい加減な掃除さえ面倒なわが家。多少でも床を掃除してもらえるなら御の字でしょう。長毛猫の抜け毛が少し減るだけでも、かなりマシなはずです。
「あれもできない、これもできない」とアラを探すよりも、多少なりとも掃除をしてくれるのであれば、それだけでもありがたい。そんな考え方でもいいように思えました。
しかし、そのように思う一方で、友人の家と私の家とでは決定的な違いがあって、どうしてもその点において決めきれずにいます。
それは、友人の家がマンションであるのに対し、わが家は地下1階、地上2階の、狭いながらも一軒家だという点。これは、かなり大きな違いです。
言うまでもなく、通常のマンションには階段がなく、平家のようなワンフロアですよね。それならばロボット掃除機も広く動けるでしょう。
一方のわが家は、3つの階層に分かれています。さすがのロボット掃除機でも、階段を自由に動いてはくれません。かくして、ロボット掃除機は永遠の継続協議となり、導入の兆しは今のところありません。
ただ、今回原稿を書きながら「寝室のフロアだけ」というように限定的な導入もありなのかなと、そんなふうにも考えました。
圧力鍋しかり、食洗機しかり。万能の道具というのはそうそうありません。たとえ限定的でも、時短になったり楽ができたりするのなら、それだけで導入する意味はあるはず。「これは」という道具と出逢えるといいですね。
私は当分の間、買ったばかりの新しい圧力鍋に慣れることに専念したいと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2025年1月号)
みやこ・あずさ●1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業後、2009年3月まで看護師としてさまざまな診療科に勤務。13年、東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。博士(看護学)。精神科病院の訪問看護室勤務(非常勤)を経て、同院の慢性期病棟に異動。長年、医療系雑誌などに小説やエッセイを執筆。講演活動も行う。看護師が楽しみながら仕事を続けていける環境づくりに取り組んでいる。近著に『まとめないACP 整わない現場、予測しきれない死』(医学書院)がある