Dr.相澤の医事放談
第51回
地域医療構想の実効性を高めるため
「病院機能」「日常生活圏」を軸に検討

「新たな地域医療構想」の検討が始まっている。ここでプレゼンテーションした相澤孝夫先生は、地域医療構想のあり方そのものを見直すことも提唱。大きくは分化・連携の単位を「病床機能」から「病院機能」に変更すること、構想区域の設定も二次医療圏から日常生活圏を基礎単位とし、そこから積み上げていくというものだ。

分化・連携の単位は「病床機能」から「病院機能」へ

「新たな地域医療構想に関する検討会」では、地域医療構想のあり方の見直しも提言しました。まず、地域医療構想の主題を「病床機能分化」から「病院機能分化」に変更することを訴えました。
これまでの地域医療構想は、病院機能分化ではなく入院機能だけに絞った病床機能(実際には病棟機能)のもとで議論を展開してきましたが、病院の機能分化と連携を推進するうえでは不十分だったと言わざるを得ません。病床機能に限定してしまうことで「病院内で病床機能分化を進めればいい」と受け止められ、それ以外は「病院の自由にやっていい」と解釈されてしまうからです。これでは、何のための地域医療構想かわからなくなります。
それに、一般の皆様に「病床機能」を示しても、病院を選ぶ際の参考にはならないでしょう。病院ごとに機能を明確にして示すことはこうした面でも役に立つと思います。
これまでの病床機能別に計算された必要病床数は、病床が過剰とならないための目安の数値として活用することも考えてもいいかもしれませんが、意識しすぎることは避けるべきでしょう。

構想区域設定は入院のほか外来・介護・生活支援も勘案

もう一つ、「構想区域の設定」も見直すべきポイントです。大半の都道府県が2次医療圏域を地域医療構想区域として設定しています。その根拠となる医療法施行規則第30条の29には「一体の区域として病院及び診療所における入院に係る医療を提供する体制の確保を図ることが相当であると認められるものを単位として設定すること」とあり、これもそうしたことの背景に挙げられるでしょう。しかし、そもそも、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制を構築する地域範囲を考えるならば、入院医療ばかりではなく外来医療や在宅医療、救急医療も含めて総合的に考える必要があります。現行の医療圏は1985年に設定されたもので、社会の発展や医療機関の地域偏在を考慮すると、抜本的な見直し、医療圏間の連携の構築は不可欠でしょう。

前回、「日常生活圏」に基づいて医療提供のあり方を考えるべき――と述べましたが、これもそうした問題意識が背景にあります。高齢者が増加するなか、医療・介護・予防・住まい・生活支援サービスを適切に提供できる地域での体制をつくる日常生活の場を、医療提供体制を構築するための基本的地域単位とするのです。その基本的な地域単位の医療を守るにはどのような地域を医療提供体制の単位とするのが望ましいかという視点に立つことで、本当に必要な医療提供体制の構築につながるはずです。

「日常生活圏」を基礎圏域に
「地域医療圏」「広域医療圏」設定

そこで今回、「新たな圏域の考え方」を提案しました。まず、医療提供体制構築のための圏域として、市町村の介護保険事業計画で定める「日常生活圏」を基礎圏域とします。
この日常生活圏を1~10程度集めた、車での移動時間30分程度の地域を「地域医療圏」とし、医療・介護・生活支援の総合的確保を図る圏域とします。域内には必ず地域型病院が1施設以上あり、加えて、病診連携が行えていること、在宅医療体制や医療介護連携が構築され、日常的医療が地域内で完結することを条件として求めます。
さらに、10程度の地域医療圏からなる、車での移動時間60分程度の圏域を基本とする「広域医療圏」を設定します。地域型病院が担うことは難しい医療を提供する広域型病院が2施設以上あることを条件に、都道府県が定めます。
地域によっては病院の偏在を是正する必要があるかもしれませんが、こうした是正は、新病院を建設したり統廃合で行うのではなく、今ある病院を活かすことを前提に、病院ごとの役割を明確にしたうえで、圏域の範囲を調整することで医療提供体制を構築すべきです。
地域型病院と広域型病院の確保にあたり都道府県は、それらの病院が実施してきた医療提供や医療機関のデータ、病床機能報告、外来機能報告、今後実施されるであろうかかりつけ医機能報告のデータをもとに、必要な機能を有する病院と協議のうえで協定を結ぶことも提唱します。協定を締結した病院には、国や都道府県が補助金や助成金などを通じた支援を行うことも検討していただきたい。
こうした仕組みによって医療提供体制、財政の両面から見て持続可能な体制づくりを着実に進めるべきです。(『最新医療経営PHASE3』2024年7月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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