Dr.相澤の医事放談
第54回
一般病院に求められる「撤退戦」
機能を明確化し、効率化を図る

2024年度診療報酬改定では「高度急性期・急性期医療」と「高齢者の急性期医療」の評価のあり方を分ける流れが見られた。また新たな地域医療構想の議論が本格化するなかで、地域の高齢者入院医療が大きな論点になっている。ただ、それには各病院の「撤退戦」が必要になると、相澤孝夫先生は指摘する。

地域医療構想で各病院は「撤退戦」が求められる

現在、「新たな地域医療構想」に関する議論が進んでいます。そのなかで、めざすべき医療提供体制として、「85歳以上高齢者の増加や人口減少が進む2040年以降、すべての地域・世代の患者が適切な医療・介護を受け、必要に応じて入院し日常生活に戻ることができ、同時に、医療従事者も持続可能な働き方を確保できる医療」が掲げられています。それぞれの地域や病院でこれを実行するには、各病院の「撤退戦」が欠かせないというのが私の考えです。
たとえば、地域医療支援病院にあたる急性期病院では、医療資源を多く投下する医療だけでなく、日常生活動作維持に留意するような高齢者の急性期医療も引き受けているケースもあります。しかし今後、どちらかは「撤退」し、他の病院に委ねるといった決断が求められます。

逆もまた然りで、中小病院のなかには全身麻酔を伴う手術を提供しつつ、近隣高齢者の入院医療も担っているところが少なくありません。これも、どちらかに特化する必要が出てきます。
今まではこうした高度急性期・急性期と高齢者急性期を分けることなくカバーしてきましたが、よほどの地域事情がない限り両立は難しくなると思うのです。求められる医療内容と提供体制が両者の間で違いすぎて、経営面から考えると非常に非効率だからです。
たとえば地域密着型の中小病院の場合、全身麻酔を必要とする手術や緊急手術を行えるようにするには常勤麻酔科医が複数人必要で、外科医も2~3人というわけにはいきません。「手術の日にアルバイトで」といった体制を採れないことはないでしょうが、それが本当に効率的かは疑問です。何より、手術室の稼働率を考えると、おそらく採算割れを起こすでしょう。

一方、高齢者の急性期入院医療は手術は必要としないまでも、肺炎や尿路感染症などの内科系疾患が多くなります。そうなると、医療資源の大量投下よりはむしろ、入院直後から廃用症候群に陥らないよう、なるべく身体を動かすような支援が重要になります。これにあたるのはリハビリセラピストとは限らず、病棟の看護補助者やケアワーカーでも対応できると考えています。当然、口腔ケアや栄養管理も欠かせませんし、どのタイミングで在宅に戻り、生活支援や介護、福祉、そして在宅医療を提供していくことも重要です。
そうした機能と、脳卒中や心筋梗塞に対する緊急手術に対応したりがん治療を行ったりする機能を兼備させるのは、なかなか難しい。実際大規模病院でも、「手術後、状態が落ち着いたら回復期以降の病院へ転院」というのが一般的になっていますが、受け皿となる病院が少ない現状もあります。

高齢者内科系急性期医療に特化した相澤東病院は黒字

高度急性期病院にせよ地域密着型病院にせよ、機能を明確化して体制を整備し、それに即した患者を受け入れれば、十分経営は成り立つと考えています。
54床の地域包括ケア病棟で高齢の急性期入院患者を多く受け入れている相澤東病院は黒字経営を続けています。医師は4人体制で看護配置は13対1ですが、看護補助者を多く配置し、実質的には10対1体制と言えます。手術等は行っておらず、入院単価は3.5~4万円程度ですが、病床稼働率は95%を常時超えています。

一方、急性期医療に特化した相澤病院は松本圏域全体から患者さんを受け入れていますが、実は「撤退戦」が完了していません。高齢の内科系急性期患者も多く入院し、経営面からは「課題」と言わざるを得ません。入院単価が10万円の患者さんと3~4万円の患者さんが混在していて、非効率です。
とはいっても受け入れを断ることはありませんが、相澤病院の救急外来で受け入れたとしても「住まいに近い地域密着型病院に速やかに紹介する」という流れが理想です。そのほうが患者さん、相澤病院にとっても、そしてその地域密着型病院にとっても望ましいのですが、実際にはこうした「下り搬送」はそうした患者さんのうち1~2%くらいしか実現していません。
相澤東病院は、そうした地域密着型病院のモデルケースもめざしています。日本の医療提供体制は各病院に対して強制的に機能を特化させることはできません。そこで、前向きに取り組んでいただけるような体制づくり、もっと言うなら文化づくりに着手しているのです。(『最新医療経営PHASE3』2024年10月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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