デジタルヘルスの今と可能性
第79回
GPT-4oの登場で感じた
医師のあり方を変える可能性

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。

医師と患者の負担を減らす問診AIが登場する予感

今回は先月に引き続き、生成AIによる今後の医療の未来の展望について話をしていきます。
特に今回は、2024年5月13日にOpenAI社からリリースされた最新のAーモデル「GPT-4o」について話をしていきます。この「o」とはOmniの略で、テキストだけでなく音声や画像など、さまざまな形式のデータを処理できるのが特長であり、医療業界にも、大きなインパクトを与えそうな予感がしています。

GPT-4oについて、何よりも特筆すべき点は、昨年3月にリリースされたGPT-4と比べた音声処理の精度と速度の向上です。
従来は音声をテキストに変換して、それをAIが解釈して回答を生成し、再び音声に戻すという手順を踏んでいたため、レスポンスに時間がかかっていました。しかし、GPT-4oでは、音声を直接処理することによって、リアルタイムでの自然な対話が可能になっています。
これは医療現場、特に問診の場面において大きな変革をもたらすと考えています。
これまでのチャットボット型の問診アプリでは、患者さんがテキストで入力する必要がありました。しかしGPT-4oを活用すれば、音声で自然に会話をしながら、AIが必要な情報を引き出していく。そんな問診AIの登場が近づいています。

GPT-4oを経験してもらうとわかるのですが、とても自然に、そして素早く答えてくれることに感動します。これは医師の負担軽減につながるだけでなく、患者さんにとってもメリットは大きいはずです。キーボード入力が苦手な高齢者や、文字を書くのが難しい体の不自由な方でも、音声でスムーズにやり取りができる。医療アクセシビリティの向上にも寄与していきます。

画像認識能力も向上
X線画像の読み取りも可能に

GPT-4oのもう一つの特長が、画像認識能力の向上です。
医療の現場では、レントゲンやCTなど、画像データを用いた診断が欠かせないのは言うまでもありません。
GPT-4oに胸部X線画像をアップロードして「この胸部X線の所見を教えてください」と指示すると、肺野では「肺野における明らかな異常陰影は認められません」「肺紋理は左右対称であり、特に増加や異常は見られません」、心陰影では「心陰影は正常範囲内であり、心拡大は認められません」、縦隔は「縦隔の幅は正常範囲内です」「縦隔リンパ節の腫大を示唆する所見はありません」、胸膜は「胸膜肥厚や胸水の所見は認められません」、骨構造は「肋骨、鎖骨、脊椎に明らかな骨折や異常所見は認められません」――と所見を読み取ってくれます。
もちろん精度としてはまだまだ不十分だとは思いますが、AIですのでこれからの精度の向上が期待されます。

味方につけられるか否か
AI活用が勝敗を分ける

前回のMed-Geminiのときにも書きましたが、こうしたAIの医療応用が進むなかで、開業医の先生方に心に留めておいていただきたいことがあります。
それは、これから起きるのは「医師vsAI」という構図ではなく、「AIを活用しない医師vsAIを活用する医師」の戦いであるということです。
そして私はこれから、「AIを活用しない医師が、AIをうまく活用する医師に負ける。AIを活用するかしないかで2極化が進む」と考えています。
AIの登場によって、医師の役割が奪われるのではないか。このような懸念の声がいまだあるのですが、AIはあくまで医療従事者の能力を拡張するツールであって、代替するものではありません。
むしろ、AIを味方につけることで、より高度で効率的な医療を提供できるようになります。
問診や画像診断、治療方針の決定など、さまざまな場面でAIの支援を得ながら診療を行う。それが、必ずこれからの医師に求められるスキルになっていきます。AIを活用して、より多くの患者さんに最適な医療を届けられるようになる。そんな時代が、目の前に広がっています。

逆を言うと、AIの活用に後れを取ってしまうと、医療の質や効率という点においても大きなハンデを負うことになっていきます。おそらくこれはここ1~2年が勝負で、5年もすればAIをうまく使いこなす医師との差は明確になり、その後はますます開いていくはずです。
だからこそ開業医の先生方には、今からAIについて学び、クリニックのなかの業務や診療に取り入れていく姿勢が欠かせないと考えています。

GPT-4oやClaude3など、さまざまなAーモデルがありますが、それぞれの特長を理解し、自院の業務にどう活かせるかを考える。そんな先見性が、これからの大きな医療の変革のなかで生き抜くポイントなのではないかと考えています。

生成AIの進化が医療DXを加速させる

GPT-4oやClaude3に代表されるAI(生成AI)の進化は、医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)を個人レベルで加速させていきます。
クリニックにおいても国の医療DX政策によって電子カルテの普及、オンライン診療の拡大、ウェアラブルデバイスの活用など、デジタルヘルスの取り組みは着実に広がっています。
そこにGPT-4oなど生成AIの技術が融合することで、業務効率化、診断の高度化、治療の最適化、予防の精緻化など医療の可能性は大きく広がります。
そして何より、患者さん一人ひとりに寄り添う、本来の人間味あふれる医療の実現。それこそが、これからの医療に求められる変革の方向性であると考えています。

ぜひ読者の先生方も、こうした変化の波に乗り遅れないことが大切です。AIやデジタルヘルスを実際の診療に活かすためには、興味を持って、まず自ら学んで使ってみることから始めるのが得策です。本当に私自身、1人の医師として大きな時代の転換点にいると感じています。(『CLINIC ばんぶう』2024年7月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室・デジタルハリウッド大学大学院客員教授/東京医科歯科大臨床教授/THIRD CLINIC GINZA共同経営者)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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