栄養士が知っておくべき薬の知識
第148回
栄養障害による免疫力低下が病態に影響する
ヘルペス感染症に対する薬物療法

コロナ禍がいまだに終息していない状況ですが、今回は同じウイルス性の感染症のなかでも「ヘルペス」を紹介します。CMでも紹介されていますが、ヘルペスの1つである帯状疱疹は、ワクチンによる予防が有効な場合があります。適切な栄養管理が重症化予防につながることもあり、管理栄養士の役割が大切です。

ヘルペス感染症とは?

ヘルペス感染症は、口や性器などに感染症を生じる単純ヘルペス(Herpes Simplex Virus:HSV)や水疱(水ぼうそう)を起こす水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster Virus:VZV)などがあります。両者はともにヘルペス属ですが、感染制御や再発するかどうかなどの点に違いがあります。

ヘルペスウイルスについては、以前本稿でも取り上げました(2015年5月号)。ヘルペス治療薬では、腎機能の悪い方には投与方法が煩雑なアシクロビルなどが使われてきましたが、腎機能障害患者さんでも投与方法を変更する必要のないアメナメビル(アメナリーフ®)という薬が開発されたこと、単純ヘルペスの再発例に予防投与が認められたこと、帯状疱疹ウイルスに対するワクチン治療が始まったことなどが当時と異なる点です。

単純ヘルペスウイルスについて

単純ヘルペスの感染は、初めて感染した時と同じウイルスに再び感染する「再感染」、身体に潜んでいたウイルスが再活性化する「再発」の2つがあります。初感染時はほとんどの方で無症状ですが、なかには高熱など重篤な症状を呈する方もいますので、乳幼児や妊婦への感染に要注意です。
ウイルスに罹患すると、患部のピリピリした感じに続いて皮膚や粘膜に水疱やただれが起こります。部位で一番多いのは口唇部です。

単純ヘルペスは接触感染や飛沫感染で広がります。水疱やただれを起こした部分から多くのウイルスが排泄されています。このためウイルスに汚染された手指や器具または飛沫によっても感染が広がることに注意します。
性器ウイルスは口唇ウイルスとは違うタイプのウイルスですが、粘膜などを介して感染することがあるため、パートナーとはコンドームを使用するなど粘膜に触れない注意が必要です。

感染後も神経細胞などにウイルスが遺伝子として潜伏するため「再発」するケースも多く見られます。再発は、潜伏しているウイルス量や免疫力低下などによって生じ、多くは1年以内に再発します。軽症例では、皮膚表面の症状だけで済むため軟膏やクリーム剤を使って治療しますが、外用薬はウイルスの耐性化が懸念されるため薦められないケースもあります。

病状が中等症以上では抗ヘルペス薬であるアシクロビル(ゾビラックス®)やバラシクロビル(バルトレックス®)、ファムシクロビル(ファムビル®)などの内服薬を使います。
重症例や免疫力が低下している高齢者やがん、エイズ患者などでは、アシクロビルやビダラビン(アラセナ®)の点滴静注を行います。これらの薬は主に腎臓から排泄する薬です。したがって、腎機能障害患者では薬が蓄積してしまうため、投与量を減らしたり1日の服用回数を減らしたりする必要があります。

過量となった場合、嘔吐・下痢といった胃腸管症状や「脳症」と呼ばれる精神神経症状が現れます。精神神経症状としては、構音障害が挙げられます。これは、何かを「伝えたいと口を動かしているけれ「ども言葉になっていないという特徴の症状です。
内服薬の場合、吸収された薬の成分のほとんどは腎臓から排泄されると医療者に認知されていることが盲点になっているようです。これに対して同じ抗ウイルス薬のアメナメビル(アメナリーフ®)は肝臓で代謝される薬で、腎機能障害患者でも投与量や投与方法を変更することなく投与可能です。

これらの抗ウイルス剤は、ウイルスのDNAを壊す働きがありますが、これは身体内でのウイルスの増殖を防ぐ作用で、ウイルスを死滅させるわけではありません。このため身体に多くのウイルスが入り込んで感染症を発症した場合、あるいはウイルスが身体で増殖してしまったという場合には十分な効果が望めません。症状が出たら「すぐに使わない」と意味のない薬です。薬の添付文書には、皮疹ができて5日以内に投与を開始することとなっています。

「再発」にも使われるようになった抗ウイルス薬ですが、一度感染症を発症した部位がピリピリしたり、熱感を覚えるなど、感染発症の前駆症状が見られたらすぐに抗ウイルス薬を使うことです。単純ヘルペス感染症の再発を繰り返す患者さんの場合、「抑制療法」といって抗ウイルス薬を毎日内服し続ける方法も行われます。場合によっては、PIT(Patient Initiated Therapy)といって、チクチク・ピリピリという違和感が出たら患者さん自身の判断ですぐに抗ウイルス薬を使うといった方法も取られます。

水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)について

ヘルペス属のウイルスでも水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster Virus:VNV)は、単純へルペス感染症よりも症状が重篤です。子どもの頃に罹った水痘が身体内に潜んでいて、若者であっても過労などによって免疫力が低下すると帯状疱疹ウイルスが活性化してしまう場合があります。もちろん、高齢者やがん患者さん、栄養障害患者さんもリスク因子と言えます。

VZV抗体を有する人の約20%が罹患するとされ、加齢にしたがってこの割合が増えていきます。ただし、帯状疱疹罹患者の統計では、20~50代にピークがあるとされます。子どもの頃にワクチン接種をしたとしても、周囲で水痘が流行らなかったために抗体が増える機会が少なく、帯状疱疹を発症してしまうことが考えられます。

帯状疱疹の初期症状は、胸や腹部などの上半身に起こりやすく、痛みを伴う水疱やかゆみを伴う発疹が片側に帯状で現れます。虫さされと似た症状のため見逃されやすく、放置しておくと熱感や発赤、刺すような痛みに変化し、帯状疱疹と診断されるケースが多く見られます。

ウイルスによって神経が障害された場合、帯状疱疹後神経痛といって激しい痛みを伴います。帯状疱疹患者さんのうち30~50%がこの神経痛に罹るとされ、この神経障害性疼痛の治療はとても難渋します。そのため帯状疱疹を予防する目的で帯状疱疹ウイルスに対するワクチン療法(シングリックス®)が広まっています。

ワクチンは免疫抑制状態の人や高齢者に限って使われてきましたが、現在は18歳以上で自家造血幹細胞移植や腎移植を受けた人、血液がん、固形がん、HIV感染症に罹患している人への投与も認められるようになりました。ワクチンの接種は自費となり医療機関によって接種料が異なりますが、概ね一回2万2000円程度で接種してもらうことができます。地域によっては助成を受けることもできます。

おわりに

ウイルスは細胞の中に入り込むため、治療薬をつくることが難しく特効薬は限られています。そこで行われるのがワクチン療法などですが、COVID-19でも重症化のリスク因子として、加齢などとともに糖尿病、脂質異常症、高血圧症といった生活習慣病が挙げられています。これらは、日頃の適切な栄養管理によって重症化が避けられる可能性があります。管理栄養士による栄養指導はこのような場合にも役立っていると思います。(『ヘルスケア・レストラン』2023年12月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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