社会保障短信(11月30日号)
医療・介護福祉など社会保障関連の情報をお届けします。
◆トピックス…財政審、診療所の報酬見直しを強調
◆ひとこと… 医療現場における介護について
◆今週の数字…-1.0%
トピックス:財政審、診療所の報酬見直しを強調
▼予算編成に関する建議をまとめる
財務省が運営する財政制度等審議会は11月20日、「令和6年度予算の編成等に関する建議」をまとめた。
2024年度予算の編成と今後の財政運営に関する考え方を示しており、特に一般歳出の約5割を占める社会保障に関しては、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬のトリプル改定を念頭に、大きく紙面を割いて言及している。
▼本体のマイナス改定を提言
社会保障については「総論」の暴騰から「医療・介護・障害の3報酬改定においてメリハリをつけた改定」を行うことが必要と訴え、「医療・介護の過剰な給付を抑制していくことで、給付と負担のバランスを確保し、将来不安を取り除いていく必要がある」とも述べている。
そのうえで、診療報酬改定に言及し、「診療所の報酬単価を引き下げること等により、現場従事者の処遇改善等の課題に対応しつつ、診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当であることを示す」と記載している。全般的に、診療所に対する報酬の引き下げを強調する内容になっている。
▼財務省独自に実態把握
診療報酬改定についての項目では、医療法人を対象に財務省が財務局を通じて「機動的調査」を実施したことに触れている。各都道府県が公表している事業報告書等をもとに、2020事業年度から2022事業年度の医療法人の経営状況などを調査し、38都道府県から2万1939法人のデータを分析したもの。
それによると、2022年度の経常利益率は診療所が8.8%である一方、中小病院は4.3%と「大きな違い」があったという。「医師の働き方改革が喫緊の課題となるなかで、診療所と病院の間の医師の偏在是正の観点からも早急な対応が必要」と指摘している。
こうしたことを踏まえて診療所の報酬単価は診療所の経常利益率が全産業やサービス産業平均の経常利益率(3.1~3.4%)と同程度となるよう、5.5%程度引き下げることを提案している。これによって保険料負担が0.1%軽減されると見込む。
▼診療所の報酬単価引き下げを強調
具体的な改定のあり方にも触れ、「診療所の報酬単価について初診料・再診料を中心に引き下げ、心療報酬本体をマイナス改定とすべきである」と述べている。
その根拠として、2000年度から2019年度にかけて消費者物価指数が3%の上昇にとどまったのに対して、診療所の報酬単価は26.5%と、後者が前者を大幅に超える水準で伸びていることを指摘する。2019~2022年度の状況も、物価上昇率が+3%であるのに対し、診療所の報酬単価は14%増だという。
「開業医と病院勤務医の報酬の違いが過度に開業を促していないか」との論点も示した。開業するにあたり借り入れをして施設を建設する等の行為が必要との見方について、「政府金融という別途の支援を用意していることから、診療報酬において高水準の利益率を維持する理由にはならない」と強調する。
さらに地域間偏在への対応にも触れ、「診療所の所在地は都市部に集中している。診療行為残すとによりきめ細かく対応する観点から地域別の報酬体系を検討する必要がある」と述べる。
具体的には、診療報酬が1点あたり10円という仕組みについて、診療所の不足地域と過剰地域で異なる1点あたり単価を設定し、報酬面からも医療資源のシフトを促す案を示した。
▼病院については従来の主張を提示
病院についての論点としては、
▽医師の働き方改革への対応
▽2年前に措置された看護職員等の処遇改善の検証
▽看護師配置に過度に依存した報酬体系の見直し
▽公立病院改革の推進等の課題への対応
――など、従来から議論されてきたテーマが挙がっている。
ただ、診療所における報酬の見直しのような論調は見られない。
本体の引き下げのなかでも診療所に的を絞った言及が目立つ。現在の中央社会保険医療協議会での議論にどこまで影響を与えるかは不透明だが、医療側の反論も含めて今後の反応に目を凝らす必要がありそうだ。
ひとこと:医療現場における介護について
「急性期医療の入口・出口の議論をしっかり行うことと、重症度、医療・看護必要度については、看護の専門性と介護の専門性を明確に区別した上で、24時間の継続的な医療ニーズに応えられる看護の必要度に特化した評価票として、すなわち、要介護度とは異なる評価票としてブラッシュアップしていく必要があると考えます。」
秋山智弥
名古屋大学医学部附属病院 卒後臨床研修・キャリア形成支援センター教授
~2023年10月5日 令和5年度第9回入院・外来医療等の調査・評価分科会
今週の数字:-1.0%
介護老人福祉施設の、2022年度決算における収支差率。前年比2.2ポイント減となる。老健も-1.1%の赤字という結果で、同調査では施設サービスの悪化が目立っている。(出典:社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会「令和5年度介護事業経営実態調査結果の概要(案)」11月10日)
(文/ヘルスケア・マネジメント.com)