社会保障短信(10月2日号)

医療・介護福祉など社会保障関連の情報をお届けします。

トピックス…財政審、医療費抑制の必要性を強調
ひとこと…診療報酬について
今週の数字…55.9%

トピックス:財政審、医療費抑制の必要性を強調

▼子ども政策の財源や保険料負担軽減の必要性
財政制度等審議会財政制度分科会は9月27日の会合で「令和6年度予算編成に向けて」について議論し、財務省から関連資料が提示された。
このなかで、「こども・子育て政策の強化(加速化プラン)の財源の基本骨格」や「医療・介護に係る保険料給費費等の伸びと現役世代の保険料負担」を示して医療費の伸びを抑制する必要性を強調している。

「令和6年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」のなかで、年金・医療等は前年度で34.8兆円だったこと、自然増が0.52兆円であることを示している。

▼加速化プラン支援金の財源
「こども・子育て政策の強化(加速化プラン)の財源の基本骨格」について、次の2点を挙げている。

▽徹底した歳出改革等を行い、それらによって得られる公費の節減等の効果及び社会保障負担軽減の効果を活用しながら、実質的に追加負担を生じさせないことを目指す
▽歳出改革等は、これまでと同様、全世代型社会保障を構築するとの観点から、歳出改革の取り組みを徹底するほか、規定予算の最大限の活用などを行う

イメージ図も示されている。加速化プランの財源として、既定予算の最大限の活用、歳出改革の徹底、支援金(仮称)の3つが描かれ、このうち歳出改革の徹底は社会保障経費の公費の節減等の効果、支援金は社会保険負担軽減の効果によって充当することを想起させる図になっている。

▼現役世代の保険利用率が報酬の3割超
「現役世代が負担する社会保険料負担」では、次の2点が懸念事項として示されている。

▽社会保障に係る負担を現役世代の社会保険料負担で見ると、現役世代の保険料率は報酬の3割を超える水準であり、今後も継続的に上昇する見込み
▽医療・介護の保険料率上昇を抑制する取り組みを強化しないと、足元の構造的賃上げ等の動きを阻害するほか、中期的にも保険制度が持続できないおそれ

▼保険給付費の伸びが雇用者報酬を上回る
さらに「医療・介護に係る保険料給付等の伸びと現役世代の保険料負担」のなかで、次の2点を提起している。

▽医療・介護に係る保険給付費等の伸びと雇用者報酬の伸びが同水準であれば、現役世代が負担する医療・介護保険料率の上昇に歯止めをかけることができる
▽このため、必要な医療・介護を提供しつつ、給付費等の伸びを抑制するとともに、構造的賃上げを通じて雇用者報酬を増加させ、給付と負担のバランスを取ることが必要

「雇用者報酬」とは生産活動から発生した付加価値のうち、労働を提供した雇用者への分配額のこと。現金給与や現物給与のほか、雇用する側が負担する社会保険料などが含まれる。

保険料給費等の伸びが2012~2021年度で年2.8%増であるのに対し、雇用者報酬の伸びは2012~2022年度で年1.8%増にとどまっている。このため、保険料率が上昇する状況が生まれているというわけだ。

▼単価増や内部留保増を指摘
こうした議論を展開しながら、「我が国の医療保険制度の特徴と課題」に言及した。患者側では「患者負担が低く、コストを抑制するインセンティブが生じにくい」、医療機関側は「患者数や診療行為数が増加するほど収入増」といった状況があるうえ、「供給サイドの増加に応じて医療費の増大を招きやすい構造」があることも指摘する。

2024年度報酬改定における主な課題として、医療については

▽近年の物価上昇率を上回る単価増への対応(医療経済実態調査の結果を見た上で、適正な単価を設定)
▽コロナ補助金等による内部留保の積み上がり(賃上げ原資等として活用する方策の検討)

――を挙げている。

▼病院の経常利益率が黒字転換
さらに「参考資料」では、直近の医療機関の財務状況について、コロナ禍前(2018~2019年度)の病院の経常利益率が0.6%の赤字であったのに対し、2020年度は3.7%、2021年度は7.5%の黒字に転換したことを紹介している。

一方、このデータのもとになった資料「2022年度病院経営定期調査」を作成した日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会はこの資料が示された2日後の9月29日に日本医師会で記者会見を開き、反論した。
コロナ関連の補助金を除いた経常利益率は2020年度で4.0%、2021年度で2.0%の赤字だった点を強調し、補助金がなくなれば再び厳しい経営状況に陥ることを強調している。

2024年度予算によって診療報酬改定率は大きく左右されるだけに、今後もこうしたつばぜり合いは各所で見られそうだ。

ひとこと:診療報酬について

「診療報酬とは何かといえば、基本的な性格は診療の対価、法律上の用語でいえば「療養の給付」の対価です。私が最近の診療報酬の改定の内容を見ていて非常に気になりますことは、診療の対価であるということは診療報酬には患者の一部負担も含まれるわけですが、そのことが考えられているかということであり、診療報酬の点数の設定に当たっては患者の納得感を得られるのかということをよく考えていただきたいと思います。政策目的が正しければ何でも診療報酬でみることが許されるというのは、ちょっと違うのではないかと思います。」
島崎謙治
国際医療福祉大学大学院教授
~2023年8月25日 第101回社会保障審議会医療部会

今週の数字:55.9%

緊急包括支援事業等コロナ関連の補助金を除いた場合の、2021年度における経常利益の赤字病院の割合。同補助金を含めた場合は19.9%。(出典:日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会「2022年度病院経営定期調査結果」)
(文/ヘルスケア・マネジメント.com)

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