“その人らしさ”を支える特養でのケア
第83回
利用者家族に情報提供をしていますか?
~食事の様子を家族に伝えていこう~
皆さんの施設では、食事に関するご家族の意向確認をどのように行っていますか?恐らくほとんどの施設では、生活相談員やケアマネジャーがしていると思います。当施設はというと、食事や栄養補給に関する内容はなるべく管理栄養士からご家族に伝えています。
ご家族に対する情報共有時の注意点
当施設では以前まで、ご家族に対するご利用者の情報共有は生活相談員やケアマネジャーを通じて行っていました。しかし、あとになってこちらの意図がうまくご家族に伝わっていなかったと判明することがたびたびあり、現在は、できるだけ管理栄養士からご家族に連絡しています。
ご家族への電話は毎回緊張しながらで、いつまで経っても慣れません。「わざわざ管理栄養士がやらなくてもいいかな」と感じる業務ではありますが、管理栄養士が直接「ご家族にお話しするからこそのメリットも感じています。
ご家族の意向確認というと、なんだか硬い感じがしますが、連絡する内容は購入や加算算定にかかわるような、何かしらお金のかかる内容が中心です。当施設は、給食委託業者との約束の範囲内で栄養補助食品を食事料金内で提供することができますが、その範囲から外れるとご利用者の負担となります。そのため、給食で提供できない栄養補助食品を使う必要がある場合は、ご家族に相談し購入していただいています。たとえば、これまでにたんぱく質の補給を目的とした栄養補助食品などを購入してもらったことがありました。
ご家族へ説明する際、私が気をつけていることが2つあります。
1つ目は“ゆっくり、はっきり、明るいトーン”で話すことです。
ご家族への連絡は電話で行うことが多く、互いに表情が見えません。ゆっくり、明るいトーンで話すことで、相手が緊張せずに話を聞く雰囲気づくりができるのではないかと考えています。また、電話相手のご家族が高齢の場合もあるため、聞き取りやすいようゆっくり・はっきり話すと内容を理解してもらいやすいと感じています。
2つ目は、なるべく専門用語を使わないことです。
相手が「お客様」だと思うと「かしこまった話し方をしなければ」とつい力んでしまいます。その際、とっさに専門用語が出てしまうため、なるべくわかりやすい言葉遣いを意識しています。
具体的な言い換えの例を紹介します。たとえば「褥瘡」なら「床ずれ」や「お尻の傷」などと言い換えが可能ですし、具体的な栄養成分の名称も「傷を治すために必要な栄養素」と言い換えます。また、「嚥下」は「飲み込み」、「摂取量」は「食べる量」などと一般的な言葉に変えるように意識しています。
ケアプランの説明を行う場合も、文章では専門的な表現をしていても、説明時には一般的な表現に言い換えることもあります。
家族の力がもたらす食支援の効果
ご家族へ説明を行った際に印象に残ったエピソードを紹介します。
先日、当施設の厨房の補修工事があり、数日間給食を休止し、お弁当で対応する期間がありました。
当施設では、以前から食事の摂取量が少ない方を対象に、半分量の食事と栄養補助食品を組み合わせた食事(以下、ハーフ食)を提供しています。しかし、給食委託業者との取り決めで、厨房を修繕する間ハーフ食を提供できなくなってしまいました。休止期間の数日も食事摂取量やそのほかの事項から、栄養補助食品を必要とする方が数人いました。
嘱託医に事情を説明して相談したところ、その数人のご利用者には医薬品の栄養剤を処方していただけることになりました。しかし、ハーフ食は給食費の範囲内ですが、薬剤の処方となると自己負担が発生します。そこで、生活相談員やケアマネジャーと検討し、自己負担が生じるご利用者のご家族へ事情を説明して了解してもらうことに。そして、その説明を管理栄養士が行いました。この時、嘱託医のご厚意で薬剤処方にかかる費用の概算を出していただけたため、具体的な費用負担をご家族に説明でき、大変助かりました。
この対応の対象となったご利用者のなかにDさんがいました。特養に入居する前から当施設のショートステイを利用されていた方です。食べることが好きで、ショートステイのご利用ごとに好きな果物を持参され、その管理や提供に関する調整でご家族にはたびたびお目にかかっていました。入院を機にADLが低下して日常的な介護が必要となったため、特別養護老人ホーム(特養)へと入居。入居後から食事摂取量が低下し、試行錯誤の結果、通常量からハーフ食の提供をしていました。
Dさんのご家族に事情を説明し、ハーフ食が提供できない期間は栄養剤を処方してもらうことに了承を得ました。「やれやれ」と一安心した矢先、ご家族から「食事がとれていないとは知らなかった、何が原因なのか、家族ができることはあるか」と質問が。わかる範囲で質間に答えながら、Dさんのご家族からもお話しを聞き、電話を終えました。電話口で「会いに行かないからさみしいのかな」とつぶやいていらしたのが印象的でした。
電話の翌日、Dさんにご家族から差し入れがあり、さっそく提供しました。Dさんは大変喜び、その後、以前より高い頻度で面会があるなど、ご家族の行動にも変化が見られました。
それを受けてか、Dさんは徐々に食事摂取量が増加していき、ハーフ食のままではありますが、必要な栄養量を食事から摂取できています。以前と比べ目に見えて元気になった頃、面会に来られていたご家族に施設での最近の様子を報告しました。食欲が好転したのは“面会や差し入れの効果”であると感じていることを伝えたところ、ご家族もお喜びになっていました。
しかし一方で、反省したことがあります。それは、ハーフ食へ移行する際にご家族への連絡が不十分であったことです。当時、ハーフ食にすれば必要な栄養量が確保できるうえ、金銭面にも変化がないことからご家族に連絡をしていませんでした。Dさんのケアブランは「状況に合わせて食事内容を調整すること」としていたため、ハーフ食にした時はプラン変更に該当しないと判断したのです。
「食事内容を変更(調整)した」ことだけを切り取れば、ケアブランそのものの内容を変えたわけではありません。しかし、今回、Dさんのご家族から「食事がとれていないとは知らなかった」という言葉があったことから、ハーフ食に移行した時点でご家族にも情報を共有すべきだったと振り返りました。
食形態の変更や認知機能の低下で義歯が使えなくなって使用を止めたケースなど、たとえケアプラン内での変化であっても、ご家族との情報共有を行うほうがいいと思い至りました。
ここ数年はコロナ禍で、ご家族との面会ができなくなったり外出や施設内イベントが中止になったりと、さまざまなことに制約が生まれました。それによって、食欲をはじめご利用者の活動意欲にも少なからず影響があったように思います。
現在は面会が再開され、徐々にご家族との日常的な交流が戻ってきました。それにより、ご家族が食支援に積極的にかかわるとご利用者の食欲が刺激され、生活全体の活気につながっていると改めて実感しています。
ご利用者の普段の様子やケア内容の変更をご家族が知るには、職員側からの情報共有が不可欠です。そして、食事に関する情報は管理栄養士からご家族に共有したほうがより具体的、かつわかりやすく伝えることができるでしょう。
ご家族がご利用者に与える影響の大きさをひしひしと感じるからこそ、可能なかぎりご家族も巻き込んだ食支援をめざしたいと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2024年11月号)
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る