栄養士が知っておくべき薬の知識
第144回
制度を理解すると便利な
「リフィル処方せん」の活用法について
今回は、昨年度から始まった「リフィル処方せん」という制度について述べます。2024年度から導入される医師の働き方改革とも非常に関係の深い制度です。
処方せんとは
処方せんは、病気の治療に薬が必要となった場合に、医師か歯科医師、獣医師によって発行されます。
処方せんには薬の分量や使用方法、使用期間などが書かれています。一方、薬の必要がないと判断されたら、処方せんは発行されません。たとえば抜歯をした日は鎮痛薬や抗菌剤が処方されるかもしれませんが、その後の処置で受診した時には薬が処方されない、といった具合です。
現在はパソコンやプリント機能も発達したためにあまり感じないかもしれませんが、本来、処方せんは公的な文書ですので、書かなければならないことがたくさんあります。患者氏名や生年月日などとともに発行した医療機関の所在地や名称、処方せんを交付した年月日などです。麻薬処方せんでは、患者さんの住所や処方する医師の麻薬施用者免許証番号の記載も必要になります。
処方せんには交付日が記載されますが、これには注意が必要です。医師は診察してその時の病状に応じて処方せんを発行します。5日以上経過したら病状が変化しているかもしれません。したがって処方せんの有効期間は、発行日や土・日曜日も含めて4日以内となっているため、この間に薬局に行って薬をもらう必要があります。これを過ぎると公的な文書である処方せんは効力を失います。ただし年末年始など4日間では薬を受け取れないといった特別な場合には配慮されることもあります。
薬局に持ち込まれた処方せんは、薬剤師によって調剤されますが、医師が自分で調剤を行うことも認められています。以前、抗がん剤と抗ウイルス薬が別々の病院で発行されて患者が違う薬局で薬をもらい、抗がん剤が効きすぎてしまったために多数の方がお亡くなりになったという痛ましい事故がありました。薬同士が相互作用を起こしたためです。この事件を契機として医薬分業が推進されました。
私も病院で多くの処方せんを処理してきましたが、さまざまな診療科を受診した方の薬の重複や相互作用といったチェックを病院内で行うのは難しいと感じていました。患者としては違う医療機関で処方せんを発行されても、薬はいつも同じ薬局でもらってこれらのチェックをしてもらうといいでしょう。
リフィル処方せん
医師は大変多忙な職業です。診療はもとより研究や教育までもこなしています。また書類もたくさんあって働き方改革の筆頭にあがる職業だと思います。NSTも、もともとは医師の負担を軽減させるために設立されたという経緯があります。リフィル処方せんという制度も、医師の診療負担を軽減する目的があると思います。毎回同じような症状で薬をもらう方でも、その都度医師の診察を受ける必要があります。そこで考えられたのがリフィル処方せんで、同じ処方内容であれば最大3回まで診療を受けずに薬を調剤してもらうことができます。これを発行してもらう条件として、病状が安定していて、通院は控えても大丈夫と医師が判断した場合だけです。その多くは生活習慣病やアレルギー疾患などと言われています。
ただしリフィル処方せんは、医師による処方せんの「リフィル可」欄に☑の記載が必要で、上限回数の記載も必要です。1回当たりの投薬期間と総投薬期間については、制度上の規定はないものの1回の投与日数(回数)は記載してもらう必要があります。リフィル処方せんを出してもらったら、ほかの処方せんと同じように交付日を含めて4日以内に薬局で調剤してもらいます。2回目以降は原則として、前回の処方期間が経過する日を予定日として前後7日以内に薬局で調剤してもらい薬を受け取ります。その際、薬局の薬剤師から病状の変化などがないかといった確認が行われます。このためりフィル処方せんはできれば同じ薬局で調剤してもらうことが推奨されています。薬剤師は、副作用の有無や効果が十分に得られているといった点を確認しますが、病状の変化などで、同じ薬を調剤することが望ましくないとなれば、医師による診察を受けたほうがよいことを勧告します。リフィル処方せんがもち込まれた薬局は、次回も患者が来局すると考えますので、次回の調剤予定日に薬局に来なければ、薬剤師から患者へ電話などによる連絡を行うことになっになっています。
リフィル処方せんの対象外
またはなりにくい疾患
もともと投薬期間や投与量に制限のある薬はリフィル処方せんを発行できません。たとえば新薬は発売されて間もないことから、発売後に重篤な副作用が発生する可能性もあります。したがって処方期間は14日間に制限されるため対象外です。麻薬や向精神薬も、薬ごとに投薬期間が14日分や30日分などと制限されているためリフィル処方せんは発行できません。また薬を処方するたびに検査が必要な場合もあります。これは主に副作用が生じていないかを尿や血液検査、場合によってそれ以外の検査を行って、薬による問題が生じていないかを確認して処方できる薬があります。このような場合もリフィル処方せんの対象外です。
薬には必ず添付文書があります。医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページでは、医薬品の添付文書を公開しています。前述のような薬であるかどうかは、添付文書で確認できます。
分割調剤との違い
リフィル処方せんとの違いがわかりにくいものに分割調剤と言われるものがあります。これは文字どおり、処方せん内の投与日数を分けて行う場合です。30日分の薬を出されても、あまりにも分量が多すぎて、家庭では保管できないといった場合や、ジェネリック医薬品を初めて出されて「不安だからとりあえず1週間分にしてほしい」など、処方日数を分けて調剤してもらう場合です。リフィル処方せんは処方日数分を1回で調剤してもらい、これを最大3回まで繰り返すということですので、両者は違う制度です。
おわりに
今回はリフィル処方せんについて述べました。医師の診療負担軽減になり、患者さんにとっても薬をもらうたびに毎回診療を受けなければならないといった負担を回避できるといった有用面があります。国にとっても医療費削減という側面があるかと思います。しかし一方で、医療機関にとっては、再診患者数が減ることになり減収になることが考えられます。また何より重要なのが、薬は生体にとって異物であるということです。これまではその薬を服用して特段の変化がなかったとしても、体調の変化、たとえば脱水時に薬が効きすぎてしまうということは考えられます。こうした変化によって思わぬ副作用を生じる可能性もなくはありません。病状が不安定な方に安易にリフィル処方せんを発行するとは思えませんが、医師による診察が必要と感じたら患者は迷わず受診することをおすすめします。
薬剤師もリフィル処方せんを受け取れば、細かく病状を尋ね、患者さんの個人情報を守秘するといった点から薬局の環境づくりも必要かもしれません。便利で安全性も高いという二律背反が考えられるリフィル処方せんですが、上手に運用していくことが大切だと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2023年8月号)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授