制度と経営に強くなる!
引き下げられた訪問サービス
今行うべき次回改定への対応とは

介護事業所のリーダーが、今、知っておくべき知識を、業界に精通したC-MASのプロフェッショナルが伝授

処遇改善加算も含めればプラスの改定率になる?

2024年度介護報酬改定で衝撃的だったのは、訪問サービスの代表格でもある「訪問介護事業」をはじめ一部の事業が、本体報酬の単位が減らされたことです。
国(厚生労働省)は「訪問介護事業の報酬引き下げの根拠は、2022年度経営実態調査で全サービス平均2.4%だったのに対し、当該事業の収支差率が7.8%と高かったことによる調整」と言います。
結果、報酬改定による全体の改定率は+1.59%なのに対し、訪問介護の改定平均率はマイナス2.3%程度に下げられました。国は「本体報酬だけを見るのではなく、処遇改善加算の引き上げで、訪問介護は24.5%に引き上げた。報酬改定全体を見て評価してほしい」と言うのですが、前回までの旧処遇改善加算22.4%から+2.1%上がっただけで、2.3%下げたけど2.1%上げたからいいという、結局下げられたという計算であることには変わりないのです。リアルな現場では、もっと細かく経営計算をしています。

売上自体も、減数は1サービスあたり10単位下がったとして、約100円。1日20件訪問すると仮定するならば、2000円の売上減。1年で73万円、このまま3年続くとして219万円の売上損失となるのです。
この売上損失は採用のための広告経費であったり、経営戦略のための先行投資や物価高騰への費用などへ充てることもできなくなる意味での損失にもあたるのです。

今からでも遅くない!収益増加・次回改定への対策

そうはいっても、もう新しい報酬改定が始まって半年以上経ちました。まだ対策を取られていない方は、次の取り組みを進めていきましょう。

対策1 未算定加算の取得をめざす

加算は、新しいものが増えたり、「要件が緩和したりしたものも多くあります。
特に、特定事業所加算、看取り利用者(患者)の取り組みへのシフト、重度者への対応のための専門性を高める資格取得、口腔連携強化加算、施設系訪問事業であれば同一建物以外の周辺居住者の新規獲得による同一建物への集中比率を下げる戦略などが考えられます。

対策2 障害福祉サービスへのシフト

同じ訪問サービスでも、障害福祉の訪問サービス報酬は、わずかながら引き上げられたということも備忘録に入れておくべきです。「高齢者介護」だけに特化されている事業所は、経営戦略のきっかけとして参入を一考するべきです。
実は当社も3年前からは障害グループホームへ参入し、安定した需要と供給ができています。また、単位数やさまざまな要件も高齢者サービスより緩和されている印象が強いです。しかし、高齢者とはまた全然違う悩みや壁に当たることもありますが、福祉サービスの地域貢献の幅が広がることは間違いありません。
加えて、来るべき次回の2027年度報酬改定へ向けて次の心構え、準備をしておきましょう。

心構え1 自立支援・重度化防止のための「見守り的援助」への取り組み

厚労省の通知(老計第10号)の「見守り的援助」は、「看取り介護」まではいかなくとも、「自立支援・重度化防止のための見守り的援助」と示しています。本項の見直しからはや6年ですが、なかなか定着していません。国へはこの際、「見守り的援助加算」の創設に期待までしているところです。

心構え2 訪問+通所の新サービス創設への準備

全国の訪問介護事業(3.5万)と地域密着型も含め通所介護事業(4.5万)の2大サービスを共生型サービスとして始める議論がされていましたが、時期尚早として見送られました。
勝手な私の予見ですが、今回の訪問介護の報酬「減」は、この共生型サービスの創設を見越したうえでの改定だったのでは?という「仮説」をもっています。
この2つのサービスの創設は、人材不足の解消にも効果が期待できます。両サービスの間での人材交流や柔軟な運用により、利便性がよくなっていくことも期待できます。さらにこのサービスは、都市部はもちろん、人口1万~2万人以下の地域包括単位でも、中学校区単位でも、過疎化地でも、大きな効果が期待できるのと考えます。もちろん、報酬「減」でモチベーションを下げることなく、新サービスには本体報酬の十分な単位数を期待したいところです。

「事業所のため」はもとより
「利用者のため」になる改定を

次回の報酬改定で私が国へ期待していることは、「特定事業所加算」の要件緩和です。区分支給限度基準額の対象外とすることに期待します。2021年の報酬改定の際には盛り上がっていたこの話題が、なぜか今回は一切ありませんでした。
訪問介護事業所はケアマネから「単位数がいっぱいだから生活援助で算定してほしい」という、利用者本位ではない限度額調整が生まれます。その結果、「特定事業所加算を算定できるにもかかわらず、限度額を超えないように算定しない」という事業所が多数あるということです。限度額調整や算定をしたいのに、利用者のために我慢したり苦々しい思いでいる経営者は少なくありません。

「全ては利用者のために」「地域包括ケアシステムの深化のために」。これが、訪問サービスがあるべきこれからの姿なのです。(『地域介護経営 介護ビジョン』2024年10月号)

西村栄一
C-MAS専門スペシャリスト
にしむら・えいいち●全国の介護事業向け、行政向けに運営指導対策、ISO9001審查、BCP等リスク対策支援。運営指導専門コンサルティング特化15年で1,050事業所以上。ヘルプズ&カンパニー代表。熊本済々黌高校、早稲田大学卒業、大阪公立大学院修論「地域包括ケアシステムと地域ケア会議」上梓。混合介護導入運営実践事例集(日総研出版)等著書多数、国立情報学研究所Ciniiに6作収納、専門誌コラム連載中
株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー
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URL:helpz.jp/
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