Dr.相澤の医事放談
第53回
データの情報化を進め現場と共有し
自院の方向性を納得してもらう
「『やりたい医療』と『求められる医療』と言うが、今のご時世、『やりたい医療』だけで通用するはずがない」――。相澤孝夫先生はこう語り、病院マネジメントの必要性を強調する。その一丁目一番地が、「データの情報化」だ。病院にはさまざまなデータがあるが、それは「事実」のみ。それを起点に方向性を議論することが重要と訴える。
「データの情報化」ではじめて議論がスタート
前号で、地域に求められる医療は何かを見極め、提供できる体制を病院ぐるみで構築することが必要とお話ししました。この「見極め」で大事になるのが、「情報」。自院の進む方向性について議論を交わすにしても、議論に役立つ情報がなければ、文字どおり机上の空論に終始してしまいます。
そこで気をつけたいのは、「デー夕を情報に変える」ことの重要性です。データ自体は事実を示したもので、それ以上に話を広げるのは難しい。ややもすると、「患者の入院単価が下がっているので日当点を上げる必要がある。加算を算定できる患者をたくさん集めよう」――といった短絡的発想になりかねません。データを眺めるだけでは、どこに課題があり、解決するにはどのような手立てを講じるべきかといった議論になりにくいのです。
私は“データの情報化”と呼んでいますが、「データによって現状は示されたけれど、ではどういう方向に進めばチャンスが広がるのか、自院の機能をフル活用できるのか」といった、判断を下すための“材料”に仕立てることが重要なのです。巷で見られる「情報」の多くは残念ながら、こうした分析が加わっていないように思います。
「発想の起点」を据えて分析を進めることが重要
分析を進めるには、「発想の起点」を持つことが重要というのが、私の考えです。相澤病院では、「75歳以上」「75歳以下」で傾向の違いを分析したことがあります。データを見ると、75歳以上の患者はやはり増えており、2040年あたりまで持続しそうだということがわかります。これを発想の起点として掘り下げていくわけです。
さらに、入院経路も加えて分析したこともありましたし、入院患者を予定・緊急入院別、診療科別など、切り口はいろいろ考えられます。疾患に焦点をあて、75歳以上の患者さんで増えている疾患は何か、増えているなら、それは自院だけなのか、それとも周りの病院もそうなのかと、深掘りするのです。そのうえで、そうした患者さんに対応するために強化すべき機能は何か。逆に、思い切って他院に委ねるべき役割や機能は何かといったことを追求していくのです。
データで示されている事実が自院だけの現象なのか、地域全体でも見られる傾向なのかといったことも、分析対象となり得るでしょう。10年前と比べ、自院の患者は85歳以上が増えている。そこまではデータでわかりますが、では、どういう患者が増えているのか――。
重度の脳卒中患者はほとんど来なくなったが、軽度の脳梗塞の患者さんは増えている。こうした患者さんの入院期間は何日間なのか、リハビリテーションの提供はどうなっているのか――といった議論に発展させていくのです。
他院の取り組み、たとえば「あの病院はここまでリハビリ提供をし、そのための態勢をこう敷いている」といったことがわかれば、打つべき対策も見えてくるでしょう。
分析を示し理解を求める
そのための人材も確保
こうした情報を現場と共有し、理解、納得してもらうことも重要。いくらデータを集め情報を分析できても、経営層から指示・命令を下すだけでは、実行できるとは限りません。むしろ現場からは、「現場をわかっていないのに何を言う」と反発を買うことになりかねません。必要なのは、経営層と現場で「事実は何か」を共有すること。ただ、「事実はこうです」といってもそれだけでは物事は進みませんから、「分析した結果」を示すのです。
そもそも人は、事実を把握し、それがどういう意味を持つのかを理解してはじめて理解し、納得するものです。本当に現場を動かそうとするなら、そうした理解と納得を得るための過程は欠かせません。国全体の状況や変化、あるいは二次医療圏の推移も添え、さらには将来予測なども含めて現場、とりわけ中間管理層にも「なるほど、そういう状況なのか」とイメージできる材料を提供しなければなりません。
そうした分析を進め、結果を経営層や現場に示せる人材も必要です。自院で常勤スタッフとして雇用することが難しいならば、外部に分析を頼んでもいいでしょう。たとえば日本病院会では、国際医療福祉大学の石川ベンジャミン光一先生にご協力いただき、希望する会員病院のDPCデータを分析していただいています。
大事なことは、そうした方向性についての議論を“どこまで進めるか”ということなのです。(『最新医療経営PHASE3』2024年9月号)
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。