ケーススタディから考える診療報酬
第24回
訪問看護との戦略的な連携を考えているか?

2年に1度の診療報酬改定、3年に1度の介護報酬・障害福祉サービス改定と、制度により改正のタイミングが異なりますが、訪問看護はいずれも関係するという特殊な側面があります。その複雑さを理解し、組織だって効率的な経営を実現している事業所もあれば、制度改正を戦略に活かすことができていないところも少なくないようです。今回は、「戦略的な訪問看護との連携」を考えていきましょう。

ケース:訪問看護ステーションとどう連携する

*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)

法人内にケアミックス病院(急性期・回復期病棟)、訪問看護ステーション(常勤看護師5人、機能強化届出なし)を有する組織のお話です。訪問看護の業績が悪化していることと、病院と訪問看護との連携が課題になっていました。
同時改定の対応を考える時期に、筆者はこの訪問看護ステーションへ経営支援を行うことになりました。

筆者「改定対応はいつもどのようにされていますか?たとえば届出関係など」

訪看「法人の事務さんが……やってくれているようです」

法人事務「いつも届出の締め切り直前に必要な部分だけ訪看に質問する形で……。今回は、改定の説明を5月中旬に行おうとしていました」

よくよくお話をうかがうと、病院どころか訪看と法人事務との連携もほぼなし。そもそも、法人事務は請求業務を担当することが仕事であるという認識で、「事業所の業績を上げていくにあたり、どのような加算の取得が可能か」という戦略的な議論の場はなかったとのこと。
どうやら、法人事務としては法人内にある病院の診療報酬対応で人手がとられるため、収入の規模が小さく業績が悪い訪問看護に対する優先順位が著しく低くなっていたことが要因のようでした。

筆者「今回の同時改定はこれまで以上に『連携』が重視されています。それは他事業所と連携を行うことで収入が上がることを意味します。事務との連携は請求に直結するため、まず重視しておかなければなりません。たとえば介護報酬の改定で初回加算に新しい分岐が加わりました(下表)。ご存じですか」

訪看「退院日に行かないといけないのですよね……。実際に行ったことはありますが、スケジュールが合えばというときだけで……。いくら点数が高くなったといっても……」

筆者「つまり、退院日が早めにわかっていればスケジュールが調整しやすいのでIの算定が期待できますね。事前に退院日の調整ができていれば退院時共同指導加算の算定に向けたスケジュール調整もできるはずです。これらについて法人内で協力できていれば、病院にとっても在院日数の最適化につながり、法人全体の経営改善を図ることになります」

訪看・事務「事務としては、今までは事業所の人員は少ないので新しくできることはないと考えていました。訪看側は、改定は他人事だったので事務がうまくやってくれるだろうと新しい制度を知ろうとしていませんでした。制度について、請求担当である事務と一緒に理解することが重要なのですね」

表 初回加算の改定について(介護・介護予防共通)

旧制度 新制度 算定要件 ※IとIIは当時算定不可
300単位/月 初回加算(I):
350単位/月
*新設
新規に訪問看護計画書を作成した利用者に対して、病院等から退院した日に初回の訪問看護を行った場合に算定が可能。
初回加算(II):
300単位/月
新規に訪問看護計画書を作成した利用者に対して、病院等から退院した日の翌日以降に初回の訪問看護を行った場合に算定が可能。

今次改定で、訪問看護の介護報酬における基本報酬は上がりましたが、ほとんどがプラス1単位、最大でもプラス3単位と、この物価高に対応しているとは言いがたい状態です。診療報酬の基本療養費に至っては変化はありません。しかし、初回加算をはじめ多くの「新加算」が登場しています。専門的研修を終えた看護師が行う管理に対する加算「専門管理加算」や、今回の目玉となるケアの視点の一つである「口腔連携強化加算」など、充実したケアに対する加算が増えています。
また、24時間対応体制の充実に向けた看護師の業務負担軽減策を取っている事業所に対する新たな評価も新設されています。

当然のことながら大半の場合、新加算算定には事業所として体制を整える必要が出てきます。特に法人内に訪問看護があるなら、訪問看護だけでなく、病院にとっても利益につながる加算の算定方法を考えることができるはず。もし法人内の訪問看護の改定対応に不安があるなら、改めて、診療報酬・介護報酬改定における訪問看護の変化について法人内で再確認されてはいかがでしょう。きっと新たな気づきがあるはずです。(『最新医療経営PHASE3』2024年7月号)

結論

制度をうまく活用し自組織の経営改善に活かそう!

上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立

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