DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
第73回
社会保障制度の
持続可能性を再考する⑨

2024年診療報酬改定はブラス改定で決着したが、財務省主導による医療費抑制政策は今後も進められていくのだろう。複数回にわたり、医療を含む社会保障制度の持続可能性について検討してみたい。

かかりつけ医の登録制は日本ではなじまない

2024年度診療報酬改定は最終的にはプラス改定に落ち着いたものの、その内容は財務省主導による医療費の抑制は今後も進められていくことを示唆するものとなっていた。今回は、提供体制の見直しの観点から、定量的な視点を交えて論じていく。

1点目は、かかりつけ医である。かかりつけ医については、これまでたびたび、登録制の是非についての議論がなされてきた。
欧米諸国では、家庭医や一般医(ジェネラル・プラクティショナー)を養成し、専門医の診療と分けている。そして地域住民は自分が登録している、かかりつけ医がゲートキーバーとしての役割を果たしつつ、必要に応じて、専門医に紹介する仕組みが一般的である。かかりつけ医の変更は、いつでも可能で、追加費用を払えば、直接専門医を受診することも可能となっている。
我が国では、家庭医や一般医という枠での医師養成は行われていない。多くの医師は、大学の医局や関連病院での研鑽を経て、専門医となり、その後は専門医としての道を進む、あるいは開業医などのキャリアを送る。こうした内科や外科の医師は、一般医的な役割を果たしているもが現状だと思われる。
ただ、既に我が国でもフリーアクセスをできるだけ制限しない範囲において、「かかりつけ医」制度が一部導入されている。
たとえば、慢性的な持病がある患者さんは、現在もかかりつけ医を持っている人が多い。また、紹介状なしで大病院を受診しようとすると追加費用がかかる。
家庭医・一般医制度はないが、離合診療医の専門医制度や日本医師会のかかりつけ医研修も充実してきている。
どのような目的で登録制を導入するのか、今の制度と比べた際のメリット・デメリットがわからないと、医療従事者だけでなく国民への説明も難しいだろう。

タスクシフト/シェアはどんどん進めるべき

2点目は、薬剤師への処方権付与や看護師への診療権限の付与といった、タスクシフト/タスクシェアを進めることだ。
薬剤師の処方権や看護師の診療権については認められていない医師の働き方改革が進むなかで、タスクシフト/タスクシェアが進みつつあるが、その受け手となる薬剤師や看護師の準備が整っていない。各職種の生産性の向上のためにも、医療の質と安全が確保できることが前提だが、医師以外の職種へのタスクシフト/タスクシェアを進めていくべきだろう。
人口あたりの薬剤師数は世界一多いと言われているが、ドラッグストアにおいて、商品のレジ打ちをやっている薬剤師がいるのはもったいない。薬剤師に処方権を付与することに加えて、以前に比べると専門的な情報が手に入る状況になっているため、OTCを増やしてドラッグストアでも患者の同意があれば、処方がなくても処方薬を購入できる仕組みにしていくことも考えられる。

公立・公的病院の民営化は1兆円以上の医療費適正化に

3点目として、公立・公的病院の民営化や統廃合、経営の効率化が挙げられる。
日本には8000以上の病院があり、人口当たりの病院数は世界一となっており、医療資源配分が分散し、非効率な提供体制となっている。
全国の病院に占める公立病院の割合は、病院数で857(全体の約10%)、病床数で約21万(約14%)を占めている。国立・公的を合わせると、病院数で1500以上(約19%)、病床数で約44万(29%)を占めている。

公立病院の経営は、年間8000億円を超える多額の繰入金(地方交付税)で賄われている。一方、民間病院にはそのような繰入金はなく、自らの経営努力によって、経営を維持している。そもそも公立病院と民間病院は、イコールフッティングではないのだ。さらに日本赤十字や済生会などの公的病院についても法人税がかからないという点では、民間病院の経営とイコールフッティングではない。
公立病院への繰入金の根拠は、公立病院は、「民間病院の立地が困難なへき地等における医療や、救急,小児、周産期・災害・精神等の不採算・特殊部門に係る医療、民間病院では限界のある高度先進医療の多くを公立病院が担っている」と、総務省は説明している。しかし、実際には、民間病院であっても同様の機能を担っていることが多い。他方で、公立病院の(医師以外の)職員の給与は民間病院のそれに比べて高いと言われており、繰入金は給与補填や低い経営能力の穴埋めに利用されている可能性が高い。
公立病院や公的病院の民営化や統廃合、経営の効率化等を進めることで、民間並みの経営ができれば、繰入金8000億円を超える1兆円以上の医療費抑制効果が見込める。

保険者の統廃合
AI・ICT活用も肝要

医療の提供者だけでなく、保険者の役割もとても重要だ。
医療保険制度は複雑な制度となっており、厚生労働省によれば、保険者数は、国民健康保険が1716、全国健康保険協会管掌健康保険、組合管掌健康保険1388、共済組合85、後期高齢者医療制度47と、3000を超えている。
保険者ごとに加入者の数や属性が異なっているため、集約化することで、事務コストの削減や、保険者機能の強化を効率的に行うことができるだろう。

AI・ICTによる様々な効率化も重要な視点だ。
今後、AIによる診断やICT・ロボットの活用によって、医療・介護の質の向上や業務効率化による人的な生産性向上が期待されている。
また、診療情報の患者や他医療機関との共有といった情報の利活用は、臨床研究・開発にも資すると考えられる。
現在、請求情報(DPC等)、クリニカルレジストリー(症例登録)といったさまざまな医療データベースが整備されている。
電子カルテ情報についてはこれまで共有が進んでいなかったが、ここにきてマイナンバーカードと健康保険証を統合し、各種医療情報を一元化する取り組みが進みつつある。この動きはまさに世界的な医療・介護情報の利活用の推進の流れを後追いしたものといえる。
また、リアルタイムの生体情報や遺伝子情報の利活用は、医師の診療や個人の健康意識に変容を促す。患者が主体的に医療機関や治療・サービス等を選択・評価していく姿勢(患者エンゲージメント)が重要だ。また、予防医療を推進する上で、セルフマネジメントの考え方も重要になる。

このように、AI・ICTは、医療・介護サービスのあり方を変えていくことになる。
次回も引き続き、社会保障制度の現状と課題、今後の方向性を読み解いていく。(『CLINIC ばんぶう』2024年11月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

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