“その人らしさ”を支える特養でのケア
第78回
「一体的な取り組み」で栄養ケアの充実を図ろう
令和6年度の診療報酬・介護報酬の改定により、「リハビリテーション(機能訓練)、口腔、栄養の一体的な取り組み」に注目が集まっています。この一体的な取り組みによって、どのようなメリットが得られるのでしょうか。1職種ではなく多職種で介入することの意義を実感した事例を紹介します。
医療も介護も「多職種連携」がキーワード
令和6年度の介護報酬改定において、リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取り組み(以下、一体的取り組み)に対する加算が新設されました。これは、管理栄養士、歯科衛生士、セラピストの3職種による情報の共有やケアプランを統括することで「自立支援・重度化防止を効果的に進めること」を目的としています(表1)。
表1 介護保険施設におけるリハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取り組みの推進
厚生労働省:令和6年度介護報酬改定における決定事項について、001230329.pdf(mhlw.go.jp)(2024年4月15日)
一体的取り組みについては、診療報酬でも「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」が新設され、さまざまな専門職種による視点を活かした栄養管理を行うことが期待されています。
令和3年度の介護報酬改定でも一体的取り組みの推進について明示されていましたが、6年度で加算が新設となったことで、医療も介護も多職種が協同して治療やケアにあたることが重要であるということにお墨付きをいただいた気分です。
一方で、「3職種が一体的に取り組んで!と言われてもどうしたらいいかわからない」とお悩みの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、3職種が一体的に取り組むことでより充実した栄養ケアとなりますので、仮に、加算要件が揃わず算定が難しい場合でも、ぜひ、取り組んでいただきたいと思います。
他職種の意見で気づくこと
さて、当施設では4月から一体的取り組みに対する評価である「個別機能訓練加算III」の算定を開始しました。この算定において、当施設で管理栄養士がどのようにほかの2職種と協働し、ケアに取り組んでいるか紹介します。
以前、本稿でも紹介していますが、当施設では1つの執務室を機能訓練、歯科、栄養の3職種で共有しています。メンバーは、管理栄養士2人、機能訓練指導員として作業療法士が1人、歯科衛生士が1人の計4人。今回の加算算定が開始される前から、ご利用者の状況はもちろん、施設内のイベント等の相談などなど、雑談も含めてさまざまな情報交換を行っています。
必要であれば複数の職種で一緒にアセスメントを行うこともあり、同じ時間のなかで見たことを、それぞれの専門的な視点から考察して意見交換をすることも多いです。意見交換のなかでは、専門であるがゆえの深い考察を聞くこともでき、管理栄養士だけでは考えつかなかった新たな課題に結びつけることができています。
【作業療法士との連携ケース】
作業療法士とアセスメントを行ったご利用者のKさんは、神経性の難病で生活全般に介助が必要です。食事は取っ手付きの器に盛り付けると自力摂取が可能であり、自力摂取の継続を目標に、食形態の調整はもちろんですが、盛り付けの工夫や食事意欲の維持のための活動維持を中心に、栄養ケアを行っています。
ある日評価したのは、食事中の姿勢です。経緯として、Kさんのミールラウンドをした際、食べにくそうにしていることに気がつきました。よく見ると、座り姿勢が悪いように感じます。そこで作業療法士に相談しました。
ほかのご利用者のケースでも、食事の姿勢が悪い時、介護職員に依頼して姿勢の修正をしてもらいますが、ご利用者の身体的な状況によってはすぐに姿勢が崩れてしまうこともあります。そのため、作業療法士が試行錯誤して食事中の姿勢が保持できるようにしています。
Kさんのケースでも、これまでのように移乗方法や車いす上のクッションの当て方などの調整を行うことになるだろうと思っていました。しかし、作業療法士の視点から出された意見は、「傾眠傾向の改善」でした。確かに、食事以外の場面でもうとうとと眠そうにしていることが多いKさん。「車いす上で眠ってしまい、座位姿勢の保持が困難になっているのではないか」という評価でした。
普段よく経験する体幹保持機能の低下が食べにくくなっている原因ではないため、まずは、傾眠傾向の原因を見つけ対応することになりました。
【歯科衛生士との連携ケース】
歯科衛生士とは、認知症のEさんに対して一緒に取り組みました。Eさんは入居後に義歯のつくり直しを行っており、歯科衛生士がすでにかかわっている方です。
ある日のミールラウンドで、Eさんがご自身の食事トレーの上に義歯を取り出して置いているのを発見しました。食事は食べ始めたばかりで、半分以上残っています。介護職員からは、「最近、義歯を外してしまうことが増えている」という情報が得られました。
われながら短絡的なのですが、義歯を取り出してしまうのは、口の中で義歯が当たって痛いからなのだろうと判断していました。しかし、そのあと一緒にミールラウンドを行った歯科衛生士から「認知機能の低下によって義歯を使うことができなくなっている」と聞いたのです。そして、「義歯も道具であるため、認知機能の低下によって使い方がわからなくなってもおかしくない」と続きました。
義歯はどの方も自然に使えているように見え、また、これまでも歯科医院に依頼して合わなくなった義歯の修正を行った事例を何例か経験していたため、「歯茎に合わせてつくれば問題ない」と思っていました。痛みや緩みを防ぐためにも口に合う義歯を使うことはもちろん重要なのですが、それだけではなく、ご利用者本人が「義歯を使おう」と認識することも大切なのだと、歯科衛生士の意見から気がつきました。
視野が広がることこそ多職種連携の醍醐味
ミールラウンドでのご利用者の様子を評価している時にも、自分の知識では対応できない問題に気がつくことはありませんか?管理栄養士が対応できることだけに留まるのではなく、ほかの職種に意見を聞いてみると、思いもよらない、そして自分の考えよりさらにいい解決策が見つかります。これこそが多職種で協働してケアを行う醍醐味であると、私は思っています。
皆さんもぜひ、一体的な取り組みをきっかけに、管理栄養士に期待されているさまざまなケアへのかかわりを広げて、多職種協働の醍醐味を味わってください。(『ヘルスケア・レストラン』2024年6月号)
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る