介護業界深読み・裏読み
物価等高騰、介護にも大きな影響
~周辺動向を探る

介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!

光熱費 前年比で4割近くアップ

半年以上にわたるロシアによるウクライナ軍事侵攻は、世界中に暗い影を落とし、さまざまな影響を与えている。我が国も当然例外ではなく、もっと言えば、介護分野にもその余波が広がっている。特に顕著なものは、物価・水道光熱費等の高騰だ。
筆者の親しい社会福祉法人にデータを提供してもらったところ、令和4年5月分の光熱水費を前年同月分と比較してみると、実に137%となっている。諸々の事情はあるだろうが、1定員あたり6,000円を超える上昇幅ということだ。他の事業者にも聞き取りしてみると、かなり節電対応をしているところでも、やはり20%ほど増えている。年間にすると数百万円レベルのコスト増になる恐れがある。
この流れは給食費などにも及ぶはずで、春頃までは業者がなんとか飲み込んで影響を最小限に留めてきたというが、7月にはあちこちから値上げせざるを得なくなったという話が聞こえてきた。今後さらにその傾向が進むたろう。

日本医師会主導で浮彫りになったヒエラルキー

このことにいち早く対応したのは日本医師会と、先の参議院議員通常選挙でその推薦を得て再選を果たした自見はなこ参議院議員だ。7月半ばに、日本医師会が文面を取りまとめ、自見議員が全国老人保健施設協会(以下、全老健)の東憲太郎会長を通じて各団体に声をかけ、連名で後藤茂之厚生労働大臣(当時)などに要望書を提出したことは、業界メディアで取り上げられた。前回の当欄で記事にした、そのた修光氏を前述の選挙で推していた全国老人福祉施設協議会と全老健等の介護関係団体も名を連ねている。医療・介護協働と言えば聞こえは良いかもしれないか、事実上、日本医師会が介護団体を従えている構図は明白で、選挙結果も踏まえて「勝負あった」ということだろう。医療と介護のヒエラルキーが一際色濃く見えた出来事だった。

「臨時交付金」路線で出遅れた介護業界

ただ、ここで日本医師会が政府や与党に求めた内容が、決め手に欠けるものであったことは書いておかなければならない。前述の連名要望書によると、「医療機関・介護事業所等に対する、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金による支援の確実な実施」「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を積み増しし、この支援にかかる「財源の確保」という2点を求めているが、この「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」(以下、臨時交付金)は、医療や介護のみならず幅広な産業分野で活用されることを前提に「コロナ禍における感染拡大防止や影響を受けた地方経済や住民の生活を活性化させる目的」で2020年度に創設されたものだ。逆に言えば「医療や介護“にも”使える」ということに過ぎず、厚労省から今年5月になって改めて事務連絡を発出し、都道府県や自治体に対して「介護にも使っていいんですよ」とお知らせがされていることからもその脈の弱さが伺える。

実際、筆者が知る限りでも、複数の自治体で「介護以外ですでに使い終わっている」ということだった。確かに物価等の高騰はあらゆる産業に影響するものである以上、特定の分野に財源を割くことが難しいのは理解できるが、臨時交付金の積み増しがかなったとしても、介護にま「わってくる可能性は高くないだろう。以降、複数の団体が物価等の高騰対策を求めて要望活動等を行っているが、日本医師会が臨時交付金の路線でスタートを切ったことで「妻望の方向性が固定されてしまった」(介護団体関係者)といい、今後はこのなかでどれだけ戦果をあげられるかにフォーカスするしかないようだ。

ここで重要になるのは、日本医師会の連名要望書にも記載があるが、やはり医療や介護が物価等の高騰によるコスト増をサービス価格に転嫁できない「公的価格」であるという構造が、他産業とは違うという点をどう評価するかに尽きるだろう。また、物価の上昇そのものは政府として政策誘導してきたものではあるが、戦争による影響はまた別の話で、これについても事業者の責任外であり、国として特段の配慮が講じられて然るべきだ。与党関係者によると、「この物価等高騰の状況は1年どころでは終わらないと見ている」という。

今後、年末の予算編成に向けて、日本医師会や介護関係団体などから政府・与党に粘り強く厳しい状況を訴え、また知事会や市長会等とも必要に応じて協議しながら、実効ある支援策が現場にもたらされることを願っている。(『地域介護経営 介護ビジョン』2022年10月号)

あきのたかお(ジャーナリスト)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。

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