DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
診療所歯科医師数の現状
―2020年医師調査から―
前月号までは、医師の都道府県別の状況について取り上げてきた。今月号では、実際のデータを紹介しながら、歯科医師の分布について検討していく。
開業志向は鈍化する一方で
診療所勤務医は1.6倍に
厚生労働省は2年に1回、医師・歯科医師・薬剤師統計を行っている。前回は2020年末に行われ、その集計結果が公開されている。
図は、全国の歯科医師の従事先と人数に関する、病院、診療所(開設または勤務医)、その他の区分で00年から20年の10年ごとのグラフだ。歯科医師数は過去20年間で、9万1000人から10万7000人と16%増加した。診療所は、7万7000人から9万2000人と19%増。病院は1万2000人とほぼ横ばいで、増加分をほぼ診療所が吸収している。
なお、診療所の内訳では、開設者は5万7000人から5万9000人と4%増にとどまっている。特に、10年と20年の10年間ではやや減少と、開業志向は低下気味であることがうかがえる。
他方、勤務医(開設者でない)は2万人から3万3000人と1.6倍になった。従来の日本は1人開業医が多かったが、近年は人員を確保しやすい都市部を中心に、グループプラクティス化が進んでいることがわかる。
背景としては、予防歯科の普及などによる外来患者数の減少に伴う競争激化によって、開業の経営リスクをとりたくない歯科医師が増えたこと。時短勤務といった働き方の多様化などで、歯科医師1人体制では診療継続が難しくなってきていることが考えられる。
人口10万人当たりの地域差は2.2倍
表は、診療所の歯科医師数の都道府県比較だ。人口10万人当たりの歯科医師数は、東京都、大阪府、神奈川県の順に多く、鳥取県、島根県、福井県の順に少なかった。人口10万人当たりの歯科医師数が最も多い県と少ない県で、2.2倍の差異が生じている。
10年から20年の増加率に関しては、愛知県、福井県、石川県などで10%以上の増加がみられた一方で、青森県、新潟県、岩手県などでは減少に転じている。
大都市や地方都市では、診療所歯科医師数が増加傾向にあるものの増加率は鈍化しており、過疎地域では、すでに減少が始まっている。つまり、診療所の歯科医師に関しても地域在が拡大している可能性がある。
歯科医師の給与は右肩下がりだが、地域偏在の状況を見ていると、歯科医師の少ない地域への移住によって給与増が期待できる部分があるのかもしれない。
診療所歯科医師の平均年齢
53歳とやや若返り傾向
次いで、歯科医師の高齢化率を見ると、65歳以上は全国で20%、75歳以上の割合は5%となっている。65歳以上の割合は和歌山県、山梨県、大分県の順に多く、和歌山県に関しては33%にまで達していた。一方で、東京都、埼玉県、神奈川県の順に低く、一番低い東京都で77%であった。
なお、診療所歯科医師の平均年齢は53歳。診療所医師が60歳であることを考えると、相対的に若いとの見方もできる。しかし、地域によっては高齢化がかなり進んでおり、事業承継が難しい場合は廃止・減少が進むと見られる。日本の歯科診療は診療所中心であるため、地域医療への影響について留意が必要だ。
一時期、新型コロナウイルスワクチン接種を歯科医師が行うことについて議論された。仮に歯科医師の供給が過剰になっているとすれば、歯学部の定員の絞り込み、多様なキャリアパスの整備、麻酔等の一部手技の医師からのタスクシフトといった対策が必要と思われる。また、医師同様、偏在対策に関する議論を行政主導で進めていくことも考えられる。
以上、医科診療所においても、歯科の併設を含め医科歯科連携に向けたさまざまな事業展開の可能性について、考えてみてはいかがだろうか。
次回は、薬剤師を取り上げる。(『CLINIC ばんぶう』2022年10月号)
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務