制度と経営に強くなる!
義務化された
生産性向上への取り組み
介護事業所のリーダーが、今、知っておくべき知識を、業界に精通したC-MASのプロフェッショナルが伝授
生産性向上とは“価値”を増やすこと
2024年度介護報酬改定で、一部事業の「生産性向上委員会の義務化」が定められました。対象は、施設系、居住系、短期入所系、多機能系サービスです。その他、訪問系、福祉用具系、通所系については経過措置があり、2027年以降義務化されます。
「生産性向上」とは、事業資源の労働力、手間、浪費等を最小限にし、今より多くの「生産物や成果、価値」をめざすことです。よく混同されるのが、「業務効率化」との違いです。業務効率化は事業資源の最小限をめざし、生産物や成果、価値は「維持すること」をめざすものであって、増やさず維持するだけという意味では、生産性向上の一部の役割でしかないと言えるでしょう。
義務化の一方
加算も準備された
「義務」と言われると、「圧」の強いイメージのある言葉です。私たち介護事業を経営する者は、常に法令遵守、指導監査に怯えながら減算や返戻命令に過敏になっているなか、「義務」と言われるとピリッとします。
ただし、今回のこの生産性向上の義務化には、取り組みに対するご褒美として「生産性向上推進体制加算」というアメも準備されています。義務という言葉に怯えるくらいなら、いっそのこと加算算定できるレベルまで取り組んでいこうではありませんか。
アメとして用意された生産性向上推進体制加算1(100単位/月)を取得するためには、以下の取り組みが必要です。
(1)テクノロジーの活用
介護業務のプロセスのデジタル化や定型業務の自動化をすることで、労力と時間を節約し、事故やヒヤリハット等の可能性も減少させることができます。投入資源(労働力、手間、浪費等)を減少させつつ、利用者満足度の向上(生産性向上)のために、以下はすべて活用すること。
①見守り機器
②インカム等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器
③介護記録ソフトウエアやスマートフォン等の介護記録の作成の効率化に資するICT機器
(2)業務改善効果を示すデータの提出
取り組みの効果を示すものとして、取り組みの前後を比較した以下のデータ等を1年に1回提出しなければなりません。
①利用者のQOL等の変化(WHO-5等)
②総業務時間および当該時間に含まれる超過勤務時間の変化
③年次有給休暇の取得状況の変化
④心理的負担等の変化(SRS-18等)
⑤機器の導入による業務時間の変化
①のWHO-5は精神的健康状態を測る指標です。利用者へ5項目の質問(明るい気持ち、リラックス、意欲、睡眠、興味)を評価します。
②は短縮していることが、③は維持か増えていることが必要です。職員の休むことを中心にした働きがいへの思考の変化につながります。
④のSRS-18は心理的ストレス反応尺度です。職員のストレス反応を18項目の質問(例:憂うつ不安や怒り、無気力や集中困難、仕事の能率の低下等)を評価するものです。
⑤は業務時間のうち直接介護、間接業務、休憩等がどう変化したかの調査、または、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用でその変化を検証することが可能です。RPAは介護の現場では親和性がないかもしれませんが、検討の余地はあると思います。
(3)生産性向上委員会の設置
委員会の正式な名前は「利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会」というものですが、要は「生産性向上委員会」と捉えていいでしょう。
職員のスキルや法令の知識取得や利用者対応能力の向上を図るための継続的なカンファレンスや内部と外部研修を繰り返すことで、利用者満足の成果を上げられます。また、職員がさらに高度な知識や専門スキルを獲得できるような積極性が上がれば、より価値あるサービス向上に貢献できる可能性があります。
2040年に向けて今、取り組んでも遅すぎる!?
介護事業に限らず、日本の産業すべてが生産性向上に努めなければならない時代です。これから15年後の2040年までに、人口は60万人ずつ、生産労働人口(20歳~64歳)は73万人ずつ減り続けます。生産労働人口は15年で1,000万人超の減少です。
にもかかわらず、介護労働人口は「現在の215万人から2040年までに272万人に増やさないと、介護サービスが崩壊してしまう」とさえ言われています。「崩壊」とは介護を必要とする高齢者が「我慢」しなければならない、もしくは、サービス自体が超高額になるため、他国への移住を検討しなければならなくなることです。しかし、国内にとどまった場合でも、介護さえあったらもう少し伸びたかもしれない命や家族の生活、仕事にも大きな影響が及ぶということでしょう。
生産労働人口が激減するなか、どうやって介護労働力を増やせと……?私たちは「なんとかなるでしょ」「国の責任」と言うだけではなく、今「生産性向上」に計画的に、積極的に取り組まなければ、「2040年の後悔」が待ち受けているということです。今、取り組んでも遅すぎるくらいです。義務化されていないサービスも、今年中に生産性向上に取りかかってください。(『地域介護経営 介護ビジョン』2024年9月号)
C-MAS専門スペシャリスト
にしむら・えいいち●全国の介護事業向け、行政向けに運営指導対策、ISO9001審查、BCP等リスク対策支援。運営指導専門コンサルティング特化15年で1,050事業所以上。ヘルプズ&カンパニー代表。熊本済々黌高校、早稲田大学卒業、大阪公立大学院修論「地域包括ケアシステムと地域ケア会議」上梓。混合介護導入運営実践事例集(日総研出版)等著書多数、国立情報学研究所Ciniiに6作収納、専門誌コラム連載中
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