Dr.相澤の医事放談
第39回
「入院前から要介護」の患者が増える
従来型の病棟看護では対応しきれない
入院患者の高齢化が進むなかで、病棟では介護の視点を踏まえた患者支援の必要性が高まっている。相澤孝夫先生は今後、この問題はさらに深刻になると指摘する。「入院前から要介護」という高齢患者の割合が急速に高まることが確実視されているからで、そうした事態を見越した体制づくりの必要性を訴える。
85歳以上の入院患者が今後、増え続ける
現在、入院患者をめぐる議論の一つとして、高齢者特有の課題への対応があります。たとえば、胃がんの手術により、それまでのペースで食事をとることが難しくなったとします。数回に小分けにして食べる必要がある場合は、食事介助の手間がかかります。あるいは、手術後に安静にすると、廃用症候群が進行してしまい、主疾患以外の理由で在宅復帰が困難になるといったこともあります。そうならないよう、早期にリハビリを開始するケースも増えてきました。
入院前の生活に戻るのは難しくなるためにMSWが早い段階から介入し、介護保険を申請して退院後の生活支援体制を整えるといったことは、もはや常態化しています。
ただ、これらは入院医療の過程で起きる課題で、私はもう一つ大きな問題があると考えています。それは「85歳以上の患者が増える」ということです。2025年には1947~49年生まれのいわゆる「団塊の世代」が75歳以上に達しますが、その10年後には、この世代の方々が85歳以上になるのです。病棟では75歳以上の患者の増え方以上に、85歳以上の患者の増え方が著しくなると考えられます。つけ加えれば、こうした傾向は今後40年以上続くのです。
85歳以上の入院患者が増えるとはどういうことでしょうか。85歳以上の要介護認定率は60%近くといわれています(編集部注、公益財団法人生命保険文化センター調査など)。つまり、「入院してから要介護になる」のではなく「入院する前から要介護になっている」方々が病床を占めることになるのです。
入院前からデイサービスに通っていたり日常的に生活支援を受けていたり、あるいはトイレ介助を必要としている方々が、何らかの疾患によって入院してくるわけです。
認知症予防も兼ねて週3回、デイサービスに通っていた人が入院した場合、治療はもちろん必要だけれども、認知症予防も同じくらい重要になります。「入院中は放っておいていい」ということにはならないのです。
こうした人たちに対して病院内でどのような体制を敷いて対応していくかが問われているわけです。看護師、リハビリセラピストといった医療専門職だけでなく、生活支援を担うスタッフが必要ではないかというのが私の考えです。
院内デイサービスで患者、看護師双方に恩恵
実際、相澤病院ではこれらの課題への取り組みを進めてきました。
一つは、病棟看護支援センターの設置です。そのなかには、介護福祉士が中心となって患者さんの生活をサポートする介護課と、病棟看護師の支援と患者さんの入院生活が快適になるよう療養環境を整える病棟環境課がありますが、そもそもの狙いはそうしたケアの必要な患者さんを支えたいということにありました。
もう一つ、院内デイサービスもあります。新型コロナウイルス感染症のまん延以降、休止せざるを得なくなっていますが、これも、介護を必要とする患者さんを想定して立ち上げたものです。高齢の入院患者さんに見られがちな傾向として、1日中ベッドで安静にしているために夜は寝られず、生活が不規則になってせん妄を起こすといったことが挙げられます。そこで看護師はやむなく、スタッフステーションに車いすで患者さんを連れてくるわけです。苦肉の策ですが、これは明らかにおかしい。騒々しいステーションにいることが患者さんにとって良いわけはないし、看護師も業務の妨げになるでしょう。それよりは日中はデイサービスに行き、夜はしっかり睡眠をとっていただくという生活サイクルを用意すべきで、患者さん、看護師双方にとってもそのほうが好ましいはずです。
これらの業務は、看護師や介護福祉士でなくても、研修をしっかり積めば十分、対応できると思っています。当院では、無資格で入職したスタッフがすでに活躍していますし、院内資格制度を設け、資格を取得した場合は昇給するという道も用意しています。
看護師もそうですが、介護福祉士不足は深刻です。介護施設や介護事業所、病院で介護福祉士の取り合いをするのではなく、どうすれば患者さん、高齢者を支えることができるのかを皆で知恵を出し合わなければなりません。ましてや、入院患者さんが受けていた介護まで、ただでさえ忙しい看護師に押しつけるのは無理があります。
医療・介護は多職種が力を合わせて進めることが当たり前。介護も同じことだと思います。(『最新医療経営PHASE3』2023年6月号)
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。