デジタルヘルスの今と可能性
第64回
知りたいことは検索ではなく
AIに聞くのが当たり前の時代に?

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今回は、昨今話題の生成系AIについて、「ChatGPT」を例に考えていく。

加速度的に進化していく生成系AI

「テクノロジーが進化していくにつれて、世の中が少しずつ変わっていく」というのはわかっていたのだが、「こんなに日進月歩で進むのか!!」と、最近の自分は驚きを隠せない。
人工知能(AI)が人類の知能を超え、人間の生活に大きな変化が起こるという概念である、シンギュラリティ(技術的特異点)は2045年と言われていたが、これがもっと早く25年~26年あたりに来るようだ。ここまでの大きな驚きは、「ChatGPT」をはじめとする生成系AIの著しい進化のためだ。

本連載を読まれている読者は新しいもの好きな方が多いと思うので、すでに「ChatGPT」を使っている人も多いと思うのだが、改めて紹介すると、OpenAIが22年11月に公開した人工知能のチャットボットのことである。質問などの会話をテキストベースで打ち込むと、大量に学習した言語モデルからAIが会話形式で応答するのだ。
何よりもすごいのが、質問の往復で終わるのではなく、きちんと会話のラリーになるところ。前の質問に対して詳しく突っ込んで聞いたり、誤りを指摘したり、他の回答を聞いたり――など、会話全体の流れがわかったうえで自然な返事をしてくる。
とてもすばらしい半面、苦手としているところもあり、調査系の質問(たとえば、「東京駅付近でおいしいご飯屋さんを教えて」など)をすると、まったく存在しない事実(架空の店など)を回答したりするときもある。ただ、これも英語で質問すると、存在する店名で答えてくれるため、AIモデルの学習量の問題であって、すぐに改善してくるものと考えている。
何より、自分は「ChatGPT」に課金して使いまくっている。具体的には、講演依頼を受けて、タイトルだけ(「医療×ChatGPT」など)決められているときも、「ChatGPT」に「『医療×ChatGPT』というタイトルの講演で40分話す際にどのような項目で話すといいか教えて」と、聞いてみると、次のような項目を教えてくれた。

①「ChatGPT」の概要と医療における応用
②「ChatGPT」による医療情報の自動生成
③「ChatGPT」による医療コミュニケーションの改善
④「ChatGPT」による医療データの解析
⑤「ChatGPT」による医療現場の未来像

さらに、各項目でどのようなことを話すといいか詳しく知りたければ、「①『ChatGPT』の概要と医療における応用」って詳しく言うと、具体的にはどんな話をすればいいですか」とまた聞けばいい。

このように、「ChatGPT」は優秀な秘書が隣にいて、壁打ちを手伝ってくれているような使い心地なのだ。まさに、AIにより仕事を補助される、あるいはAIとともに仕事をしているという感覚がある。

「ChatGPT」の今後の展開と可能性

現行リリースされている「ChatGPT」は、GPT-3という言語処理モデルだが、今年3月中にGPT-4がリリースされるという(23年3月10日時点)

GPT-4のスペック概要は、GPT-3の約500倍ともされていて、パラメータ数が1750億から100兆になるとされている。また、現在のようにテキスト単一ではなく、テキスト、画像、音声など、マルチモーダルなAIになるとされている。
一体、何がすごいのかというと、たとえば、このような動画をつくってほしいという台本を作成し、それをAIに渡せば、あとはどこからから良い感じの画像や動画を持って来てそのとおりの動画をつくってくれるというわけだ。もちろん、その際に医師、看護師、医学生などというように見せる対象を分けると、それらの対象ごとに最適な形の動画ができると思われる。
こうしたことが可能になると、今後の10年でまず検索の形が変わっていくことにつながる。今までの私たちは、何かわからないことがあればGoogleの検索窓にキーワードを入力して、出てきた検索結果のなかから記事をいくつか読んで判断してきた。
東京駅のおいしいご飯屋さんであれば、「東京駅 おいしいごはん屋」などと検索し、検索結果上位のWEBサイトにアクセスして判断していただろう。それが今後は、AIに聞いたらすぐに答えてくれるようになるのだ。その答えに関して質問を重ねることで深掘りできるし、回答を聞いてもわからないところをさらにAIに聞くこともできる。

私はちょうど、01年に大学生になり、インターネットがISDN回線からADSLや光回線になっていく過程を大学時代に経験している。インターネットに接続したら、いろいろな情報を見ることができて非常にワクワクしたのを覚えている。「ChatGPT」は、それと同じような衝撃なのだ。
検索も最初は複数の検索エンジンがあったのが、Googleなどに収束していったように、「ChatGPT」が10年後も使われているかはわからないが、「答えを探すために検索ではなく聞けばいい」という変化は、これから必ず起こってくると考えている。
確かにTikTokでは自分で検索というよりレコメンド型で、アプリがユーザーに合ったショート動画をおすすめしてくれる。ほかにも、Amazonで本を購入すれば、「この本もおすすめです」とレコメンドしてくれたりする。

インターネットの中には、すでにどんな人の疑問や質問にも答えられるくらいの膨大な情報が網羅されていて、それを学習したAIが個人に合った答えを出してくれる。もう自分で調べなくてもいいようになるのだ。そのときには、今のSEO対策はなくなっていく!と考えている。

23年3月は、10年後の未来に振り返った際に「世の中に対して一番衝撃的な変化が起こった月」となるのではないだろうか。
テクノロジーの変化が速すぎて、もう誰も専門家ではないと感じる。10代の医学生でも、60代の開業医であっても、今の時代の変化に対してスタートラインは皆一緒だ。差がつくのは、今の「ChatGPT」などの新しいテクノロジーをどれだけ使っているかだ。

インターネット黎明期と同じくらい劇的な変化の時代を、私たちは生きている。ぜひ考え方をアップデートしていってほしい。(『CLINIC ばんぶう』2023年4月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室・デジタルハリウッド大学大学院客員教授/東京医科歯科大臨床教授/THIRD CLINIC GINZA共同経営者)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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