介護業界深読み・裏読み
財務省から久々の「改革案」
核心はどこに
介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!
「12の項目」に反発の声は上がるが……
4月13日に開かれた財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会で、久しぶりに財務省から、介護分野に向けた厳しい「改革案」が示された。これを受けて早速、介護事業者や関係者から反発の声があがっている。
今回示されたのは、①介護サービス提供体制の効率性の向上の必要性、②業務の効率化と経営の大規模化・協働化、③介護施設・事業所等の経営状況の把握、④利用者負担の見直し、⑤ケアマネジメントの利用者負担の導入等、⑥多床室の室料負担の見直し、⑦区分支給限度額のあり方の見直し、⑧地域支援事業(介護予防・日常生活支援総合事業)のあり方の見直し、⑨軽度者へのサービスの地域支援事業への移行等、⑩軽度者に対する居宅療養管理指導サービス等の給付の適正化、⑪介護給付費適正化事業(適正化計画)の見直し、⑫居宅サービスについての保険者等の関与のあり方、の12項目。このうちとりわけ盛り上がっているのは②、⑤、⑨で、それぞれ「財務省は小規模事業者の存在意義を分かってない」「利用者の御用聞きケアマネが増える」「要介護1・2は軽度ではない(総合事業や家族介護では対応できない)」といったところが主な反論になっているように思う。どれももっともだと思う反面、このあたりの指摘が出始めた5~6年前から反論の手数が増えたわけでもエビデンスが示されたわけでもなく、議論は深まらないまま。些か残念に感じている。
財政出動の回収に財務省はどう動く?
さて、冒頭で「久しぶりに」と書いたのは、新型コロナウイルスへの対応に追われた2020年初頭から2021年の終わりごろまで、財務省はすっかり大人しくしていて、毎春・秋の「建議」にしても、「骨太の方針」にしても、一応財政規律を書きはすれど弾は込めないというやり方が、少なくとも介護分野については続いていたからだ。当欄でも再三触れてきたように、(第7波は来るのだろうけれど)コロナ禍の出口が見えかかってきたなかで、ここ数年の財政出動(ばら撒き)を回収すべく2024年度に控える介護保険制度改正・介護報酬改定を視野に動き出したということなのだろう。
注意しなければならないのは、さまざま提言されているけれど、財務省には確固たる優先順位があるということだ。もちろん、どれも「できるならやってしまおう」というレベルで本気であることに間違いはないだろうが、高めの球をいくつも投げて、「最低ここだけは絶対確保」というやり方は、財務省に限らず常套手段だ。財務省ということだけで言えば、本能的に、財源が確保できるネタを優先する。そのため、何度目かの登板になるケアプラン有料化や軽度者外しは進めたいだろうと思う一方、攻め手にもあまり論理的な進展がないことには違和感が拭えない。実は本丸ではないのか、いざとなれば力業で行けると踏んでいるのか、それとも夏の参院選に気を遣って控えているだけなのか判然としない。前述のように反論する側も、今回もスタートで後れを取っているので、それも含めて成否は今後の進み方次第だろう。
効率性の向上(効率化による人員配置基準の見直し)や、経営の大規模化等については、財務省のモチベーションは効率化された分で生まれる余剰を削る(利益を出させて報酬で削る余地を見出す)ことにあり、政策誘導はできても収穫まで時間がかかるため歩幅が限られている。そのため、政府方針になりつつある以上間違いなく取り組まれる事項ではあるだろうが、あくまで「どこまで踏み込めるか」という見方ではないだろうか。
そういう意味では、まず利用者負担の見直しは遠からず必ず着手するだろうし、社会福祉法人以外の介護事業者にもメスを入れるという趣旨で、経営状況の把握(見える化)も抜かりなくモノにしていくのではないか。
本丸を理解し改定議論に備えよ
ところで随分昔、社会福祉法人の課税論があったとき、財務省関係者に「課税しても、実は財源的に取れ高は少ない。反発に見合うメリットはあるのか」とぶつけたことがある。そのときに関してだけ言えば「その通りだが、もらえるものは何でももらうよ」という回答だった。それに倣えば、今回もいちいち反発なり対案なりを示していかなければ「もらえるものは何でも」もらわれてしまうのだが、カウンターを出すにもしっかりと核心を理解したうえでなければ効果は薄い。古き良き業界の交渉なんてそんなものだと言われてしまうとどうにもならないが、嫌々を繰り返すだけでは実力差がそのまま制度につながり不毛な結果になることを、介護業界も学んだのではないか。核心はどこにあり、何を勝ち取るのか?それを関係者一人ひとりか熟慮しながら、来るべき制度改正・報酬改定議論に臨んでほしい。(『地域介護経営 介護ビジョン』2022年6月号)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。