DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
第73回
医師の働き方改革の進捗状況(小児科医編)

2024年4月から始まった医師の働き方改革。現場では実際にどのように捉えられているのか。筆者が行った小児科の病院勤務医に対する調査結果を報告する

見かけ上の労働時間は短縮傾向にある

厚生労働省が主導して、医師の働き方改革が進められている。小児科は、勤務時間が長い水準にあるなど、働き方改革の必要性が高い診療科である。そして、働き方改革の推進にあたっては、勤務実態や働き方改革に対する意見等を現場の小児科医師から収集し、検討を進めていくことが重要であると考える。

筆者は2024年、小児科の病院勤務医の勤務実態や働き方改革に対する意見を把握することを目的とした調査を行ったので、その結果(概要)について報告する。
本調査では、全国835病院にアンケートを送付し、815人の小児科医師から回答を得た。
過労死水準である年間の時間外労働時間が960時間以上と考えられる医師は31%、同1860時間以上の医師は13%、月5回以上当直をしていた医師は23%だった。この数字から依然として、小児科の現場が厳しい勤務環境にあることは明らかだ。
当直明け勤務が通常勤務である割合は21%であった。こちらについては減少傾向がみられる一方で、自死を日常的に考えている医師は4%と依然として高い。ただし、2020年に筆者が行った調査結果と比べると、長時間労働の医師は明らかに減っている。
その背景には、タスクシフトなどの医師の働き方改革が進んだことが考えられる一方、当時は浸透していなかった「医師の自己研鑽」の時間を労働時間に加えない点や、従来労働時間とみなされていた時間が、宿日直許可の取得が進んだ(本調査で取得済が53%)ことによって、休息時間という取り扱いとなった点が影響している可能性が高い。

小児科医の長時間労働が本当に減っているのかについてはいくつか注意すべき点がある。
第一に、医師の自己研鑽の定義は、厚生労働省が解釈を示しているが、労働と自己研鑽との区別が必ずしも明確ではないケースがあることが指摘されている。
第二に、宿日直の許可は、日当直の業務内容が宿日直の定義と比較して多いか少ないかという点を質問した結果、21%がとても多い、27%がやや多いと回答していることから、宿日直の許可基準が緩くなっている可能性がある点に留意が必要だろう。

働き方改革の推進による医療の質・安全の低下を懸念

医師の働き方改革については、厚生労働省が設定した時間外労働時間の上限について、9%がとても長い、40%がやや長いと回答した。また、回答した医師の87%は、週60時間以下の労働時間が適正と考えており、給与や手当の増額、医師や医療クラークの増員、専門医取得や研究等、キャリア形成の支援を希望していた。
また、医師の働き方改革による医療の質・安全への影響を聞いたところ、26%が、かなり向上するまたはやや向上すると回答したが、41%がやや低下する又はかなり低下すると回答しており、小児科医が医師の働き方改革の推進による医療の質・安全の低下を懸念していることがわかる。

小児科医から他職種へのタスクシフトは不十分

小児科医のさまざまな業務について、他職種へのタスクシフトが、医師の労働時間短縮に一定程度、寄与することが期待されている。本調査では、タスクシフトすべき行為と考えられているものの、まだタスクシフトが進んでいない行為が明らかになった()。今後は、医療機関において、タスクシフトができない理由を確認し、他職種の協力を得ながら、タスクシフトを進めていくことが求められている。働き方改革を推進するためには、労働時間の短縮や医師の健康確保に資する施策、労働に対する対価の支払いに加えて、医師体制の充実や効率化(医療機関の集約化や医師の地域・診療科偏在対策、タスクシフトの推進等)を強力に進めていく必要があるだろう。

図 小児科医のタスクシフトに関する意向

勤務医は「労働者」であり、小児科医師が自らの健康や患者安全を確保し、小児科医師としてのやりがいや家族との幸せを維持していくためにも、持続可能な医療体制の再構築が求められている。(『CLINIC ばんぶう』2025年1月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

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