経営トップが知っておきたい病棟マネジメントと診療報酬
第21回
看護必要度の改定が固まる
改定内容を理解し経営に活かそう

2022年度診療報酬改定のいわゆる「短冊(点数が入っていないが具体的な改定内容がわかるもの)」が1月26日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で示され、支払い側と医療機関側で意見が大きく分かれていた重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)およびオンライン診療に関して公益裁定が下され合意に至りました。今回は前回に引き続き、看護必要度について改定のポイントをお伝えします。
*本連載は1月26日時点の情報を元にしています。

一般病棟での重症条件と重症度割合の基準が決定

前回の連載でも紹介した2021年12月に出されたシミュレーション条件が組み合わされ、1月12日に見直し案として新しい基準案が4つと、現行制度の基準におけるシミュレーションも併せて示されました(図表1)。
特に、見直し案3と4に関係する心電図モニターの削除が全国の医療機関に大きな影響を与えていることがわかります。また、病床規模による影響も見逃せません。中央社会保険医療協議会(中医協)総会では支払い側(見直し案4を推す)と医療機関側(そもそもコロナ禍において見直すべきではない)で意見が大きく分かれたため、最終的に公益委員の裁定が行われ「見直し案3」を採用することと重症度割合の基準が決定しました(図表2)。

見直し案3になるということはA項目の3項目すべてが見直され、B・C項目は見直しなしということになります。シミュレーションでは、現行基準の場合に基準を満たさなくなる医療機関数がマイナス14.2%という結果になっており、公益裁定の結果に見直されても、一部の急性期一般入院料1に与える影響は大きいと考えられます。

図表1 一般病棟用の重症度、医療・看護必要度のシミュレーション条件と基準を満たす医療機関の増減

出典: 中央社会保険医療協議会総会(2022年1月12日)資料より筆者加工

図表2 公益裁定により決まった重症度、医療・看護必要度の該当患者割合

出典: 中央社会保険医療協議会総会(2022年1月12日)資料より一部抜粋

救急医療管理加算の改定が短冊に示されている

22年度改定で、許可病床数200床以上の急性期一般入院料1について、看護必要度IIが必須になることが示されており、IIの評価への政策誘導が進んでいます。看護必要度IIにおけるA項目「緊急に入院を必要とする状態」の判定材料となる「救急医療管理加算」について改定することが示され続けていましたが、短冊で点数以外の全貌が明らかになりました(図表3)。

大きく救急医療管理加算の算定件数が増減することが想定される改定とは言いがたいでしょう。しかし、改定内容の3に示した、一部のスコアに対して緊急入院が必要であることの根拠の記載が必須になったことについて、特に低いスコアでも救急医療管理加算の算定を積極的に行ってきた医療機関は注意が必要です。通常、JSCOやNYHA1等の低いスコアの場合には救急医療管理加算(特に加算1)の対象としない医療機関が多いと思いますが、院内の算定フローを見直し、適切に算定が行われていることをご確認ください。

注意が必要となるポイントは「適正ベッドコントロール」

弊社保有データでシミュレーションを行った結果を、以下に示します(図表4)。今回、心電図モニターが除外されたことで、新しい制度設計(便宜上、見直し案3としています)ではより在院日数が長くなると重症度割合が下がる制度設計になっていることがわかりました。コロナ禍においてベッドの稼働率が悪くなってしまうことから、在院日数が長くなることを容認していた病院は注意が必要です。現に、弊社のお客様でもシミュレーション上、重症度割合が基準を割り込みそうな病院は明らかに在院日数が長くなってしまっており、入院期間IIを超える症例の割合が高くなっている病院です。急性期病院としての適切なベッドコントロールとして入院期間IIを意識した運用を病院全体の課題として行うことが重要です。
また、前回の連載でも明記しましたが、実施した処置内容などが適切にデータに蓄積されているかどうかも重要です。データ精度について検討していない場合には、分析して他院との比較や実態と比べて低すぎる項目がないかの確認も進めておきましょう。

