社会保障短信(9月19日号)

医療・介護福祉など社会保障関連の情報をお届けします。

トピックス…高齢者救急や「病院機能」報告などが論点に
ひとこと…社会保障支出について
今週の数字…47.3兆円

トピックス:高齢者救急や「病院機能」報告などが論点に

▼急性期機能の「広域化」も
「新たな地域医療構想等に関する検討会」は9月6日、第8回の会合を開いた。議題として入院医療機能が挙がり、厚生労働省は「医療機関機能の設定の考え方(案)」「病床機能・医療機関機能の基本的な考え方(案)」を示した。
2040年に求められる医療機能として

▽高齢者救急の受け皿となり、地域への復帰を目指す機能
▽在宅医療を提供し、地域の生活を支える機能
▽救急医療等の急性期の医療を広く提供する機能

―の3つを示している。

あわせて「より広域な観点から、医療提供体制を維持するために求められる機能」として

▽医師の派遣機能
▽医育機能
▽より広域な観点で医療を担う機能

――を掲げた。

2027年度から取り組みが始まる新たな地域医療構想だけでなく、診療報酬改定をはじめ他の医療政策にも影響を及ぼすことが考えられるだけに、この議論の成り行きは見守るル必要がありそうだ。

▼リハ職以外によるADL低下防止を提言
「医療機関機能の設定の考え方(案)」では、高齢者救急に焦点が当たっている。必要な機能・論点について、

▽受け皿となる医療機関では救急搬送を受けるだけでなく、入院早期からのリハビリ等、離床のための介入が必要
▽高齢者が抱える背景事情も踏まえて退院調整を行う等により早期退院につなげる
▽他施設とも連携しながら通所や訪問でのリハビリを継続できる体制が必要

――といった視点を提示した。

これらの背景として、次の実情を報告している。

▽85歳以上の高齢者の入院における疾患は、若年層と比べて頻度の高い疾患の種類は限定的で、手術の実施が伴うものは少なく、多くの病院で対応されている
▽高齢者はベッド上での安静により筋力が低下することが知られており、入院早期からの離床槍はビリ、早期の退院により身体活動を増加させることが重要
▽入院でのリハビリよりも通所でのリハビリが有用な可能性や、リハ職以外による早期の離床の介入の有用性が示されている
▽高齢者の入院の4%を示す大腿骨近位部骨折については早期手術が推奨されているが、手術までの機関が長い医療圏がある。手術実施施設内で転棟した場合より、他院に転院した場合の在院日数が長い傾向がある
▽高齢になるほど在院日数は長くなり、要因としては疾病によるADL低下や認知症等の合併症のほか、単独世帯の増加等の背景も考えられる。高齢者の単独世帯の割合は2040年に向けて更に多くなる見込み

資料では入院時のADL低下防止について、「リハ職以外の介入の有用性についても一定の成果が報告されている」と指摘している。看護師による20分程度のベッド外での活動プログラムで80歳以上の心疾患患者の在宅復帰率や入院時死亡の改善が見られたというもの。このあたりの議論は高齢者の急性期医療を念頭に新設された地域包括医療病棟の算定要件のあり方にも影響を及ぼしそうだ。

▼政医療機関機能も報告対象
「病床機能・医療機関機能の基本的な考え方(案)」では、

▽必要病床数の推計に係る病床機能区分については従来どおりの区分(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)とする
▽高齢者救急の受け入れ、救急・急性期の医療の提供を広く行う医療機関機能を明確にした上で、医療機関機能を報告する

――という案を示した。

背景としては
①現在の病床機能区分の違いが分かりづらい
②地域包括ケア病棟や地域包括医療病棟など急性期と回復期の両方の機能をもつ病棟が地域医療構想後に新設された
③病床数に着目した協議になり医療機関の役割分担・連携につながりにくい
――といったことから、医療機関の報告に課題が生じていることを指摘している。

こうしたことを踏まえて、新たな地域医療構想では、「病床区分ごとの必要量」「医療機関機能の明確化」「医療機関の報告等」の3つの観点から医療提供体制を構築するというイメージを提示した。

現在の地域医療構想調整会議は病床数の数合わせが中心で、行政による報告に大半の時間が割かれているとの指摘もある。また「病床ごとの機能分類」については医療側の反発も大きいだけに、こうした観点の見直しを求める声はさらに大きくなるかもしれない。

ひとこと:社会保障支出について

「今のような再分配国家、福祉国家全盛の時代に、絶対君主制の時代に生まれたカメラリズム的な国家の収入と支出を分離した形で議論すれば、支出側面で社会保障の悪口を言って、その悪い制度の負担を国民に強いるというストーリーにどうしてもなっていくのではないのかなと思っています」
権丈善一
慶応義塾大学商学部教授
~税制調査会(第2回総会)2024年5月13日

今週の数字:47.3兆円

2023年度の概算医療費。対前年同期比で2.9%増加した。2019年度から2023年度までの平均伸び率は2.1%の増加となっている。(出典:中央社会保険医療協議会総会資料「令和5年度の医療費の動向について」2024年9月11日)
(文/ヘルスケア・マネジメント.com)

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