DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
診療所医師数の現状②
―2020年医師調査から―
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、外来患者数は減少しており、診療所の閉鎖や売却の話をぽつぽつ聞くようになった。このような環境下、診療所医師数が近時どのような推移を経ているのかを見ていくことは、今後の診療所の事業展開を考えるうえで役に立つこともあるだろう。本稿では、診療科別の診療所医師の状況を見ていく。
過去10年で、精神科、皮膚科の診療所医師が急増
厚生労働省は2年に1回、医師・歯科医師・薬剤師統計を行っている。前回は2020年の末に行われ、最近、その集計結果が公開された。
表1は、全国の診療所医師が主としてどの診療科に従事しているかについて、10年と20年を比較したものだ。診療科は、比較的医師数の多い診療科を抽出し、内科系や外科系については、合算して表示した。
この10年間で、診療所医師数は9万9000人から10万7000人になり、8%増加した。診療科別の内訳を見ると、最も多い内科系は4万6255人から4万8848人と6%増加にとどまっている。外科系は4870人から3725人と24%減少しており、減少率が高い。増加率の高い診療科は、精神科が3238人から4327人と34%の増加、皮膚科が5016人から5951人と19%増加となっている。
このように、診療科によって増減は異なっている。この背景には、精神科や皮膚科の外来ニーズが相対的に高まっていることや、当該診療科の医師の開業志向が高いことが考えられる。
なお、その他について、7090人から9932万人と40%の増加となっているが、増加の内訳としては、形成外科と美容外科の合計が774人から1561人と102%の増加となっているほか、不詳の人数が86人から898人と944%の増加となっている影響が大きい。
形成外科と美容外科については、医師数の増加している皮膚科とも関連する領域であり、いわゆる美容医療への関心の高まりと関係していると考えられる。特に美容外科は、表には示していないが、40歳未満医師の割合が44%となっており、若手医師が多く参入していることがわかる。
人口10万人当たり内科診療所医師数の地域差は約2・2倍
続いて、各診療科別の医師数について、都道府県別の状況を見ていく。本稿では、紙面の関係から、20年の診療科別診療所数の多い順に、内科系、眼科、整形外科について見ていく。なお、その他の診療科については、次回以降、取り上げていく予定だ。
表2は、内科系、眼科、整形外科にかかわる診療所医師数の都道府県別比較である。
医師数が最も多い内科系の人口10万人当たりの診療所の医師数は、和歌山県、徳島県、鳥取県の順に多く、沖縄県、埼玉県、千葉県の順に少なかった。人口10万人当たりの医師数が最も多い和歌山県と少ない沖縄県とでは、2.2倍の差異が生じている。
眼科の人口10万人当たりの診療所の医師数は、東京都、大阪府、兵庫県の順に多く、青森県、岩手県、栃木県の順に少なかった。人口10万人当たりの医師数が最も多い東京都と少ない青森県とでは、1.9倍の差異が生じている。
整形外科の人口10万人当たりの診療所の医師数は、長崎県、鳥取県、佐賀県の順に多く、千葉県、北海道、岩手県の順に少なかった。人口10万人当たりの医師数が最も多い長崎県と少ない岩手県とでは、1.9倍の差異が生じている。
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本稿では、診療所における診療科との状況について、実際のデータを用いて紹介した。
診療科によって、増減のトレンドや地域差の特徴が異なっていた。日本では、病院でも外来診療が行われているため、病院の医師数も確認する必要があるものの、医師数が少ない地域では、一定の新規参入余地があるといえるのかもしれない。
次回は、引き続き、診療所医師の診療科別の状況を見ていく。(『CLINIC ばんぶう』2022年7月号)
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務