Dr.相澤の医事放談
第50回
日常生活圏での入院医療は
「地域型病院」が中心になる

「新たな地域医療構想等に関する検討会」が始まった。2040年頃を視野に、医療・介護の複合ニーズを抱える85歳以上人口の増大等に対応すべく、医療・介護連携等を含め、地域全体の医療構想として検討するというもの。4月17日の第2回会合で相澤孝夫先生は、「日常生活圏を支える地域型病院」を提唱した。

日常生活圏のなかで完結できる医療体制

「新たな地域医療構想等に関する検討会」でプレゼンテーションするにあたり訴えたことの一つが、「今後増えていく後期高齢者、なかでも85歳以上の方々が住み慣れた地域で暮らし続けるにはどのような医療提供体制が必要か」という視点を持つことでした。介護保険制度では地域包括ケアシステムの構築が謳われ、中学校区を目安として「日常生活圏域」が設けられていますが、医療資源の配分は顧みられていません。診療所はあるが病院はない、診療所はないが病院はある、診療所も病院もないなどさまざまです。

85歳以上になれば多くの人が複数の疾患を持ち、日常的に医療機関にかかります。そうした人たちが日常の生活圏を越えて遠くに行かなくても、せめて隣の生活圏で診てもらえる体制が構築できれば、安心して暮らし続けることができるだろうとの考えが根底にあるのです。
すべての日常生活圏のなかに診療所や病院を設けるのは非効率で、隣接する生活圏間で連携・協働し、医療提供体制を構築するのが現実的。そうした「身近な医療圏」を「地域医療圏」とし、そのなかで日常生活を送るために必要な医療機関を整備していくという発想です。そこには、やはり1つ以上の病院が求められます。というのは、日常的な診療のなかには入院医療が必要というケースも出てくるからで、その受け皿は欠かせません。そうした役割を果たす病院を「地域型病院」と位置づけ、これがあることで、日常生活圏である程度の医療は提供できるようになります。がんや虚血系心疾患、脳血管内治療などのいわゆる高度医療は、ある程度、機能を集約させた病院で担うことが望ましい。私はこうした病院を「広域型病院」と位置づけています。こうした疾患は全国的に見ても横ばいか減少傾向にあるので、地域型病院が無理に医療設備を整えて受け入れる必要はないでしょう。

地域型病院に必要な医療機能とは何か

地域型病院に入院してくる患者の大半は後期高齢者と想定されます。広域型病院での治療を終えた患者さんもいるでしょうが、疾患のほとんどは内科系急性期になると考えられます。具体的には肺炎や軽度の脳梗塞、心不全、尿路感染症、あるいは感染性腸炎など、日常生活で頻発する疾患ばかりです。
もちろん、外科にはいっさい手を出さないと決めつける必要はありません。大腿骨頸部骨折や白内障の手術などは対応できるでしょう。ただ、広域型病院に備わっているような高度医療設備を揃えてまで対応する必要はありません。外科治療はどこまでカバーするかは、自院の実情に基づいて決定すればいい。

例外もあるでしょう。たとえば、相澤病院は高度急性期の患者さんも受け入れており、私の分類では「広域型病院」になりますが、実際には大腿骨頸部骨折も診ています。というのは、近隣に手術を担える整形外科医が在籍する病院がないからです。その代わり、手術をして急性期を脱したら、後は住まいに近い病院に受け入れていただき、在宅に向けて回復期医療を提供する役割を担ってもらうことにしています。
こうした病院の担い手として私が想定しているのは、250床前後の病院です。地域医療支援病院などは適任だと思っていますが、何も国が決めたルールに一律に従うのではなく、地域の医療資源に照らし合わせて柔軟に連携体制を築けばいいということです。

地域型病院では「治療」以外
生活機能維持・回復にも注力

地域型病院の機能を定義するなら、「入院治療」ではなく「入院医療」のほうが適切だろうと考えています。ここで求められるのは「治療」だけではないからです。入院した瞬間から、介護の重度化予防や廃用症候群への進展を防ぐためのリハビリテーション、さらには、退院後の生活・療養支援の調整を行う必要があります。栄養状態を確認し、十分でなければ何が原因かをつきとめる必要もあるでしょうし、もしかしたら、口腔ケアがうまくいっていないことが背景にあるならばそうしたケアも必要になってきます。これらは、「病気が治ってから始める」のでは遅い。「治療と同時並行で始めなければならず、そうでないと生活機能が落ちてしまうのです。まさに、2024年度診療報酬改定で新設された「地域包括医療病棟入院料」が想定している入院医療になるわけです。
これからの社会は変化していくのですから、それに応じて、医療を提供する側も変わらなければいけないという意識も強くあります。(『最新医療経営PHASE3』2024年6月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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