Dr.相澤の医事放談
第38回
病院経営の安定的基盤
物価変動への対応が必要

日本病院会は3月14日、入院基本料の引き上げに関する要望書を加藤勝信厚生労働相に提出。安定的な医療提供体制のためには診療報酬の引き上げが必要だとした。相澤孝夫先生は「実質10年間上がっていない」と指摘し、“加算ありきの現状”を改めるべきだと訴える。

医療費抑制政策で赤字幅は広がっている

診療の対価である診療報酬は公定価格であるため、個々の病院の裁量で改定することはできません。安定的な病院経営には、その基盤となる入院基本料の引き上げが必要です。

要望書では、現状を示すいくつかのデータを出しました。
厚生労働省の医療経済実態調査から、介護収入の少ない、恐らく急性期機能をもつ病院の損益状況を2008~20年度の期間でみると、08年からずっと利益はマイナスです。10~12年度の赤字幅が少なくなっているのは、旧・民主党政権時で診療報酬の改定率がよかったからです。社会保障制度改革の道筋が示された13年度以降、社会保障と税の一体改革、国民会議報告書、社会保障制度改革プログラム法などによって医療費の抑制が行われ、赤字幅はどんどん広がっているのがわかります。

日本病院会の調査では、急性期だけでなく全病院でとらえても医業利益は減り続けています。20年度に収益が上がっている理由は、消費税が10%となり、医療機関が仕入れ時に負担する消費税相当額を診療報酬に上乗せしたからです。それ以上に、医業費用の伸び幅が大きくなっています。光熱水費、電気代などが値上がりした一方で、収入は増えていません。
看護配置基準7対1の入院基本料は、同基準ができた06年度と22年度で比較すると95点増で、引き上げ率は6%ほど。このうち数%は消費税なので、実質的には14年度以降、ここ10年ほど上がっていないことになります。

病院収入は、入院と外来でみると7対3ぐらいの割合なので、入院基本料が上がらないのは、病院経営にとって大変厳しいことです。新型コロナウイルス感染症の病床確保料などの補助金をもらい、ようやく黒字になるという経営状況自体がおかしいのです。

「加算はありがたい」ではなく入院基本料の引き上げを

入院基本料は2000年に、それまでの入院時医学管理料、看護料、室料、入院環境料を一つにまとめたものです。ここには人件費や病室の整備、光熱費、清掃費など病院に係るさまざまな費用が包括されていて、入院というサービスを提供しています。そして、入院基本料の加算として人員配置、特別な診療体制、医療機関の機能に応じた入院時医学管理加算、診療録管理体制加算などが00年当時は算定できました。
その後も、病棟に薬剤師、看護補助者を配置すればそれぞれ「病棟薬剤業務実施加算」「看護補助加算」といったように加算がつくようになりました。加算を算定できればいいのですが、すべての病院が算定できるわけではありません。算定の有無にかかわらず、病院運営に関係するお金は同様にかかります。また、人員配置により算定でき、収入が増えて利益が出るかと思ったら、人件費のほうが高くてむしろマイナスになってしまう場合もあります。

これまで病院側は、「加算をつけてもらえたからありがたい」と言っていましたが、ごまかされてきたようなものです。病院収入のベースである入院基本料が実質10年間上がっていないと、病院職員、医師の給料を上げることも難しくなってしまいます。だから今回は、設立母体や機能にかかわらず一致団結して、入院基本料の引き上げを訴えたのです。
病院は、患者さんのための入院施設を維持する必要があり、物価変動に対応するためにも診療報酬は恒久的に上げてもらわなければなりません。加算など一時的な補助ではなく、あるべき姿としては、やはり入院基本料です。24年度診療報酬改定に向けて、今後も引き上げの要望をしていきます。その金額は少なくても、国家公務員の給料の増額分ぐらいは必要だと考えます。

現在の診療報酬制度は、施設基準や加算が山積し、青本も年々分厚くなっています。細かい設定をすればするほど整合性をとるのが難しくなり、整合性をとるための手直しをすると、今度は別のところがおかしくなるのです。また、出来高準拠なので、あることを行えば評価して点数をつける一方で、病院収入が増えるのを避けるために算定しにくいような条件をつけます。
このようなパッチワーク的なものではなく、点数のつけ方自体を見直さなければなりません。医療DXを進めながら簡略化・簡素化するのが基本で、制度の根幹をつくり直すときにきています。(『最新医療経営PHASE3』2023年5月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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