食べることの希望をつなごう
第81回
食べにくい原因は?その対策は?
試行しながら喫食量アップにつなぐ

食の専門家である管理栄養士の皆さんは「オーラルフレイル」や「口腔機能低下症」に頭を抱えている方も多いのではないでしょうか。どのような食べ物で、どのように苦戦しているのか事例を共有し、患者さんの楽しい食事をサポートしたいですね。

身体は食べ物でできている

加齢によって食事が食べにくくなることは容易に想像がつきますし、日常的に遭遇することと思います。
滑舌低下、わずかなむせや食べこぼし、噛めない食品の増加といった症状が見られる「オーラルフレイル」の概念はだいぶ定着したのではないでしょうか。口腔不潔、口腔乾燥、咬合力低下、舌口唇運動機能低下、低舌圧、咀嚼機能低下、嚥下機能低下の症状をもとに診断する「口腔機能低下症」も、よく聞くことと思います。
日本老年歯科医学会では「歯科医師が『口腔機能低下症』を知り、口腔衛生管理および口腔機能管理に積極的に介入することで、高齢者の豊かな食生活と健康維持を実現していく」としています。

食べられない食品が増えることが低栄養につながり、筋力や抵抗力の低下を招き、やがては要介護状態に陥ってしまう――ということは、実際によく起こります。
以前ご紹介した私の叔母は、宅配のお弁当や週2回のデイサービスの食事、そのほかにもヘルパーさんがお買い物や調理などを手伝ってくださっていて、とても元気になりました。
今でも一人暮らしを継続していますが、もともと、義歯もなく何でも食べられ、食欲もあったことから食事は毎回完食とのこと。そのおかげか、頭もはっきりしてきたような印象を受けます。
栄養に配慮された食事を3食きちんととることが、健康な生活につながることを実感しています。もともと大変なおしゃべりで口を動かすことが多かったからか年齢の割に口腔内の環境がよかったからか、ありがたいことに、何でも食べることができ、食形態の配慮が不要であることも大きいと思います。

どんなものがどうして食べにくいのか

歯科病棟で勤務していた時は、当然と言えば当然なのですが、「あまりよく噛めないんだよね」という方はとても多かったです。嚥下の問題ではなく咀嚼の問題です。
軟らかくすれば食べられる場合が多く、さらに、細かく刻んだりミキサーにかけたりと、形態を調整することで食べられる量がぐんと増える方が多かったです。しかし、食べにくいものを無理して食べることがリハビリにつながると思っている方や、常食形態じゃないと栄養がとれないと思っている方も少なくなく、頑なに食形態の調整を渋る方もいらっしゃいました。
食べにくいものを無理して食べていると、食事に時間がかかり、疲労感や満腹感から食事摂取量が減ることがあります。体重の推移は患者さんの説得には有用で、「体重が減っているから食べやすいもので栄養をとりましょう、1度やってみませんか?」と説明すると、「1回試すなら、まぁいいか」と受け入れてくださることが多かったです。当たり前ですが、どんなものがどうして食べにくいのかをよく聞き取ることで、対策を練ることが可能になります。患者さんの食事場面で私がチェックしている項目と対応を表1にまとめました。
そのほかにも、食べている時の姿勢などを工夫することで食べやすくなる場合があります(表2参照)。

表1 食べているときのチェック項目と対応

表2 その他注意事項

手元での形態調整

食事の形態調整は意外と負担になることもあり、「小さくする」という作業でも、慣れるまでは手間に感じることがあります。
そんな時に便利なのが“キッチンばさみ”です。お皿に盛り付けた後でも、まな板や包丁を汚すことなく小さくすることができます。また、食事を潰したり細かくしたりする際には、木や金属のスプーン、ナイフ、フォークなどを持っていると便利です。プラスチックだと折れてしまうことがあるので要注意です。
あらかじめ形態調整された食事を準備するのが難しい場合には、手元で形態調整をすることでかなり食べやすくなることが多々あります。また、見た目にも何を食べているかがわかるので、食欲アップにつながることもあります。
皆さんの試行錯誤もぜひ、情報共有できたらいいなと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2024年12月号)

豊島瑞枝(NTT東日本関東病院栄養部 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年、東京医科歯科大学歯学部附属病院入職、24年4月よりNTT東日本関東病院勤務。摂食嚥下リハビリテーション栄養專門管理栄養士、NST専門療法士

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