社会保障短信(11月6日号)
医療・介護福祉など社会保障関連の情報をお届けします。
◆トピックス…病院経営の厳しい状況を伝える調査を連発
◆ひとこと… 回復期リハ病棟について
◆今週の数字…3108施設
トピックス:病院経営の厳しい状況を伝える調査を連発
▼10月から1カ月で要望・調査発表が4本
2024年度予算編成と2024年度診療報酬改定を見据え、病院団体が相次いで病院の実情やそれを踏まえた要望を発出している。主だったものだけでも10月以降で4本を数える。
「食材料費・光熱費等の物価高騰に対する財政支援に関する要望」
(日本医師会をはじめとする医療・介護関係10団体、10月5日)
「2023年度病院経営的調査概要版-中間報告(集計結果)」
(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、10月10日)
「日病協・2024年度診療報酬改定に係る要望書【第2報】」
(日本病院団体協議会、10月23日)
「病院における賃上げ状況等の調査について」
(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、11月2日)
政府の「骨太の方針」にも記されたように、「EBPM(Evidence Based Policy Making、根拠に基づく政策立案)」が重視されるようになっており、医療界もこれに沿った対応を進めていることがうかがえる。
▼食事療養費対応「来春まで待てない」
「食材料費・光熱費等の物価高騰に対する財政支援に関する要望」では
▽入院患者・入所者への食事療養等に対する補助金での財政支援
▽医療機関・介護事業所等における光熱費等の物価高騰に対する交付金での財政支援の継続
――の2つを要望している。
要望の添付資料によると、病院給食の委託単価は2022年で1997円となっており、公定価格の単価(3食分で1920円)を上回る状況で、その差は年々広がっているという。さらに食材料費の高騰で、状況は更に厳しくなっていることが見込まれるとの見方を示す。
そうしたことから、「来春の報酬改定まで待てず、今回の秋の経済対策において、応急処置として、国費(補助金)での特段の支援」を求めている。
また2024年度診療報酬改定に向けたコメントも加えており、医療機関の経営状況について「コロナ対応を除くと、コロナ前の水準以下であり、2020、2021年度のコロナ禍による医療費減少のダメージがそのまま残っており、単に『経営が好調に転じた』ということではない」と説明している。
▼23年6月期は赤字病院の割合増
「2023年度病院経営的調査概要版-中間報告(集計結果)」では、3団体の会員病院(有効回答数は964)を対象に、2019年6月からコロナ禍を挟んだ2023年6月までの同月比較、2018年度から2022年度までの年度比較を実施している。
それによると、2022年度の医業損益比較では、2022年度の医業利益は100床あたりで2億1504万円の損失となっていた。前年度も赤字となっていたが、その幅は3766万円分、拡大したことになる。
また、2022年6月と2023年6月の同月比較では、赤字病院の割合が2022年6月で64.8%だったのに対し、2023年6月は71.0%で、6.2ポイント増となっていた。
▼改定に向けた要望では「病棟の介護職」評価も
「日病協・2024年度診療報酬改定に係る要望書【第2報】」では、12項目を要望している。
①入院基本料の引き上げ
②適切な食事療養費の設定
③病棟における介護専門職の評価
④病棟におけるICT推進のための評価
⑤急性期入院医療におけるリハビリテーションの充実
⑥急性期病院からの、後方支援病院への転送の評価
⑦地域医療体制確保加算の新たな評価の新設
⑧薬剤費が包括される病棟における高額薬剤の除外薬剤の新設
⑨高額医薬品の管理に関する評価の新設
⑩夜間休日救急搬送医学管理料、院内トリアージ加算の再診症例での算定
⑪精神科における地域包括ケアシステムの推進に資する入院料の新設
⑫退院支援加算、入退院時支援加算の見直し
とりわけ①~③は各病院団体がさまざまな場所で表明しており、診療報酬改定論議の場でも今後、さらに強く主張することが予想される。
①は、他の要望でもあがっている「病院の赤字」を解消するうえで不可欠と語る関係者は多いだけに、どのような着地点が見いだされるか、注視する必要がある。
▼介護職の不足が顕著に
「病院における賃上げ状況等の調査について」は、日病、全日病、医法協の会員病院227病院からの回答を元にしたデータをまとめている。2023年1~8月に賃上げを実施した病院が82.4%だったという。
一方で人材確保は総じて十分ではなく、とりわけ看護職については求人数に対して平均32.9人不足していることを伝えている。開設主体別では、自治体立が38.4人不足、医療法人が18.1人不足といった結果が出ている。
人材の他業界への流出を懸念する声も出ているが、こうした状況を国がどう捉えているかも注目点となりそうだ。
ひとこと:回復期リハ病棟について
「特に医療資源の少ない地域、要するに過疎地域において、回復期リハビリテーション病棟というのは、運用するのが極めて難しいというのが現状でございます。かといって、地ケア病棟をつくってしまって、非常にいろいろなものを拾うということになっても、急性期から自分のところで全部やっていますから、全部自院からの転棟になってしまいますし、あと、回復期と同様のリハビリテーションをすると、その分の持ち出しがどうしても出てしまうということも、非常に大きな問題であろうかと思います。」
井川誠一郎
日本慢性期医療協会副会長
~2023年9月29日 入院・外来医療等の調査・評価分科会
今週の数字:3108施設
2021年7月1日時点での、医師事務作業補助体制加算の届出医療機関数。うち、加算1の取得施設数は2143施設。(出典:中央社会保険医療協議会総会資料「働き方改革の推進について(その1)2023年6月14日」)
(文/ヘルスケア・マネジメント.com)