“その人らしさ”を支える特養でのケア
第85回
後ろ向きだった補修工事の経験を
業務改善に活かす
昨年11月号の本連載に「厨房の補修工事のため数日給食を休止した」と書きました。その時はひと言で済ませてしまいましたが、振り返れば大変でしたし、気づきの多い数日でした。今号では、私の個人的な反省会を兼ねて、補修工事中のご利用者への対応についてご報告します。
厨房が使用不可になり対応策を講じる
当施設は、昨年で開設から15周年を迎えました。厨房も、ところどころくたびれた部分があります。ある日、「日常業務に支障がない」と気にも留めていなかったところの補修工事が急に決まりました。補修が必要な箇所は大きく2つ。排水溝のグレーチングの入れ替えと、調理室内の床のヒビの補修です。
厨房を使えない期間は、約1週間。この間、ご利用者の食事にどう対応するかを考えなくてはなりません。初めての経験に加え、「床の補修なんて急いでやらなくてもいいのになぁ」と消極的な気持ちもあり、重い腰を上げて準備に取りかかりました。
当施設では給食を委託しているため、補修工事で厨房に立ち入れない期間があることを委託業者に伝え、協力を要請しました。また、期間中の食事提供の代替え案についても検討してもらうよう依頼。委託先からは、副食は冷凍のお弁当、主食とみそ汁はユニットキッチンを使って調理することが提案されました。
お弁当の選定条件は、当施設の軟菜に準じた軟らかさであること、嚥下調整食の対応が可能なこと――。この2点は必須です。それに加え、加熱方法についても工夫が必要です。1ユニット20人とはいえ、電子レンジでは加熱だけで1時間近くかかってしまい、一度に多くを加温できる方法があることが望まれます。
何社かの商品を、試食も行いながら検討し、購入先を決定しました。商品の購入に加えて、専用の機材をレンタルすることができたため、加温の問題も解決できました。
介護職員にも配慮し食事のトラブルゼロへ
準備したお弁当は「やわらか食」と「ムース食」の2種類。当施設の食形態をお弁当に合わせて2つに振り分け、提供することにしました。
さらに、全体の対応が決まった段階で、保健所にも衛生管理や検食の必要性を確認するために問い合わせを行っています。また、必要な時は補修工事の業者打ち合わせに参加し、具体的な対応について確認を行いました。
介護職員へは、工事の直前に加温機の設置と使い方の説明を実施。食事提供の作業工程表(表1)、2食種分の献立表、個別対応用の献立表を配布して、管理栄養士が毎食指示しなくてもいいように準備しました。給食委員会で、補修工事中の対応についても検討してきましたし、そのつど通知してもらっていますが、勤務帯がバラバラの介護職員にはいつでも確認できるように準備することが、トラブルなく進めるポイントであると思っています。
表1 厨房床補修機関献立および作業工程表(実際のものから掲載用に一部改変)
工事が始まったら、納品された冷凍弁当を作業工程表に従って配布、加熱、提供……と繰り返していきます。いつもとは違う食事提僕に、ご利用者は喜ばれる方が多かったです。また、介護職員も配布した資料を見ながら対応してくれたため、大きなトラブルもなく終了となりました。
イレギュラーな環境が業務改善への契機となる
今回の経験は、私の管理栄養士人生で、最初で最後の出来事です(と思いたい!)。この経験を同じように活かすことはなさそうですが、分割すると、今後の給食経営にヒントとなることがたくさんありました。
まずは、非常時の備蓄食への展開です。これまで非常時は、通常時の食形態を3種類程度にまとめるのが限度と思っていましたが、今回のことで、2種類でも問題ないことがわかりました。振り分ける食形態が明確になっていれば数量の設定も容易であると考えられます。また、実際の災害時においでは、管理栄養士がいない場合でも介護職員が判断して提供できることもメリットです。
加熱についても、補修工事中は20人分をまとめて加温できる機材を借りることができましたが、大人数の冷凍弁当の加温は解決すべき大きな障害でもありました。災害時は、熱源の確保が難しいことも考えられます。実際に経験したからこそ、熱源がない場合でも提供できる備蓄食が必要であると再認識しました。
また、作業工程表も今後、給食部門のBCP対策に応用できるのではないかと考えています。
次に、厨房業務のスリム化への展開です。厨房の人員不足が深刻化しており、業務改善は直近の大きな課題です。
現在の当施設での給食はクックサーブですが、補修工事中の食事は「セントラルキッチンから届くクックチル」方式でした。通常、調理担当者は3食で4、5人が勤務していますが、補修工事中は盛り付けや食器洗浄が不要であったため、3食を通しても1、2人で対応が可能でした。
介護職員も、以前は「食事は手づくりがよい」といった意見が多手かったのですが、実際に行ってみると「朝食や休日に活用できるとよい」と、前向きな意見が開かれました。
厨房業務のスリム化は、食事の品質を落とさないことが最低条件です。ご利用者の一番近くで給食を目にする介護職員が納得していなければご利用者も受け入れてくれないだろうと感じるため、前向きな意見がもらえたことは、今後の業務改善の大きな一歩となりました。
個人的には後ろ向きな気持ちで始まった厨房の補修工事でしたが、終わってみれば、通常業務では経験できないことがたくさんあり、実りの多い取り組みとなりました。
関連がなさそうな経験も、視点を変えるといろいろな部分で役立つことだったと感じました。今回の経験を活かし、さまざまな業務につなげていきたいです。(『ヘルスケア・レストラン』2025年1月号)
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る