Dr.相澤の医事放談
第30回
緊急時には法律にとらわれず
柔軟な考えと対応が必要

新型コロナウイルス感染症は「第7波」に突入、1日当たりの感染者数は全国で約25万人に迫るなどこれまでにない大流行となった。その一方、重症者用のベッドの使用率は全国平均で20%超程度と過去の流行の波よりも重症患者は少なくなっており、感染症法上の扱いについて取り沙汰されている。相澤孝夫先生は、「緊急時には臨機応変な対応をとるべき」と主張する。

一向に更新されない新型コロナ対応

――新型コロナウイルス感染症は、「2類相当」という感染症法上の扱いの見直しを求める声が聞かれるようになりました。

新型コロナがどんどん変異を繰り返しているなかで、2020年の最初の頃の新型コロナウイルスと現在の新型コロナウイルスではまったく別のものと考えなければなりません。ところが、対応方法は第1波当時のまま、現在に至っています。感染症法で「2類相当」と法律で決められたため、そのままの状態となっているからです。

一部では「5類相当」にしようという話もありますが、5類では実態把握が難しくなります。現状では、新型コロナというウイルスの性格がまだ不安定で、これから変わっていく可能性がないわけではありません。たとえば、今流行しているオミクロン変異株「BA5」は感染力が強いものの、重症化率はそれほど高くないのではないかと言われています。ただ、その指摘がエビエンスに基づいた、統計学的に公の見解として認められるものなのかというと、そこまでには至っていないのではないかと思います。
そうした状況で対応が旧態依然としたままなので、医療現場とのギャップが生じ、最前線で働く職員は疲れ切っています。第1波のときは重症の入院患者が多いことによる疲弊でしたが、現在は、外来患者への対応に追われています。

現場の疲弊や混乱は、患者への対応が明確でないことも影響していると思います。自宅療養が宿泊施設での療養か入院かの基準は、曖昧な部分があります。また、「隔離が必要」というのは、どれだけの厳重さが求められているのかも、はっきりとしません。
通知が来ないため、感染症法に基づき、現在も個人用防護具(PPE)の着用と厳格なゾーニングが行われています。当初、空気感染するのではないかと言われていたころの対応策であり、エアロゾ感染を考慮に入れた現状とは、完全に食い違っているのです。
年末の臨時国会で感染症法を改正すると言われていますが、その間、ウイルスは変異していきます。平時ではない状況でそのつど法律をつくっていたら、対応できないのはわかりきったことです。法律を変えるのではなく、たとえば、政府の臨時特例を出すといったこともできます。また、以前から提案している米国疾病予防管理センター(CDC)のような感染症の専門機関を設置し、そこから指揮命令を出せるような仕組みつくるといった、柔軟な考えが求められます。

法律が足かせとなり日本国内の治験は減少

――有事だからこそ柔軟な対応が必要ということですね。

今回の新型コロナウイルス感染症で改めて、日本という国は根本的な考え方や運用を変えなければいけないと思いました。状況が随時変化していくなかではスピード感をもって、科学的な検証を行いながら責任と権限をもって適切な対応を図っていくことが必要です。日本は前例踏襲や法律にがんじがらめで硬直化してしまっています。だから医療に限らず、科学技術なども他国に遅れてしまうのです。
先日、日本医学会の個人情報保護に関連する委員会で私見を述べさせてもらいました。個人情報保護について一般企業や産業と同様の内容を医療やヘルスケア分野に適応してしまうと、自由闊達な意見やアイデアが活かせずチャレンジできなくなると指摘しました。実際、10年前と比べて日本では治験ができなくなっています。製薬会社は、国内でできないから海外で行うといったことも聞かれます。

それこそ10年ぐらい前は、相澤病院のような民間の一般病院でも治験や臨床研究が活発に行われていました。結果は診療に活かした他院と共同研究を行ったりといったことも、臨床研究法などの法律が足かせとなり難しくなっています。現在では5分の1ぐらいの数しかないと思います。医療現場での観察による気づきはたくさんあり、かつてはそれらがいいほうに連鎖を生んでいたのですが、断ち切れてしまいました。多様性は大切にすべきことで、国はダイバーシティを推進すると言いながら、実際には逆行しているのではないかと思います。現在の医療現場は多くの人が仕事のやりづらさ、閉塞感を感じているのではないでしょうか。正直、そんな国に未来があるのかなと思います。
冗談半分で「よその国に行ったほうがいい」と言っています。(『最新医療経営PHASE3』2022年9月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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