MMS Woman Lab
Vol.106
人生100年時代における
生涯の仕上げのステージの働き方

<今月のお悩み>短大卒業と同時に現在勤めている病院に就職し、医事課一筋で40年、このたび定年退職を迎えました。今後に向けて、事務長からは雇用延長と、総務課への異動を提案されたのですが、私としては慣れた医事の仕事をあと5年くらい続けたいというのが率直な希望です。そのほうが今まで培ってきたスキルが活かせると思うからです。事務長からの提案をどう捉えて判断すべきか迷っています。

定年退職後も働くかどうかは本人の意思が最も尊重される

年度替わりの時期は、さまざまな変化がありますね。部署の異動や昇進なども多く、人によっては少し気持ちがざわついたり、不安を感じやすくなったりすることもありますから、職場内で互いに声をかけ合う気配りも必要な時期だと言えます。
労働者を取り巻く環境が大きく変化し、働き方は変わりつつあるとはいうものの、やはり「定年退職」は人生の一つの節目を迎えた感じがしますね。今は人生100年時代となり、社会生活を「20歳からの20年」「40歳からの20年」、そして「60歳からの20年」という3つのステージに分けて考えるライフシフトプランも推奨されています。

相談者さんは短大卒業後に入職してから40年間、1つの病院の医事課で文字どおり「勤め上げ」て、定年を迎えられたとのことで、本当におめでとうございます。社会生活の3つのステージのうち2ステージを過ごせるほど、生きがい、やりがいを感じることができる良い職場環境だったのでしょう。そして、定年退職という節目の年に事務長から定年後の働き方について、雇用延長と総務課への異動の提案があったとのことですね。
まず、雇用を延長するかどうかは何より本人の意思が最も尊重されますので、自身の体調や生活の環境、人生の仕上げのステージで一番大切にしたいことなどを踏まえて考え、決断されるのが良いと思います。自身が勤めはじめた頃に想像していた「定年」、これまで多くの先輩方を送り出してきた「定年」と、実際に自分事として考える「定年」はまったく違う感覚なのではないでしょうか。それは違って良いものだと思います。これから3つ目のステージをどう過ごすのか、改めて考えていきましょう。

職場からの期待を踏まえ知識や経験を活かす働き方

事務長からの総務課への異動の提案に対して、希望としては今までどおり、同じ仕事であと5年くらい働きたいとのことですが、ここはご自身の希望だけではなく病院(組織)からの期待も考えてみてください。
病院の収入を支える医事課職員として、過去からの改定経緯も最新の診療報酬の算定も熟知されているので、医事課としても離れられては困る貴重な存在かと思います。ただ、電子カルテ導入などのIT化、さらにオンライン資格認証スタートといった医療DXなど、今までの作業はどんどん新しい手法に置き換わり、これからは医事課革命が起こりそうな時代に入っていきます。これまでも仕事のなかで多くの医事課職員を育ててこられたと思いますので、今ある知識、経験のすべてを医事課の後輩たちに伝授していただき、ご自身は次のステージで活躍してほしいという事務長の思いもあるのではないでしょうか。
医事課での仕事のなかで、医師、看護師をはじめ現場の医療従事者など、事務職員だけではなく院内すべての職員とのつながりもあることと思います。そうした強みを持っている人材は、総務課という病院全体を管理する部門には必要な存在だと思います。

確かに医事課は医療事務の最前線ですが、総務課も施設基準の管理や加算要件になる人員の管理、算定に必要な研修の実施など、診療報酬の知識が必要な業務が多い部門です。ここで見落としや不備があると、せっかく実施した医療行為が請求できなくなってしまいますし、返還が必要な事態になると病院経営に大きなダメージを与えてしまいますから、守りの要のような仕事ですね。
また、病院で長く勤めた経験のある「落ち着いた大人」が総務課にいることで経験の浅い職員のちょっとした相談事や女性たちの悩みなどを打ち明けやすい環境をつくることも病院からの期待なのではないかと思います。
これまでの仕事のなかで得た知識やスキルを活かしながら、ご自身にとって慣れた環境、親しい職員もいるなかで、新しい職場に「転職」したように捉えると、新しいやりがいも見つけられるのではないでしょうか。そういった視点を持って、これからの働き方を考えてみてください。

〈石井先生の回答〉

医事課で活躍するなかで得た知識、経験のすべてを後輩たちに伝授していただき、ご自身は次のステージで活躍してほしいという思いがあるのかもしれません。総務課でも診療報酬の知識は不可欠ですし、若手職員の相談にのっていただく役割も期待されます。新たなやりがいが見つかるはずです。(『月刊医療経営士』2023年5月号)

石井富美(多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長)
いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民間企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に『医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」』『経営企画部門のマネジメント』(ともに日本医療企画)ほか

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