栄養指導で”あるある!こんなこと”
第137回
経済的に苦しい状況の患者さんには
実践可能な対応策を提案しよう

物価高騰により、生活が苦しい方も少なからずいらっしゃいます。どういった経済状況でどんな生活を送っているのか、患者さんが話してくれることで、具体的な提案ができます。

目標数値を提示して患者さんの意欲を高める

今回ご紹介するZさんは、身長152cm、体重60kg、BMI26.0kg/㎡の女性です。
血糖上昇があり栄養指導となりましたが、2回目の栄養指導時にZさんからある告白があり、食事での工夫についてお話したケースです。初回栄養指導時はBSが150mg/dl、HbA1cは8%台前半でした。

田村:Zさん、こんにちは。管理栄養士の田村です

Zさん:はい、どうぞよろしくお願いします

初回の栄養指導では、とても物静かな印象のZさんでした。

田村:Zさんは血糖が高いということで今回栄養指導になりましたが……

Zさん:最近、血糖値が上がってきていて、院長先生から少し食事の話を聞いてみたら、と

田村:わかりました。数字をみると……ここ1年くらい、以前よりは高い状態が続いてますかね

Zさん:はい、ちょうどここ1年くらい、いろいろありまして……

田村:そうですか。とりあえず今日は初回なので、普段のお食事についてお聞きしてもいいでしょうか?

Zさん:はい

初回は食習慣の聞き取りで気になった部分を1、2点ほど説明し、糖尿病、特に合併症の怖い点や食事の基本についてお話しました。

田村:若干の間食や甘い飲み物など糖分のとり過ぎは見受けられますが……そこをまず気を付けてみましょうか。食事での大きな問題はないように思いますので、甘い飲み物を控えるとか、できるところからやってみましょう

Zさん:はい

田村:HbA1cが8%台なので、7%前半を目標に頑張ってみましょうね。1年前は6%後半くらいだったので、まずは7%前半を目標にしましょう

Zさん:わかりました、頑張ってみます

このように数値でしっかり目標を提示するのも、患者さんが頑張るキッカケになるので、患者さんによって提示することがあります。こんな話をして初回の栄養指導は終了しました。そして2回目の栄養指導時……。

プロフェッショナルとして常に落ち着いた対応を

田村:おはようございます。今回から先に体重を計ってみましょう

Zさん:はい

田村:え~と、今日は58.5kg、すごいお痩せになりましたね!

Zさん:減りましたか?

田村:減ってますね、素晴らしいです

Zさん:よかった、コーラとかは息子が飲んでいても飲まないように気を付けました

田村:ありがとうございます。そして今日の血糖ですが……BSが135mg/dl、HbA1cが7.9%ですね。こちらも改善傾向です。この調子で頑張りましょうね

Zさん:はい

田村:あと、ご飯はもともとそう多くは食べていなかったそうですね。野菜はいかがですか?十分とれていますか?

Zさん:それが経済的な理由で最近あまり野菜がとれてなくて……

一瞬ドキッとしましたが、動揺したことに気づかれないよう、すぐに対応しました。

田村:確かに、今お野菜って高いですもんね~

Zさん:高いし、年金だけの生活だと本当に苦しくて。今、お財布に7円しか残ってなくて……

正直びっくりしましたが、普通に会話を続けました。

田村:あらら、そうでしたか。確かに何でも値上がりしていて大変ですよね

Zさん:主人が亡くなって、貯金も実家の整理やらで使い切ってしまって。息子はちょっと障害があって月1~2万程度の働きしかできないし……

田村:そうですか

Zさん:今日が年金の需給日なので、野菜とか買って帰ります

田村:お野菜ですが、食物繊維をしっかりとっていただきたいので、高いお野菜を無理に購入しなくても大丈夫ですよ

Zさん:えっ?

田村:たとえば、きのこ類なら比較的価格が安定しているので、きのこ類を購入して薄味に煮付けてストックするとか。冷凍できるのでミックスきのこにして、それをみそ汁に使ったりできますよ

Zさん:なるほど……

田村:あと、乾燥ワカメなんかも常備しておくと、お野菜が少ない時に重宝します

Zさん:ワカメもいいんですか?

田村:野菜、海藻、きのこ類なら食物繊維がとれます

Zさん:あ~、いいこと聞きました!

田村:お野菜ももやしに小松菜、旬になれば白菜や大根なんかも安くなるので上手に使ってください。小松菜なんかはカットして冷凍もできますので、特売の時に買って冷凍してもいいですね。そうそう、もやしも冷凍できますよ

Zさん:もやしも?

田村:はい、洗ってしっかり水を切って冷凍してください。あとは凍ったまま汁物や炒め物に使えます。ただ若干、シャキシャキした食感は落ちますが

Zさん:わ~、知らなかったです

田村:なんでもかんでも高くなっているので、本当にやりくりが大変ですよね。工夫しながら上手にやりくりしてみましょう

Zさん:そうですね、なんか大丈夫な気がしてきました。やってみます

田村:よろしくお願いします。次回、レシピなどお伝えしますね

Zさん:ありがとうございます

思いがけない経済問題にも臨機応変で対応しよう

そして3回目の栄養指導時、Zさんの体重はさらに1.5kg減り、BSは120mg/dl、HbAlcは7.5%でした。

田村:また数値、体重改善しましたね~。素晴らしいです

Zさん:田村さんに習ってきのこ類や特売の野菜をうまく活用してます

田村:よかったです

Zさん:料理するのも最近楽しくなって、特売のお野菜は冷凍したり、調理してつくり置きしたりしています。買い物もスーパーの特売日に合わせて行くので、お財布も少し余裕が出てきた気がします

田村:そうですか!なんだか最近は本当に値上がりばかりで、家計への圧迫が大きいですよね。節約にやりくり……うまくやって乗り切りましょうね

Zさん:はい

栄養指導中に出てきた患者さんの経済問題でしたが、生活が楽な方ばかりではないのが現状かもしれません。経済的な部分でも「絵に描いた餅」にならないよう、理想ばかりを伝えるのではなく、実践可能な方法を患者さんに合わせて伝えていきたいと思いました。(『ヘルスケア・レストラン』2024年12月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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