栄養指導で”あるある!こんなこと”
第136回
仕事の関係で不規則になりがちな食事も
ちょっとした工夫で改善傾向へ

働き盛りの人たちは、時間に余裕がなく、ゆっくりと食事の時間がとれないことも……。そんな人たちの血糖改善には、管理栄養士による無理のない工夫の提案が大事です。

薬を飲まなくていいの?

Yさんは身長163.1cm、体重7.9kg、BMI36.6kg/㎡と肥満があり、糖尿病と診断された患者さんです。来院時の数値はBS174mg/dl(空腹時)、HbAlc12.9%とかなり高値の方でした。

田村:Yさんは血糖値が高いということでの受診ですね?結構高めですが、これが高いとわかったのは今回の職場での健康診断で、ですか?

Yさん:実は3年くらい前から高いという指摘はありました

田村:わかりました。今回初めての栄養食事指導なのでYさんの食事について、いくつか質問させてくださいね

いつものように「食習慣の聞き取り表」に沿って聞き取りを実施しました。すると、食事のとり方で気になる部分がありました。

田村:朝食を食べたり食べなかったりしていますね。仕事の関係ですか?

Yさん:実は鮮魚の市場に勤務していて、朝が早いので食べたり食べなかったりしています。食べるとしても車を運転しながらおにぎりをかじる程度です

田村:それは大変ですね。夕飯のあとスナック菓子を少し食べるようですね

Yさん:よくないですよね?仕事が終わって15時ぐらいに帰宅。16時ぐらいに夕飯を食べて、21時には寝るんですが、つい家族が夕飯を食べている時間帯に何かつまんでしまう感じです

田村:なるほど。ご家族の夕飯は何時ぐらいですか?

Yさん:19時ぐらいかな?

田村:その時間に一緒に夕飯は難しいですか?

Yさん:自分の場合、昼食が10時とかなんで、家族と一緒の時間までは待てなくて……。あと実際寝るのは22時ぐらいですが20時過ぎには布団に入るんです

田村:なるほど。でも、布団に入る少し前に食べるのは、やっぱり見直したいですね。できる方法を一緒に考えましょう。今回は初回なので、糖尿病についてと食事の基本をお話ししますね。ただYさんの場合、仕事柄なかなか食事の基本を全部は実践できないと思いますが、できるところからやっていきましょう

こんなやりとりをして糖尿病の合併症の話や食事の基本についてお話ししました。

田村:Yさん、お昼ご飯はどうされていますか?

Yさん:市場に入っている食堂で大半は定食を食べます

田村:すると、昼食は野菜をとれますね。その際はべベジタブルファーストを実践してください。夕飯はいかがですか?

Yさん:妻が用意してくれるので、野菜はありますね

田村:そうしたら、お昼と夜は主食の量を適量(約150g)にして、野菜から食べるようにしてください。そこはできそうですか?

Yさん:はい。お昼も丼飯はやめて普通の茶碗でもらうようにします

田村:朝食のおにぎりは自宅から持っていかれますか?

Yさん:コンビニで買っています

田村:それでしたら、おにぎり1個とゆで卵か100円前後で売っているちょっと大きなカニカマ、または豆腐バーなんかも最近売っているので、それを一緒に買い、おにぎりの前にそれらを先に食べてください

Yさん:野菜じゃなくていいんですか?

田村:はい。ベジタブルファーストがメジャーですが、たんぱく質を先に食べるのも○Kです。インクレチンというホルモンが分泌されて胃の運動をゆっくりにし、食後の血糖上昇をゆるやかにすることがわかっているんです

Yさん:わかりました

田村:アルコールですが、ハイボール2杯程度はOKです。あと甘いジュース類は最近はやめているそうですね。これらは砂糖の量がすごいので、ぜひ継続してください

Yさん:それだけですか?

田村:そうです。主食の量、食事のとり方、食べる順番、夕飯後のスナック菓子の摂取などを見直すだけでも血糖値は下がってくると思います

Yさん:先生がお薬はまだ様子を見ましょうって言って何も出ていないんですが、大丈夫でしょうか……

田村:この血糖値の高さなら、他院なら間違いなくお薬が出ていますね。でもYさんはまだお若いので、食事でどこまで改善するか様子を見るのだと思います

Yさん:絶対に薬は飲むようになると思っていたし、そうなったら一生飲み続けないといけないと思ってました

田村:まずは今の食事の見直しポイントをしっかりやってみましょう。それでどこまで下がるか、先生は様子を見るんだと思います。本当にお薬が必要になったら出ますから大丈夫です。あと万が一お薬が出ても、数値が改善すれば飲まなくてよくなる方もいらっしゃいます

Yさん:できれば薬は飲みたくなくて病院に来たくなかったんだけど、そうなら早く来ればよかった……

田村:早く来られていればいろいろなリスクは下がっていましたね。でも、今回来てくださったのでOKです。数値がどこまで改善するか頑張ってみましょう

家族総出で健康管理へ協力

Yさんのように仕事柄、食事が不規則な方も多く、また服薬がないと不安だとおっしゃる方もいらっしゃいます。そして翌月、2回目の栄養指導では……。

田村:Yさん、まずは体重測定からお願いします

Yさん:はい

田村:77.9kg。ちょうど2kg減りましたね

Yさん:減った?そんな感じあまりしなかったけど

田村:79.9kgからなので、確実に減っていますよ。ご自宅では体重は量らないですか?

Yさん:量らないな……

田村:でしたらお風呂上りなど時間を決めて量るようにしてみましょう

Yさん:わかりました

田村:数値もよくなりましたよ。BSが220mg/dl、HbA1cは10.9%です

Yさん:血糖値が上がっているけど……

田村:前回は空腹時、今回は食後1時間半後なので、ピークに近いあたりだからだと思います。食事のほうはいかがですか?

Yさん:朝は家からおにぎりを持参して、ゆで卵も妻がつくっておいてくれるので、それを食べてからおにぎりにしたり、管理栄養士さんに野菜が大事って言われたからミニトマトも持って行くようにしているよ

田村:素晴らしい。夕飯後のスナック菓子はいかがですか?

Yさん:もうやめた

田村:ありがとうございます。でも、あまり頑張り過ぎてストレスにならないようにお願いしますね

この患者さんは現在まで6ヵ月通院していますが、服薬なしでBSは空腹時で120mg/dl前後、HbA1cは8%台まで改善してきています。現在HbA1cの目標を7%前半として継続して頑張っています。そして何と4カ月目頃からは自主的に夕方ウォーキングも開始されました。最初は服薬なしを不安がっていましたが、今では進んで運動を開始し自力でしっかり頑張っています。(『ヘルスケア・レストラン』2024年11月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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