栄養指導で”あるある!こんなこと”
第131回
シルバー人材センターに登録で
身体を動かし働いて数値が改善傾向に

今回紹介するTさんは定年退職後、なかなか血糖コントロールができなかったのですがシルバー人材センターからの紹介で仕事を始めてから病態が改善した方です。糖尿病だけでなく、フレイル予防の点からも参考になるのではないでしょうか?

食事内容は変わらないのにHbA1cが下がらない…

Tさんは、身長157cm、体重は65kgでBMIは26.4kg/㎡とややぽっちゃりした体格の方です。通院歴は10年程度。定年退職後、血糖値が徐々に上がってきてコントロールができなくなり、3~4年前に栄養指導を開始しました。当初はHbA1cが6.8%程度でしたが、栄養指導を開始して食事療法のみでHbA1cが5%後半まで改善し、5%後半~6%前半で推移していました。

田村:こんにちは、Tさん。今日も体重測定からお願いします

Tさん:はい

栄養指導前には必ず栄養指導室で体重測定を実施します。その後、採血や尿検査の結果を見て患者さんとお話し、栄養指導後に主治医の診察の流れになっています。当クリニックの栄養指導は完全予約制で、予約がある方は外来が混んでいても優先的に採血→尿検査→栄養指導→診察→会計とスムーズに受診できるので、栄養指導の予約件数増につながります。

田村:体重は前回と変わらないですね

Tさん:よかった。体重とHbA1cが心配でいつもドキドキするわ

田村:そうですよね。ほかの患者さんも同じみたいですよ。Tさんはお家で体重を量っていますか?

Tさん:はい。栄養指導を受けるようになってからは、毎日お風呂上りに量るようにしています

田村:大事ですね。続けてくださいね。ところで最近、HbA1cがちょっとずつですが上がってきていますね

Tさん:そうなんです……

田村:食事もあまり変わってはいないですもんね。まぁ年齢的にも少しずつ上がってくることはあるので、様子を見ながらこれまでどおり頑張ってみましょう

Tさん:そうですね。食事も特に変えていないし、運動も適度にしています。間食もゼロではないですが、そんなには食べてないんですけどね

田村:そうですね。少し様子を見ましょうね

シルバー人材センター登録で身体を動かす生活へ

その後、数カ月様子を見ていましたが、やはり少しずつTさんのHbA1cは上昇して7.0%まで上がってしまいました。

田村:7.0%は少し高めですね。先生は何かおっしゃっていましたか?

Tさん:年齢もあるから7%前半まではいいけど、それ以上にはならないように気を付けてって言われました。孫も大きくなって特に世話をすることもなくなったし、家事も一緒にいる娘が結構やってくれるので動くことが少なくなりました。そういう影響もありますか?

田村:そうですね。家事でも結構動くので、それが減った影響はあるかもしれませんね

Tさん:確かに前よりもテレビを見て過ごす時間が増えています

田村:運動は以前と変わらず1時間程度やっていますもんね。それでも家事などが少なくなって活動量が減った影響が大きいのかもしれませんね

その後、注意深く様子を見ながら食事記録なども実施してもらい、何とか7%前半でキープして経過していました。そして、その半年後ぐらいから、今度は徐々に数値が改善してきました。

田村:Tさん、すごいですね。先々月のHbA1cが7.1%、先月が6.9%、今月が6.8%で下がってきましたね。何か変化がありましたか?

Tさん:先日、友人からシルバー人材センターでの仕事の話を聞いて、センターへ行って登録をしてみたんです

田村:それはいいじゃないですか。何かお仕事をやってみたんですか?

Tさん:これを見てください

そう言って見せてもらったのがスマホの画面でした。

田村:これは、アプリ?

Tさん:そうなんですよ。シルバー人材センターに登録すると、まずこのアプリをダウンロードして、職員さんから使い方などのレクチャーがあるんです。そして、仕事の予定とか、今どんな仕事があるかなどアプリ上でわかるんです。

田村:すごいですね

Tさん:お彼岸前、試しに友人と一緒にお寺の草むしりの仕事をやってみたんです

田村:仕事時間はどんな感じなんですか?

Tさん:時間はいろいろです。たとえばお寺の草むしりなら9~16時とかですね。午前と午後でも選べたり、どこかのお宅の草むしりなら最初から午前だけとか、選択肢は多いですね

田村:いいですね。身体のためにも、そしてお小遣いにもなって一石二鳥ですね

Tさん:そうなんですよ。孫の世話や家事が少しなくなって、ゴロゴロしてる時間が増えたため、血糖値も上がってきてたし、家にいるとやっぱり食べちゃうし、お友だちとお茶ばかりするようになっていたのでちょうどよかったです

田村:しかし、便利な時代ですね。確か若い方たちも隙間時間でちょっと皿洗いするとか、仕事帰りに2~3時間働くみたいなものもあるみたいですよ。人手不足だし、シルバー人材センターとはとてもいいことを聞きました

Tさん:今は週に2、3回、半日だけですけど、何か見つけては予定を入れてやってみているんです。家にいるとあまり動かないので……

田村:私も今度、シルバー人材センターを勉強のために調べてみます。どんなお仕事があるのか興味があります

Tさん:いっぱいありますよ。それこそ何でもいいみたいです。買い物とか犬の散歩とかまであるんですよ。私も歳ですけど、もっと高齢の方で散歩に行けないから買い物を頼みたいとかね

田村:それはいいですね。これから必要になりますね。でも、そろそろ暑くなるので外仕事は気を付けてくださいね

Tさん:そうですね。暑くなってきたらお掃除とかをやってみようかと思っています

Tさんはまだまだ元気なので、身体のことも考えて週に2~3日、それぞれ半日ですがシルバー人材センターの仕事を始めました。現在、HbA1cは6%後半で安定しています。そして何より毎回来院すると生き生きと仕事の話や新しい友人ができた話など、楽しそうに伝えてくれます。

家にばかりいると動かない、食べてしまう、会話なども減っていくなど、どうしてもネガティブな負のイメージになりがちですが、ちょっと外で働けば、身体を動かして誰かと会話し、そしてお小遣いにもなる、一石二鳥にも三鳥にもなっていて、聞いていた私のほうが勉強になった事例でした。ほかの患者さんへの情報提供や私自身もどんなお仕事があるのか興味があるのでシルバー人材センターへ行ってみようと思いました。Tさんはしっかりスマホも使いこなしていて、わからなくなるとちゃんと職員さんが教えてくれるそうです。
いくつになっても始めるのに遅いということはなく、しっかり今の時代に適応されていて素晴らしいと感心した事例でした。(『ヘルスケア・レストラン』2024年6月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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