栄養士が知っておくべき薬の知識
第134回
ビタミンの1つである葉酸の摂取に注意
〜関節リウマチの治療薬について〜
今回は関節リウマチの治療薬について述べます。栄養管理においては、葉酸の適切な摂取などがポイントになります。
関節リウマチの症状
関節リウマチの患者数は約80万人とされ、女性患者が男性患者の約5倍と女性に多い病気です。リウマチ発症の遺伝子をもっている場合や喫煙や細菌曝露など、後天的な要因も発症に関与しているとされます。リウマチは急速に症状が悪化するため、初期の症状出現時にしっかりと診断してもらい早めに治療することが大切です。
初期症状として、関節の炎症に伴うこわばり、腫れや痛みおよび発熱などがあります。起床後30分くらいに症状が出やすく、夜間になるにしたがって落ち着いてきます。手指の第2関節(指の先端か2番目の関節で親指にはありません)に症状を起こすのが典型的で、左右対称に出やすいことなどがほかの疾患との鑑別点になります。「ドアノブが開けづらい」「ボタンを留めにくい」といった症状を訴えたら要注意です。
以前はなかなか診断がつかず、解熱鎮痛剤や抗炎症作用の強いステロイド薬などが処方され、その間に症状が進行して骨や軟骨が破壊され、関節の骨が腱の間から飛び出て「ボタンの穴を通る」ような形になるボタン穴変形や、スワンネック変形といって白鳥の首のように関節が曲がってしまうといった症状まで進行してしまう場合も見られました。このようなリウマチの進行は、次の4段階で表します。
ステージI(初期)はX線検査で骨・軟骨の破壊がない状態です。ステージII(中等期)は軟骨が薄くなり、関節の隙間が狭くなっていますが骨破壊はない状態で、ステージIII(高度進行期)は骨・軟骨に破壊が生じた状態、ステージIV(末期)は関節が破壊され、動かなくなってしまった状態です。
リウマチの薬物治療
薬物治療は前述のステージに応じて行われます。関節リウマチと診断されると、まずはメトトレキサート(以下、MTX)の使用を検討します。それだけリウマチにとって効果的で使用経験も豊富な薬です。
その後のステージになってもMTXはすべてのステージで考慮されます。ただしMTXを使用するにはさまざまな制約があります。リウマチは、遺伝子や後天的要因といった身体の異常を感知して免疫反応が過剰に生じ、それが関節などに障害を起こす病気です。MTXはこの免疫を抑制するため、現在または過去の感染が悪化したり、再燃してしまったりするという懸念があります。これらを十分に精査したうえで用います。
実際、新型コロナウイルス感染症においてもMTXを服用している患者さんは感染発症のリスク因子であり、またワクチンの抗体価も上がりにくいことがわかっています。このほか年齢や腎機能などを考慮して使用可否と開始量が判断されます。
MTXの投与方法は厳密に決められています。MTXの1週間単位の投与量は最大でも16mgで、これを1~3回程度に分割して服用します。分割する場合は、1回目から2回目までは12時間間隔で投与します。
またMTXを使用する場合、葉酸製剤の併用が推奨されています。MTXの薬理作用は、関節炎の原因となっている滑膜細胞やリンパ球の細胞増殖に必要な葉酸の拮抗剤として働きます。これによって炎症を起こしている細胞が減り、活動性も低下して炎症が徐々に鎮まり、関節炎が治まってくるのです。
その一方でMTXを使用すると消化器症状や口内炎、白血球減少や肝機能障害などを起こします。MTXの最終服用後24~48時間空けて、葉酸(フォリアミン®)5mgを投与することでこれらの副作用発現率が減少します。ただし、必要量以上の葉酸を摂取するとMTXの効果が低下してしまいます。色の濃い葉物野菜やきのこは葉酸を多く含みますが、食品摂取についてはそれほどの注意が必要でないにしても、サプリメントとして葉酸を過剰に摂取することは禁物です。MTXの重篤な副作用が生じた場合は「活性型」葉酸製剤が使われます。細胞内に入ったMTXは、葉酸拮抗剤としてジヒドロ葉酸レダクターゼと結合して、ジヒドロ葉酸のテトラヒドロ葉酸への還元を阻害しますが、活性型葉酸(フォリアミン®)は、この還元の必要がないため葉酸としての作用を即座に発揮できるのです。
MTX以外の抗リウマチ薬
MTXの使用が難しい場合、MTX以外の抗リウマチ薬(conventional synthetic Disease Modifying Anti Rheumatic Drug:csDMARDs=従来型の合成された疾患修飾性抗リウマチ薬)を使用します。サラゾスルファピリジン、ブシラミン、タクロリムス、イグラチモドなどです。ただしMTX使用が禁忌でない場合はMTXが優先されます。これらの抗リウマチ薬を概ね6カ月使ってなお症状の改善がみられない場合は生物学製剤(bDMARDs)であるインフリキシマブ(レミケード®)、エタネルセプト(エンブレル®)、IL-6阻害剤のトシリズマブ(アクテムラ®)、CTLA4-Ig製剤であるアバタセプト(オレンシア®)などが使われます。それぞれ関節リウマチの適応があり有効性もほぼ同等ですが、インフリキシマブだけは、マウスからつくられた蛋白由来部分があるためアレルギー反応を起こす場合があります。また、この薬の抗体ができて効果が減弱することもあり、その防止には必ずMTXと併用して使います。したがってMTXがどうしても使えないといった患者ではインフリキシマブを使用できません。また、アバタセプトはリウマチ特有の抗体である抗CCP抗体陽性例に有効性が高いことや、トシリズマブは比較的感染症のリスクが低いこと、投与間隔の違いや点滴で使う薬、皮下注射でいい薬などで使い分けられます。これらの生物学的製剤は注射薬ですが、最近になって複数のサイトカインを抑える経ロリウマチ薬としてヤヌスキナーゼ阻害剤(JAK阻害剤)が用いられています。現在は、長期使用時の安全性やコスト面から生物学的製剤が優先されますが、それとほぼ同等の治療効果が得られるのではないかと期待されています。
補助的に用いる鎮痛薬、抗炎症薬など
MTXや生物学的製剤は、抗炎症作用をもつものの直接鎮痛作用があるわけではありません。疼痛がある場合は、いわゆる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が用いられます。その際、NSAIDsを長期間使うことが多いため、胃粘膜障害の少ないNSAIDsとしてセレコキシブ(セレコックス)が使われます。また少量の副腎皮質ステロイド剤を併用することもあります。また関節リウマチはさまざまな炎症細胞によってRANKL(Receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand)が活性化して骨破壊を生じやすくするため、これを抑制するデノスマブ(プラリア®)という骨粗しょう症にも使われる注射薬を半年に一度、使用する場合もあります。
栄養管理上の注意
炎症反応が亢進するリウマチ患者は鉄の利用を妨げるヘプシジンが活性化して「貧血」が起こりやすくなります。この際、鉄補充は有効ではなく、むしろ鉄が臓器に沈着して思わぬ臓器障害を生じかねないことにも注意が必要です。薬物治療によって炎症反応が抑制されると貧血も改善してきます。2020年に関節リウマチ治療のガイドラインが発刊されました。このなかでは患者と医師が協働的意思決定に基づいて治療が選択できるとの記述があり注目するべき点だと思います。そのほか生活指導を含むリハビリテーション治療などの有効性についても述べられています。(『ヘルスケア・レストラン』2022年10月号)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授