もう一つ、22年度看護必要度の改定について注目すべき情報があります。それは、点滴薬剤3種以上が何を示しているかという点です。本稿執筆時点では明らかになっていませんが、今後、マスタ等条件が明らかになりますのでその際に正しいシミュレーションを行うことをお忘れないよう、気をつけください。

もう、看護必要度は看護部だけでコントロールできるものではありません。最後に「看護必要度を看護部だけではなく院内に浸透したいがもどかしさを感じている」とい看護部長のケースを紹介します。皆様の病院経営にとって参考になれば幸いです。

図表4 メディフローラ保有データを活用した在院日数別の看護必要度
急性期一般入院料1×看護必要度II:在院日数別新旧重症度割合

コラム 現場で何が起こっているの!?

ここでは今回とりあげたテーマについて実際に現場で起こっている問題を提起します(特定を避けるため、実際のケースを加工しています)。

ケース:「看護必要度は看護部の責任で……」という院長に頭を抱える看護部長

急性期病棟(急性期一般入院料1とHCU・SCU)を保有する400床を超える病院のお話です。コロナ禍における経過措置で、のらりくらりとかわしていた看護必要度IIへの評価切り替えについて、そろそろ取り組まなければならないと重い腰を上げたこの病院。看護必要度IIシミュレーションで基準を下回る結果に驚愕したのです。私のもとへSOSの連絡をいただきました。

「院長先生はじめ医師や事務も『看護必要度は看護部の責任のもとで管理されるもの』と考えているようで困っています。看護必要度が『重症度、医療・看護必要度』という名称に変化したのが2014年度改定でしたが、看護部以外にまったく浸透していません。看護必要度は入院料を決定する重要なアウトカムです。医師や事務、コメディカルの協力が欠かせないことを看護部は十分に理解しているのですが、私たちが言っても話を聞いてくれません。『看護』という名称を外してもらいたいくらいです!」とは、私が講師として看護必要度勉強会を行うことを宣言した後の看護部長のお言葉。この勉強会に医師を招かず看護部と医事課、リハビリ課のみの参加とした事務サイドは、うつむき加減で話を聞いておられました。
実際のデータを拝見すると、この病院では、IIの評価になった際のA項目の処置について他院に比べて少なすぎることが発覚。そこでデータの蓄積方法を確認すると、看護部としては入力していた処置データがDPC制度上では包括になるため、EFファイル作成時にデータを削除していたことがわかりました。このことで、医事課は自分たちのデータ処理が原因で看護必要度が上がっていないことに気がつき、結果的に、確からしいデータが蓄積されるようになりました。

やっと「看護必要度は看護部がマネジメントすべきである」という考えが院内から薄まるきっかけが得られたこの病院では、次回の看護必要度勉強会で、院長先生をはじめとした医師の参加を促そう!という雰囲気が、看護部と医事課を中心につくられています。(『最新医療経営PHASE3』2022年3月号)

まとめ

  • 看護必要度改定は大筋決定!2022年度改正はA項目が改変されることになり、B・C項目は変化なし
  • 救急医療管理加算の改定も発表!算定フローを確認し適切な算定を
  • 全国の急性期一般入院料1の一部に間違いなく影響あり
    (特に適正ベッドコントロールが行えていない病院やデータ精度に課題があるところ)
  • 「点滴薬剤3種以上」のマスタは未発表のため、新情報に要注意
上村久子
株式会社メディフローラ代表取締役

うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、医療現場における人事制度の在り方に疑問を抱き、総合病院での勤務の傍ら慶應義塾大学大学院において花田光世教授のもと、人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。その後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象に診療内容を中心とした経営改善に従事しつつ、社内初の組織活性化研修の立ち上げを行う。2010年には心理相談員の免許を取得。2013年フリーランスとなる。大学院時代にはじめて研修を行った時から10年近く経とうとする現在でも、培った組織文化は継続している。

TAGS

検索上位タグ

RANKING

人気記事ランキング