介護業界深読み・裏読み
介護保険部会「給付と負担」をめぐる
顛末等に思うこと

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

異例だらけの保険部会
気楽に待ったはずが……

前回の当欄で筆者は、「この原稿が皆さまのお手元に届く頃には、介護保険部会の審議も大詰め、とりまとめを大方終えているはずだ。結論を楽しみに待ちたい」と書いた。このことは、やや楽観的過ぎたと反省している。というのも、その後の介護保険部会やその周辺で起きた「給付と負担」をめぐる顛末は、いささか想像を超える「体たらく」と言えるものだったからだ。

まず、11月28日に開かれた介護保険部会では、厚生労働省による事前レクが異常なほどの厳戒態勢のもとで行われたという。もとより事前の説明資料は委員に限る取り扱いであることは言うまでもないが、このときは、あくまで噂ではあるものの、委員でさえ手元に資料が届かない状態で説明がされたと聞いている。
しかし蓋を開けてみれば、当日示された論点のうち、意外性があったのはかねてから日本医師会の江澤和彦委員や全国老人保健施設協会の東憲太郎委員が相当な熱量で反対を表明していた、介護老人保健施設等の「多床室の室料負担」を検討するという部分程度。同じく検討事項とされた▽「現役並み所得」「一定以上所得」の判断基準、▽高所得者の1号保険料負担のあり方については先行していた新聞報道の温度感から想定内というところだった。「医師会が怖かったんじゃないか」(社会部記者)という見方もわからなくはないが、厚労省の厳戒態勢は、トゥーマッチな対応と言わざるを得ない印象だった。

これに続く12月5日の部会では、ようやくにして「とりまとめに向けた議論」がスタートされたが、素案では、今度は「給付と負担」についての項目をすべて「ペンディング」扱いとした。菊池馨実部会長から、同日は「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進」と「介護現場の生産性向上の推進、制度の持続可能性の確保」に関する記載のみとする旨が説明されたうえで、「政府の検討を踏まえたとりまとめになることは含んでおいてほしい。そのうえで、あらためて皆さまに審議をお願いすることになる」という趣旨が述べられた。従来であれば、公然の秘密であっても秘密は秘密。言葉にするものではないのが当たり前で、異例の出来事だった。

政府と厚労省の事情に配慮した審議に心残り

このように、「給付と負担」をめぐって紆余曲折し、部会長の口から「政府の検討次第」とまで言わせる「体たらく」を見せた厚労省だったが、肝心の政府側が12月16日にとりまとめた全世代型社会保障構築会議の報告書において、「(保険料負担や利用者負担の在り方など)について、来年度の『骨太の方針』に向けて検討を進める」との弱腰な姿勢をとったことで、せっかくの慎重路線も虚しく、一気に結論に近づくことになった。
この背景には、二つのことがあると考えられる。一つは、低い支持率にあえぐ岸田政権として、ただでさえ防衛費増額の財源問題で批判が集まるなか、2023年4月に予定される統一地方選挙の前にさらなる負担増を軽々に打ち出せないという判断があったであろうこと。そして二つ目は、各省庁の官房長を束ね、国会との連絡調整を司る「内閣総務官」を務めた経歴をもつ、大西証史老健局長の存在だ。大西氏の対極として、かつて同じく老健局長を務めた濱谷浩樹氏(2022年6月退官)が思い出される。厚生労働省の主要ポストを歴任し、早くから事務次官候補と言われながら、最終的には官邸の評価が芳しくなかったことからそれが叶わなかったと言われている。今回の一連を通じて、大西氏がその轍を踏まないよう配慮を重ねたことであろうことは想像に難くない。

こうした顛末に接し、「これでは審議会など必要ないのでは」(某介護関係団体幹部)という声もあちこちから聞こえてくる。筆者としても、実に半年以上をかけて委員の意見を聴きとってきたかけがえのないプロセスがあるのだから、厚労省には自信をもって臨んでほしかったと残念でならない。読者の皆さまは、どうお感じだろうか。

今後は報酬改定に向けた議論を注視

さて、今回の全世代型社会保障構築会議「報告書」で政府が示した方針のうち、目を惹くのはやはり、「生産性向上に向けた処遇改善加算の見直し」が書き込まれたことだろう。複数の介護関係団体からかねてより強く要望が出されていた事項ではあるが、2023年3月から始まる2024年度介護報酬改定に向けた議論を前に明確に方向性が引き出されたかたちとなった。大いに歓迎すべきものであることは間違いないが、そこは財務省が主流を占める現在の官邸が示した方針である。事務負担の軽減だけではなく、統合や要件見直しのなかで改定の帳尻をあわせるカードにするのであろうことは言うまでもない。今後の議論をしっかりと見守りたい。(『地域介護経営 介護ビジョン』2023年2月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。

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